蒼の絆〜美少女になった俺は魔法を覚え、仲間と共に未来の世界を救うらしい〜
桔梗 浬
なんでこうなるのよ!?
第1話 神か人間か
『お尋ねします。あなたは神ですか? それとも人間ですか?』
真っ白な空間に響き渡る声。
それは女性のモノの様でいて無機質な機械音の様に耳に届いた。返答次第ではこの空間さえ壊しかねない、そんな気にさせられる威圧感を兼ね備えたモノだった。
『もう一度尋ねます。あなたは神ですか? それとも……』
―― なんだよ、決まってるだろ!? どこ見て言ってるんだよ。
『かしこまりました』
話は終わりと言わんばかりに、真っ白な空間が歪み始める。そして次の瞬間、強烈な光が放たれた。
その光は次第に大きくなり、心も体も全てを飲み込んでいく。
―― おいコラ! 待ちやがれ! 逃げるのかーーっ! おいっ! 卑怯者ーーっ、そこ座れーー!
形なき声の主を探しもがいてみても、音もなく真っ白な世界が応えてくれる事はなかった。
―― く、くそ。何なんだよ! っ、だ……誰だ!
薄れゆく意識の中で、レヴァンは人影を見た気がした。
※ ※ ※
「……ララさま! ウララさま!」
誰かが遠くで叫んでいる。
まったく人の睡眠を邪魔するとは、なんて非道な奴だ。
「うるさいなー」
レヴァンは声の主に抗議するべく、重い瞼を開く。
するとピチャッと水が弾ける音がして、すぐに違和感を覚えた。
何もかもが変なのだ。
何が変なのかというと……まず、自分はどうやらカプセルの中にいて、青い液体に浮いている。そしてカプセルの窓から覗く人物。それがレヴァンの睡眠を破り、叫び散らしているのだ。
状況はわかった。うん? 本当か!?
この状況を受け入れるレヴァンもレヴァンなのだが、それでも受け入れられない事態が……。
重い体を動かす。
腕を動かすと、白い腕が青い液体から顔をのぞかせた。ここまでは良いのだ。その腕が問題だった。
細いっ。細すぎるのだ。鍛えあげた上腕二頭筋もなければ色白で……まるで女性の腕だ。
さらに右足を挙げてみる。
すると腕と同じく、スベスベの白い足が現れたのだ。自分の意思と同じ動きをする。どう見ても自分の足だ。
まさか、この液体は脱毛、お肌スベスベになる魔法の水か!?
レヴァンは慌てて頭を確認した。先程までどっぷり液体に浸かっていたのだから、考えが正しければ今頃はツルツルに……。
パシャパシャ、と水が跳ねる音で気づく。
髪は無事。というより胸元を隠すほど長い。体に張り付いた髪は自分のソレとは違う銀髪だった。
「な、何だ?」
濡れた髪の下に、小さな山が二つ……。
「……」
むにゅっと柔らかい。こ、これは!?
慌ててレヴァンは脚の付け根を探る。
「ない! な、な、な、なーーーーーーー!」
無いのだ。
小さなお山の胸元といい、白いスベスベの肌。ましてや生まれてから共に歩み続けた大事なモノが無いのだ。これはどう考えても女性のホルム。
どんなに冷静なレヴァンも、この状況にあたふたするしかない。おかげでゴーーーンと物凄い音をたて、カプセルの天井に頭を打ちつけた。
「いってぇーーーっ」
必死に痛みに耐えているとカプセルのフタがプシューと開き、先ほど吠えていた人物が飛び込んできた。
「ウララさまぁ〜! よかったぁー、目を覚ましてくれたーー」
その人物はレヴァンをウララと呼び、勢いよく抱きついてきたのだ。
「ちょ、は、離れろ」
おいおい泣く人物を押し戻そうとするレヴァンの発した声は、可愛らしい少女の声だった。
―― お、俺……女になったってことか!?
訳がわからないなりにも冷静さを取り戻したレヴァンは、胸元で泣き叫ぶ人物を観察する。
髪は栗色、長い髪が液体に触れぐしゃぐしゃだ。顔はまだ見えないが、肩に触れる感触からして多分女性、まだ幼そうだから少女というべきか。
「泣くな、泣きたいのはこっちだ」
パニックに陥るべき状況の時、冷静に物事を見極める術を叩き込まれてきたレヴァンにとって、この常識を逸脱する場面を、分析モードに切り替える。
体の痛みはない。指もちゃんと動くし、話すこともできる。……ということは?
―― 俺のカラダ……どこにいったんだ?
胸元で泣きじゃくる少女を支えながらレヴァンがそんな事を考えていた時、今度は蜂が飛ぶような不快な音が頭上から聞こえてきた。
『ジーー、ウララ 死ンダ! ウララ 死ンダ』
発信源と思しき頭上に目線を向けると、そこには小さな球状の物体が大きな羽を小刻みに揺らしながらホバリングしていた。
「あーもう、
『ジーー、ウララ 死ンダ! ウララ 死ンダ。コイツ偽者』
少女はやっとレヴァンから離れ、球体
「偽者なんかじゃないわ! スカイ・パルルから落下したウララさまをここまで運んだのも私たち。そして回復の泉の液体で治療を始めてからずっとそばにいたのよ。替え玉なんてむり!」
『ジージジジ』
「それに、いくら脱走魔のウララさまだって、こんな単純なシナリオはつくらないわよ」
少女の勢いに
ある程度言いたい事を言ってスッキリしたのか、少女がレヴァンに向かって「そう思うでしょう?」と意見を求めてきた。
そう思うも何も、レヴァンはレヴァンであり、
「何とか言ってください、ウララさま!」
腰に手を当て、ぷくーっと膨れている。
さっきはガラスにへばりついた変顔しか見れなかったが、こうしてみると普通に可愛い。
おっと、そんな分析をしている場合じゃない。
レヴァンは姿勢を正し、少女を見つめこう続けた。
「そう思うも何も……おたく……どちら様?」
ヒューっと冷たい風が、部屋中を冷やした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます