第18話 バラ色の未来を思い描く元英雄とそれを小馬鹿にするゲス勇者

「私達の行動は全ての情報は筒抜けだったというのですか!?」

「ええ。あなた方が山奥のボロ小屋を与えられたときには、魔法盗聴箱や小型魔法投影機が沢山仕掛けられていたそうです。貴族階級の間では有名な話でしたよ」


 アーミステッドの説明を聞き、エレナは青ざめる。

 次にリリスが拳を握りしめながら、悔しそうに歯を食いしばる。


「ってか、ペタジーニが実は生きてるってどういうことよ。確かに私達はこの手で奴を殺したはず。国中にもそれが中継されていたはずじゃない! そのせいで、私達は今こんな目にあってるんだから!」

「理由は分からないですが、あの男はピンピンしています。あなた方を欺けるほど、高性能な魔道具をあのとき密かに使って幻影を見せたのでしょう。それを生中継して確実に殺したと、平民にもあなた方自身にもそう思わせたのです。あなた方をおとしめるために」


 ガーラントは拳を壁に叩きつけながら、苦々しく唸った。


「待て。どうして魔道具で幻影を見せたと言い切れる? ペタジーニ自身が幻影魔法を使えた可能性はないのか?」


 もしそうならば、A級冒険者である自分たちすら欺くほどの、魔法の使い手ということになる。そうであるならば、ペタジーニは手に負えない相手である可能性が高い。あまり考えられない事ではあるが、確かなことを把握したかった。

 このガーラントの問いかけに、アーミステッドは静かに笑みを浮かべながら答えた。


「あの男の正体から考えて、その可能性は100%ありません」

「正体?」

「ええ。ペタジーニという名前は偽名です。あの男の本当の名前が出ること自体が、とてつもない不祥事ですから。だからこそ、依頼主である三大国も、あの男本人も、徹底して正体を隠していたのでしょう」


 言い終わるとアーミステッドは、懐から資料を取り出しガーラントに渡した。食い入るように資料を見つめるガーラント達三人に、アーミステッドは語り掛ける。


「これを手に入れるのは、大変苦労しました。多額の資金を動かしましたし、情報提供者の安全を保証するのにも骨が折れました。しかし、この国際社会に強い不満を持つ者が多かった事と、あの男自身が方々から恨みを買っていたことが幸いしました」


 資料を見た三人は険しい表情でしばらく沈黙し、怪訝な面持ちでアーミステッドを見た。


「……これが、本当にペタジーニの正体だと言うのか?」

「冗談でしょ?」

「本当にヒセキ・コウスケなのですか?」

「僕も信じられなかったですよ。権威ある三つの大国が、世界の恥部と言われる敬称だけの勇者に業務を委託しているんですから」


 十数年前に発生して、約五年間続いた魔族と人間との戦争。その最中、世界中を巡り、魔族の中でも特に強靭な力を持つ魔将達を立て続けに葬り去った勇者パーティー。

 彼らは戦争を引き起こした当時の魔王どころか、魔族が神として崇める邪神すら討伐し、人類で初めて魔族との和解を実現させた世界的な英雄たちだ。

 このパーティーの人数や参加者は時々で変わったが、参加した者の合計人数は全部で約十数人。

 ただ、その結成の中心になった剣聖ジャッロ、賢者マーヴィー、聖女アキナの3人は、結成から戦争の終結まで勇者パーティーの中核を担い続けた。

 そして戦争が終結した後、勇者パーティーに参加した者達は各々が違う道に進み、その道で名を馳せた。

 ある者達は大国や大商会を率いる要職につき、政治や経済の中枢を担う立場になった。

 またある者達は、剣技や魔法など特定分野の第一人者として今日の世界に君臨している。

 しかし、公の場から姿を消し、伝説となり、神話のように語られる存在となった者達もいる。

 いずれにせよ、勇者パーティーの元メンバーは世界中から尊敬され、その名は今もなお称えられている。

 その中で、唯一の例外が、ゲス勇者、ヒセキ・コウスケである。

 この男は中核になった3人同様に、魔族との戦争中は結成から戦争の終結まで勇者パーティーにはいたそうだが、その実力は他の英雄たちとは比較にならないほど弱く、戦いとなるといつも味方の背後に隠れていたという。

 その癖、勇者を勝手に名乗り、名だたる他のメンバー達の功績を横取りして、自分が勇者として喧伝されるよう、実力を誇張して功績を捏造し、卑怯な手段で自身の立場を守るようなことばかりしていたらしい。

 それでも、戦争中は混乱の中で誤魔化せていたようだが、戦争終結後、実力と人間性が公になり、英雄としての地位を追われることになった。

 今や、彼は世界中から馬鹿にされ、軽蔑される存在となり、ゲス勇者という蔑称が定着している。

 そして他の勇者パーティーのメンバー達からは完全に縁をきられて、現在は悪行と呼ぶには恥ずかしくて情けない事ばかりして、無様に生きているという。


「三大国はゲス勇者などに重要な業務を委託したのです。いえ、そもそも関わりを持ったこと自体が大問題なのです。これは、エストレア王国にとっても極めて重要な事態です。下手をしたら国際社会を揺るがす大スキャンダルになりかねません」

「クク……ッハハハハ!」

 

 アーミステッドの話を聞き終えた、ガーラントは大きな笑い声をあげる。

 アーミステッドは国外の問題についてだけ言っているが、エストレア王国の国内でもこれは大きな波紋を広げる事態だった。

 この国の伝統と誇りの象徴である王国認定パーティーの運営に、ゲス勇者などが関与していたのだ。

 これを知ったら、平民達は勿論、高位貴族たちも激怒し、大規模な反発が起こることは避けられない。現在この国を統治する王室の信用は地に落ち、革命すら起こる可能性が十分にある。

