第19話 暴徒化した平民に襲われる元英雄たち

「皆さん! 今の王国認定パーティーの財務管理を担当し、運営を管理しているペタジーニという人物の正体についてお話します!」

「そのペタジーニの正体は、なんとゲス勇者だったのよ!」

「三大国は、ゲス勇者をこの国に派遣するという暴虐行為を行いました! これほど国家の誇りを汚す屈辱的な事がありますか!?」

「そして、エストレア王国政府もそれを黙認したのです!」

「我が国の誇りである王国認定パーティーが、ゲス勇者によって弄ばれ、汚されたのです!」


 翌日、多くの人が集まる王都の市場で、ガーラント達とアーミステッドは大きな声で行きかう人々に訴えかけていた。


「皆さん、これは王国にとって由々しき問題です! 私たちはただの噂話を広めているわけではありません! これを見てください!」


 ガーラントは昨日、アーミステッドに見せてもらった証拠資料を手に掲げて見せつける。

 この動きを察知して騎士団がやってくるのは、時間の問題だろう。だが、こっちには、ゲス勇者が関与した事が事実であるという確かな資料もある。

 これを見せつければ、駆けつけた騎士団員は間違いなく、自分たちの味方になる。

 そう確信して、四人は大きな声で訴えた。


「ひ、ひえええ。旧栄光の牙の奴らだ」

「殺される、助けてくれええ!」


 だが、市場にいた人々の反応は、彼らの期待とは異なるものだった。


「皆さん、落ち着ていください。ちまたで言われている私達の悪評こそ、ペタジーニことゲス勇者が広めた根も葉もない嘘です!」

「私達はあいつを殺してなんてないわよ! あいつは今もピンピンしてる。あの映像はあいつが用意した幻影よ!」


 エレナとリリスは叫びながら手を広げ、市民たちをなだめようとする。

 そして、彼女たちの言葉を聞いた群衆の一部は足を止め、疑わしげな視線を向けてきた。


「だいたい、お前らが言ってるペタジーニって誰だよ!?」

「そうだ!? そんな奴知らねえぞ! 新生栄光の牙となんか関わりがあんのかよ?」


  思いがけない市民たちの反応に、ガーラントたちは動揺した。


「ペタジーニとは、王国認定パーティーを裏で管理していた男だ! そいつが──」

「知らねえよ、そんな奴!」

「そうだ! この前の認定式にはいなかったし!」


 群衆の一部は、冷めた目でガーラントたちを見返す。

 どうやら、市民たちはペタジーニという名前を全く認識していないようだ。

 ガーラントたちは事実を暴露すれば人々が怒り狂うと踏んでいたが、そもそもその事実が市民にとって存在しないものになっているなど想像できなかった。

 すかさず、アーミステッドが声をあげる。


「王政府の公式発表を見てください! 認定パーティーの運営者に名前を連ねています!」

「こっちは日々の生活で忙しいんだ! そんなもんいちいち見れるかよ!」


 民達の言葉に、ガーラントたちは言葉を失う。

 だが、一人の男の発言で流れはさらに悪くなった。


「おい、こいつらさっきゲス勇者とか言ってなかったか?」

「なんだてめえら、認定パーティーの運営にゲス勇者が関わってるとか言いてえのか!? ふざけんなよ!」

「悪行ばっかりして追放されたあげく逆恨みして、今度は国の権威に泥を塗ろうってのか!?」

「そうだ! 認定パーティーは国の誇りなんだよ! お前らみたいな犯罪者に騒がれる筋合いはねえ!」


 市場にいた民衆の反応が、恐怖から敵意に変わっていき、物を投げ始める者まで出てきた。

 

