第21話 ゴミみたいな企みをする元英雄とそれに気づいているゲス勇者
「父上、この件は事実なのですか!?」
数日後。自らの手で証拠を掴むことができなかったシルヴィアは、直接、王を問い詰めていた。
王は玉座に座ったまま、歯切れの悪い態度を見せた。
「わ、分からぬ。ワシはなにも分からぬ……」
「では、何故、真相を追及しないのです!? ゲス勇者が王国認定パーティーの運営に関わっているなどという話が、もし事実ならば国辱以外のなにものでもありません!」
シルヴィアの激しい言葉に、王は重いため息をついた。
「仮にお前が言っていることが事実だとして、どうするのだ? 王家にも火の粉が降りかかることが明白ではないか。下手に触れぬ方がよい」
「勿論、公にしては威信が損なわれますので、絶対にしてはならないと考えております」
「ならば、なおさら騒ぎ立てるべきではない」
「ですが、公になって欲しくないのは、三大国側も同じです! この件を外交の切り札にして、内政干渉を跳ね除け、財政再建を我々自身で行えるように交渉すべきではありませんか!」
王はしばらく沈黙した後、低く静かな声で口を開いた。
「シルヴィア……噂レベルの話だが、三大国の国々は、すでに旧パーティーの者たちへ、刺客の手配をしていると聞いている。あの国々の強者たちの実力はとてつもない。近日中に旧パーティーのメンバーは、全員始末されるだろう。このままだと、お前にもその矛が向けられる可能性がある。下手に騒がぬほうがよい」
シルヴィアは、王の言葉を聞きながら歯を食いしばる。
「もしそうなったら、王国の全軍事力を動員してもお前を守り切れぬ」
この言葉にシルヴィアは一瞬たじろいだが、すぐに決意に満ちた眼差しで父王を見据えた。
「だからどうしたというのです!? 王族ならば、国と民を守るために命をかけるのが役目ではないのですか!」
「正気か!? 余に子どもは、お前一人だ! お前が後継ぎであり、唯一の希望なのだ!」
「いざという時は、養子を迎えれば済むことではありませんか!」
「……本気で言っているのか、シルヴィア! ならん、ならんぞ!」
王は絶句し、娘をまじまじと見つめる。
ここでシルヴィアは周囲を見回しながら、声をはりあげた。
「ペタジーニ殿! この話もどこからか聞いておられるのでしょう! 私が言っていることをどう思っているのですか?」
「姫様、そんなくだらないことで、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか?」
シルヴィアと王が天井を見上げると、コウスケがシャンデリアにあぐらをかいて座っていた。彼は気怠そうに微笑みながら、跳び降りてこちらにやってくる。
「エリオが練習に身が入ってないって言ってましたよ? 明日は二泊三日で、初めての地方都市での直接販売会です。さらに初のダンジョン探索付き。初めて尽くしのことがこれから始まるのに、そんな余計なことに気をとられないでくださいよ」
シルヴィアは眉をひそめ、問い詰めるような視線を向けた。
「ペタジーニ殿。あなたは、ゲス勇者なのですか?」
「ああ、そんなことは今はどうでも良いんで、後日私の依頼主と話してください。それよりも、姫様は明日に備えて早く寝てください。もし姫様に何かあったら、私の報酬が減っちゃうかもしれないじゃないですか。だからなによりも、ご自分のことを大事にしてください」
コウスケは薄ら笑いを浮かべながら、軽く手をひらひらと振った。
シルヴィアはその意図を見定めるように、彼の表情をじっと見つめた。
◇
「えーい、どいつこいつも! こっちは命がけで重要なことを教えてやったというのに、なんだあの態度は!」
なんとか混乱から逃げ延びたガーラントは、ゴミと悪臭に満ちた裏路地で、荒い息をつきながら壁に背を預けた。
「ってかここ、臭いし、じめじめしてるし、最悪。どうしてこんな所に私達が隠れなきゃいけないの? でも、あいつら本当に馬鹿ばかりでマジでムカつく。今まで通り私達にへつらってれば良いのに……」
リリスが腕を組みながら毒づくと、隣でエレナも不機嫌そうに髪をかきあげた。
「まったくです。王国のために尽くしてきた私たちに、あんな仕打ちをするなど……聖女アキナ様。汚らわしい愚民どもに、神罰をお与えください!」
ガーラントは奥歯を噛みしめながら、拳を壁に叩きつけた。
鈍い音が湿った裏路地に響く。
「今まで紳士的にやってきたが、もう我慢の限界だ。俺たちは選ばれた英雄だというのに、どうしてこんな目に遭わなきゃならないんだ!」
「でも、どうするの? ここまできたら、もう認定パーティーに戻るのは無理だよ」
「心配ない、方法はもう考えている。愚かなこの国の人間どもの機嫌をとろうとしたことが間違いだったんだ」
「詳しく教えていただけますか?」
二人を見据えながら、ガーラントは静かに口を開く。
「二人とも、改めて思い出して欲しい。俺は将来この国の王になるはずの人間だった。なにせ姫様は、俺に心を寄せていたのだからな。今も俺のことを想い続けていることは間違いない」