 そうなれば、自分が新たなる王に即位することも夢ではない。

 現在内政干渉を続けている三大国もゲス勇者に業務を委託したという醜聞を交渉材料に使えば、黙らせるどころか、言いなりにさせることすら可能だ。

  一方、エレナは鋭い目つきでアーミステッドを見据えた。


「それで、あなたはどうしてこの事を私達に教えたのです? 私達を巻き込まずに、すぐにでも公にした方が効果的なのでは?」

「勿論、直ぐにでもこの事は公するつもりです。ですが、ゲス勇者の私利私欲により、栄誉ある王国認定パーティーを追放された被害者に加わっていただければ、多くの人々の共感と支持を得ることができるはずです」


 リリスは腕を組みながら言葉を投げる。


「つまり、私達を利用するってわけ?」

「確かにそう思われても仕方ありません。しかし、あなた方も今のままではただの指名手配犯。逃げ続けるしか道はない。しかし、もし私と手を組むなら、この状況を逆転することもできる。ゲス勇者を中心に据えた国際的な陰謀を暴くことで、あなた方は以前より以前よりもさらに人々から崇められる英雄になることができるんです!」


 ガーラントは低く笑いながら、アーミステッドを見据えた。


「ハハハ。なにを迷っているのだ。俺たちには選択肢がない。どう転んでも、このままでは追われる身のままだ。ならば、利用できるものは利用し尽くすまでだろう?」


 エレナとリリスは一瞬顔を見合わせた後、それぞれ静かに頷いた。

 この男は嘘をついている目をしていない。ならば己の立場を取り戻すために利用できる。3人はそう決意した。



「つ、ついにバレちまった……」


 アーミステッドの服に仕掛けた小型魔法盗聴箱の音声を聞きながら、ペタジーニ、いや、コウスケは激しく動揺し始めた。


「ぎゃああ! バレたら今回の報酬はゼロになる契約なんだぞ! いったいどこのどいつが情報を流出させたんだあ!」


 慌てふためくコウスケを横目に、エリオは部屋の片隅で紅茶飲みながら肩をすくめる。


「あのう。いつアーミステッドの服に仕掛けたんですか?」

「いや、面接の時、あいつはヤベエ奴だと思ったから終わった後に、こっそり家に行って仕掛けたんだよ。ついでに金めの落し物が家の中には沢山落ちてたんで、少しだけ拾って持って帰ったんだ」


 あまりにも姑息な行動に、エリオはため息をつきながら呆れた。


「畜生、情報提供者がいたなら、今回は俺には全く過失がねえじゃねえか。これを材料に、依頼主達と交渉するしかねえ……」


 コウスケがブツブツと独り言を呟いていると、エリオが呆れた声色で問いかけた。


「あの、ちょっと良いですか?」

「なんだ?」

「ガーラント達にバレた事には確かに過失がないと思いますが、僕には直接接していてバレましたよね? それって過失になると思うんですけど?」

「バレてるのに気づいたのは俺本人だけだから、セーフだろ!」

「あのう、賢者先生は、いつもペタジーニさんを見張ってるようだから気づいていると思うんですが……」


 長い沈黙が場を支配した後、コウスケはエリオの首を絞め始めた。


「エリオ……お前の死は無駄にしねえぞ」

「ぐっ……!? な、なんで!?」

「お前をこんな目に合わせたガーラントと依頼主は、俺が決して許さねえからな! 安心して天国に行……」


 コウスケはエリオの首を絞め続けたが、氷がはじけるような音と共に、全身が凍結した。


『まったく馬鹿な事やってんじゃないわよ!』


 コウスケの背後から、マーヴィーが操るくまのぬいぐるみが、ひょっこりと顔を出した。


『そりゃ確かに、会話聞いてたから知ってたわよ。でも、私もあんたに貸したお金を返してもらわなきゃなんないんだから、報酬がゼロになったら困るのよ。だから、言うわけないじゃない』


 コウスケは何事もなかったかのように、温和な笑顔をエリオに向ける。


「さっきのは冗談だ」

(いや、絶対この人ガチで殺そうとしてたよ)


 エリオは背中に冷や汗を滲ませながら、そっとぬいぐるみへ視線をやる。のぬいぐるみはつぶらな瞳で、コウスケと睨み合っていた。


「そうか、すまねえな。これで一安心だ。おかげで報酬の交渉はだいぶ有利にすすめられそうだぜ」

『何言ってんのよ? あんたが関わっていることが知れたら、この国は勿論、世界中が大混乱になるじゃない。どうすんのよ?」

「お前、頭が良いのになに言ってんだ? ちょっと考えてみろよ」

  くまのぬいぐるみは首を傾げる仕草をしばらくした後、ゆっくりと小さく頷いた。

『なるほどね。悪知恵だけは、戦後に急成長したようね』

「俺もさっきは動揺したが、結局はなんの問題もねえ。今回の報酬で借金はちゃんと返してやるから安心して待っとけ」


 マーヴィーはため息をついた後に呆れた口調で話し始めた。


『あんたが踏み倒すことなんて、想定内だから。私に監視を押し付けたあんたの依頼主に直接話して、あんたへの報酬は借金分を差し引いて支払いをするよう交渉済みよ。あと、私以外にもあんたにお金を貸してる奴らが、どこからか今回の話を聞いて、差し押さえの交渉をしているみたいよ』

「なんだと!? くそ、なんて金に意地きたねえ奴らだ」

『金に意地汚いのはあんたでしょ』


  そう呆れた口調で言った後あと、くまのぬいぐるみは空気に溶けるように消えた。


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