「なんなのよ。こいつら私達がせっかく真実を伝えようとしてるのに……!」

「やめろ! 余計に状況が悪くなる!」


 民衆に攻撃魔法を放とうとするリリスを、ガーラントとエレナは慌てて静止した。

 それを見た「おい、こいつらさっきゲス勇者とか言ってなかったか?」と発言した男は、人々に向かって叫んだ。


「おい見ろ、こいつら俺たちを魔法で殺そうとし始めたぞ!」

「上等だ! 命に代えても奴らを許すな!」

「死のうが構うものか! こいつらをここで終わらせるべきだ!」

「騎士団を呼べ! こいつらを捕まえろ!」


 激昂している群衆の勢いに押されるように、ガーラントたちは一瞬ひるんだ。これほどまでに敵意を向けられるとは予想していなかった。


「……まずいですね」

「撤退だな。これ以上は余計面倒なことになる」


 様々な物を投げ続けられながら、なんとか路地裏に逃げ込もうとする。

 しかし、アーミステッドが群衆に押し倒され、殴打され始めた。


「待ってください! 私を置いて行かないでください!」


 彼は必死に助けを求めたが、ガーラントたちは振り返らなかった。

 群衆の怒号が響き渡る中、彼の悲鳴がこだまする。


「どうする、あいつ?」

「知るか。元々あいつは仲間でもなんでもない」


 あっさりアーミステッドを見捨てて、ガーラントたちは路地裏の細い道へと駆け出した。



「やっぱり、あのガキはとんでもないブラック人材だったな。社会のためにこのままボコって殺してもらおう」


 発狂した群衆にアーミステッドが殴打され続ける姿をコウスケは、その中に紛れながら眺めていた。

 彼こそが、騒ぎをさらに煽るために最初に怒声を上げた男である。

 案の定、普段の生活に忙しい多くの平民達は政治になど興味がなく、認定パーティーを含めた国の財政と、それを関連するする人物になど関心を持っていなかった。

 さらに、平民達は、国の誇りである王国認定パーティーをとてつもなく敬愛している。ゲス勇者が認定パーティーの運営に絡んでいるなどという、常軌を逸した侮辱は絶対に許さないので、当然と言えば当然の結果だった。


( 一応紛れて、いの一番に煽ったが、勢いは予想以上だったな)


 もっと身分が高い者達であれば、これを知った時の反応も変わってくるだろうが、そういう者達は利害や立場がより複雑に絡んでくる。ゲス勇者が認定パーティーの財政再建に絡んでいるなどという話を、迂闊に口にすれば、自分の立場すら危うくなりかねない。だから、余計なことには関知せず、都合が悪い話には見て見ぬふりを決め込むだろう。


(そして身分が高い人間には既に切り捨てられてるから、あいつらは相手にもされない)


 だが、ガーラント達が大変なのはこれからである。三大国が絶対に隠ぺいしたかった事実を、あろうことか王都の市場で公にしてしまったのだ。各国の諜報機関がこれを見逃すはずがない。

 近日中に各国の暗殺部隊が動き出すだろう。それこそ、A級冒険者である彼らすらも戦慄するような、恐ろしい奴らが刺客として送り込まれるに違いない。


 アーミステッドはエストレア王国では有力な武勲貴族の三男坊だが、今回の不祥事が原因で廃嫡のうえ死刑……で、終わればまだ良い方で、問答無用で家ごと取り潰しになり、一族が全員路頭に迷う可能性すらある。全ては彼の考えなしの正義感が引き起こした結果だ。


(ってか、そんな事はどうでもいいんだよ)


 自身の正体がバレた場合は、報酬は無しになる。コウスケはそういう契約を三大国と結び、王国認定パーティーの財政再建と黒字化を引き受けている。三大国は、正体ばれることはコウスケの過失によるもの以外はあり得ないという前提でこの契約を作ったのだろう。

 しかし、今回のアーミステッドの情報源は、どうやら三大国側の内通者のようだ。

 

(俺が関与してるって聞いた奴らは誰も信じてねえし、そもそも俺の過失でバレたんじゃねえし……交渉次第ではちょびっとの減額で、なんとか乗り切れる……か?)


 アーミステッドの絶叫と暴徒化した平民達の怒声が響く中、コウスケはこの場を後にした。

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