「姫様がまだあんたを慕ってる? その根拠はなに? 今こんな目に遭ってるのは、あの女もゲス勇者に洗脳されちゃったからじゃないの?」
鼻で笑うリリスに、ガーラントは力強い言葉を返す。
「あいつはただの箱入り娘だ。今は周囲に影響されて流されているだけだよ。本当は俺を必要としているんだ。俺が再び手を伸ばせば、必ず俺の元に戻るに決まってる。そうなれば俺たちは再び表舞台に立てるんだ。その為に積極的に動かないとな」
「確かに。姫様の気性を考えれば、間違いなく今もガーラントに恋をしていると思います。なので婚姻も容易だとは思いますし、そうする事により、以前よりも遥かに強い権力を私達はもてるようになるのも事実です。ですが、周囲がそれを許しますかね?」
「それについては反省している。今までは色々な女を抱きながらも、姫様には手を出さなかった。純粋な男を装うためにな。だが、そうした慎重な手段が裏目に出た。だから、今回は即座に結果を出す。会ってすぐに押し倒して妊娠させるんだ。そうすれば、俺は未来の王の父親となる。王家も俺を切り捨てることが、絶対にできなくなる」
ガーラントの言葉を聞いたリリスはニヤリと笑い、エレナとリリスも期待に満ちた表情を浮かべる。
「なるほど、それなら確実ね」
「私達も可能な限り協力します」
「だが、王宮の警備は厳しく、姫様に近づくことは不可能に近い。正面から突破するだけならば俺たちだけでもやれるが、援軍が来た場合、多勢に無勢となる。なので、別の手段をとる必要がある」
「例えば?」
リリスの問いに、ガーラントは腕を組みながら考え、やがて口を開いた。
「……そうだな。あいつらは王国認定パーティーを騙っている。ならば、ダンジョン探索をしないわけにはいかないだろう。ダンジョン内ならば、王宮の厳重な警備もない。そこでエリオと、わけが分からんもう一人の奴を殺し、その隙に姫様を保護する」
「確かに、それならやりようがありますね」
ガーラントは満足げに頷きながら、言葉を続ける。
「そのためには奴らの行動を随時監視する必要がある。リリス、お前の魔法ならそれが可能だろう?」
「任せて。探知魔法は得意だから、バレることなく相手の位置を把握できるから」
やりとりを聞いていたエレナも満足そうに口を開く。
「これで私達の復権は確実ですね」
「ああ、俺たちはこの王国を手中におさめる! そして、あの愚か者どもに思い知らせてやる!」
完璧な計画が整い、自分たちの復権を確信した三人は、邪悪な笑みを浮かべた。
◇
「おーし、じゃあ今日から港町のフィオーレを目指して出発だ! 日程を確認するぞ」
コウスケは地図を広げ、パーティーの三人に向かって説明を始める。
「一日目は近辺の宿に泊まって、移動だけだな。二日目はメインの直接販売会だ。三人とも、それぞれ持ち場をしっかり確認しとけよ。三日目は近くにある簡単なダンジョンを軽く攻略する。これは短時間で終わらせるが、強そうなモンスターを倒してるように見せかける絵を撮るつもりだ。撮影は俺がするから、見映えは考えとけ」
「了解しました。戦闘の演出も考えておきます」
エリオが真面目な表情で頷くと、ヴァルドリヒが不安げな面持ちで尋ねてきた。
「あ、あの俺はなにをすればいいかな? ダンジョン探索なんか初めてだからなにやっていいか分かんないよ」
「お前は補助役だから、ダンジョンの実戦では映えない。だから、移動中や宿で神具と神薬をひたすら作っとけ」
「わ、分かった……」
次にコウスケはシルヴィアに目を向けた。
「姫様は可愛いから、戦闘でも直接販売会でも一番重要なポジションです。客寄せに期待していますよ?」
「……分かっています」
「あと、姫様は王族ですが。認定パーティーの強者が護衛をつけるのは不自然なので、今回は一人も手配していません」
「本当は、人件費がかかってあなたの報酬が減るかも知れないからではないのですか?」
シルヴィアの問いにコウスケは口元を緩めながら言葉を返す。
「はい。勿論です。ですが、なにかご不満はありますか?」
「いえ、ありません」
シルヴィアは素っ気なくつぶやき、コウスケを睨みつける。
「他に何か質問はあるか? ないなら、馬車で出発するぞ。ちなみに無駄な金は使いたくないので、馬車は俺が運転するからな」
こうして、一行は港町フィオーレへ向けて出発した。
◇
(しかし、こんなんでバレないと思ってんのかねえ)
馬車を運転しながらコウスケは必死に笑いをこらえていた。
後方の魔力の流れを感じる。
誰かが監視しているのは明らかだった。犯人は確実に、ガーラント達だろう。
(まあ、ああいうアホ共が考えそうなことは大体読める。さて、どのパターンで来るかな? どうせ浅はかな策だろうが、上手く金儲けに利用できりゃ良いんだけどな)
コウスケは薄く笑いながら、手綱を握りしめた。
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