第22話 おっさんの俺から見たら10代後半の姫様はクソガキです。だからやれません

「姫様、どうしました? 宿が気に入りませんか? 予算 ギリギリでやりくりしてるんで、 勘弁してくださいよ」


 フィオーレ近くの宿に到着し、夜も更けた頃。シルヴィアは自分の部屋を抜け出し、コウスケが滞在する部屋を尋ねていた。

 コウスケは椅子に背をもたれさせ、ニヤつきながら言葉を投げてきた。

 シルヴィアは緊張で額に汗をにじませながら、意を決して口を開く。


「ペタジーニ殿、いえ、ゲス勇者殿、単刀直入に申し上げます」

「ハハハ、ゲス勇者殿なんて言われたのは初めてですよ。……それで何の用です?」


 コウスケはニヤつきながらも、鋭い眼光を向けてきた。

 シルヴィアは、身体を震わせながら言葉を続ける。


「あなたが行った王国認定パーティー制度の財政改革には、確かに良い部分もありました。それは、これからも引き継がせて頂きます」

「そりゃどうも」

「ですが、あなたのような自分が王国認定パーティーに関与していること自体が、我が国の尊厳と誇りを踏みにじっております」


 シルヴィアは語気を強め、コウスケを睨み返した。


「三大国がなにを考えて、あなたを派遣したのかは、分かりません。しかし、我が国が債務を背負った側だとはいえ、このようなことはとても許容できません」

「単刀直入にって言いながら、随分と前説が長いですね」

「……王国認定パーティーの管理から手を引き、速やかにこの国を去るよう求めます」


 シルヴィアは一歩前に出て、コウスケを睨み続けながら言い放つ。

 しかし、コウスケは微笑を崩さず言葉を返した。


「途中で放棄したら、いよいよ報酬がもらえなくなるんで嫌です。バレたら報酬ゼロって言われてたなか、なんとか交渉で、減額でってことで抑えられたってのに、努力が無駄になっちゃうじゃないですか」

「……ただでとは申しません。報酬の一部を私が肩代わりいたします」


 シルヴィアの緊張した声で言葉を放つ。

  だが、コウスケは相変わらず緊張感ないまま、ニヤつきながら言葉を返した。


「いやいや、財政再建中の国でそんな余裕あるんですか? まして姫様個人の資産じゃたかが知れてるでしょう」


 コウスケは肩をすくめる中、シルヴィアは緊張した面持ちで自分の服の襟元を掴み、脱ぐ仕草を始めた。

 慌ててコウスケは立ち上がり、シルヴィアの手を制する。


「ちょ、ちょっと姫様!? 何やってんですか!?」

「お金の代わりに、私の身体でお支払いいたします。ゲス勇者と呼ばれるあなたなら、こういう取引にも応じるかと思いました。……まだ経験もありませんので、あなたにとって高い価値があるのものだと思うのですが?」


 シルヴィアの声は震えている。

 無理をしているのは明らかだった。

 コウスケは大きくため息をつき、頭をかいた。


「遠慮しますよ。確かに姫様は容姿端麗だと思いますけど、若すぎます。おっさんの俺から見たら10代後半の姫様はクソガキです。だからそういう事をする気にはなりません。俺は30後半くらいなんで、もっと、歳がいった30代前半くらいの女のほうが趣味なんですよ。だからさっさと部屋に戻ってください」


 シルヴィアは羞恥と屈辱に耐えながらも、なお食い下がろうとした。

 しかし、コウスケは冷静な表情のまま続ける。


「それに、俺は、あと一ヶ月で解任されことが決定しています。だから後は姫様を含めた新パーティーが、新たな方針について話し合って決めてください」

「解任……!?」


 驚きに目を見開くシルヴィアに、コウスケは肩をすくめた。


「王国認定パーティーの財政再建が予定より順調に進み過ぎたんで、もう俺の役目は終わるんですよ。それに、俺の正体が一部の人間にはバレかけてるみたいでしてね。ほとんどの人間は信じてはいないみたいですけど、そうなる前に手を引くって話になったんです。だから、俺を追い出そうが残そうが、もう大した差はないんです。姫様がやるべきなのは俺と交渉することじゃなくて、俺がいなくなった後どうするか決めることじゃないですか?」


 シルヴィアは思わず息を呑んだ。

 確かにコウスケのやり方は、倫理的に問題があった。

 だが、彼の存在が王国認定パーティーの制度改革を推し進めたのもまた事実だ。

 そして、自分は、この男に利用されてばかりで、反発していたにもかかわらず、いつの間にか彼に情や親しみを抱いていたことに気づかされてしまった。


「……ペタジーニ殿、お世話になりました。残りの期間、どうか王国のために尽力してください」


 寂しげな表情を浮かべて、シルヴィアは部屋に戻っていった。



『いいの? こんな状況を放置しているのは、危険じゃない?』

「ほう、すげえな。そのくまのぬいぐるみは。遠隔でも気配を察知したり、魔力の乱れを感じとったりできるのか」


 シルヴィアが部屋を出た直後、マーヴィーが操るくまのぬいぐるみが部屋の片隅に座っていた。

 どうやら彼女も、この異常な空気を感じ取ったようだ。


「弱っちい召喚獣が宿の外に十匹。それとは別に、宿の中を単独でコソコソしている奴が一匹。あの金食い虫ども、このタイミングで仕掛けてくるとはな」

「あまりにも短絡的ね。焦っているのか、それともなにも考えていないのか……」

「明日は大事な直接販売会だってのに、なにか仕掛けられてパーティーメンバーが全員寝不足になっちまったら、さすがに困る。マーヴィー、外の奴らはお前が掃除してくれ。俺は中の奴を片付ける」


 くまのぬいぐるみがゆらりと動き、マーヴィーの低い笑い声が漏れた。


『楽な方を選んだわね』

「な、なに言ってんだよ? 中にいる奴は外の召喚獣を全部合わせたより、強えじゃねえか」

『分散してる分、向こうの方が、めんどくさいじゃない。それに、私はあんたの監視役は押し付けれてるけど、戦闘に手を貸す義理はないわ』

「放っといたらお前の責任になるんじゃねえのか? 後から何か言われるより、先に片付けた方がマシだろ?」

『……まあ、良いわ。このくまの実戦テストをしたいって思ってたところだし』


 くまのぬいぐるみがふわりと宙を舞い、窓から外に出た。


「さて、どうするかな。ただ殺すだけなのは簡単だが、それじゃ一銭の得にもならねえからな……」


 コウスケは、先ほどからシルヴィアをこそこそつきまとってる、ガーラントを金儲けに利用する方法を考えながら宿の廊下へと足を踏み出した。


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