第1話
死んだ魚の目をした人間をあなたは見たことあるか?
もし見たいのなら、俺を見ればいい。
俺の名前は中ノ原壮亮、25歳。
取り柄なし、人生で付き合った彼女なしの冴えないオタク。
身長172cmで男性の中では平均的だけど、長年の猫背がそれを隠し、少し太めの体型がさらに印象をぼやけさせる。
薄い茶色の髪は伸び放題で、前髪が目にかかると雑に手で払う癖がある。
脂っぽい頭皮からかすかに汗臭さが漂ってきて、鏡を見るたびに「親の遺伝のせいだ」と呟く。
普段は色褪せたグレーのパーカーと擦り切れたジーンズが定番で、コンビニの緑色のエプロンを羽織るのが俺の日常。
大学進学に失敗し親に見放されたので、安アパートを借りて寂しい独り暮らしを送っている。
親からの仕送りなんて勿論ない。お金に余裕なんて無いが責任を取らされるだけの正社員になるつもり等毛頭なく、俺は近くのスーパーでのアルバイト代(八万円程)で何とか生きている。
6畳の部屋には俺の人生で唯一の希望であるガールズバンド「Wolf」のグッズで埋まってる。
中央の大きなポスターには、マイクを持ち、眩しいくらいの笑顔をファンに向けている女性が映っている。
彼女を追いかける事が俺の生きがいだった。
アコちゃんは俺にとって「理想の女性」そのもの。
153cmの小柄な体から放たれる力強い歌声。
ステージで跳ねる姿、キャラメルブラウンのカラコンで輝く大きな瞳、下まつ毛がチャームポイントの愛らしい顔立ち。
髪色は真っ黒で、左右に分けて結んだツインテールが彼女のトレードマークだ。
ライブ動画だと、その黒髪が汗で額に張り付いて、スポットライトに照らされて艶やかに光ってる。
マイクを握って、しっとりとした声で歌い始めると、会場が一瞬で彼女の虜になる。
毎晩、その動画を繰り返し再生しては、「こんな子と付き合えたら人生変わるのかな」って心の中で思ってる。
アコちゃんの人気は凄い。
インスタのフォロワーは60万人超えで、ライブチケットは発売即完売が当たり前。
彼女の魅力は歌声だけじゃない、性格も最高だ。インスタライブではその社交的で親しみやすい性格からどんな質問にも答える。
時には際どい質問も「それ、嫌い」とハッキリと答える所も素敵だ。
ファンの期待には全力で応える姿勢と、気さくで自然体なその姿はファンの心を掴んで離さない。
彼女のファンを大切にする姿勢は、ライブ後の握手会や写真撮影会で神対応と崇められていた。
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