第5話 全てに宿る金星5
あまりにも
隣に引っ越してきた
当然のことながら
「本当にクさんには驚いたよ。まさかあんな可愛い子に手を出してさ〜」
「誤解を招くことは言わず、トッポッキでも食べろワタ」
「そんなことを言うと、カンちゃんに言いつけるよ?」
「カンちゃん?ああ、
「何でって、クさんは基本的にやせた子を見たらお腹いっぱいにしたいんでしょう?」
「人を田舎のおばあさんみたいに呼ぶな」
少し怒った顔で
「フフッ、このトッポッキも実はあの隣の子のために作って待ってたんじゃないの?」
「……」
図星だったのか
「……今からでも呼ぼうか?私たち、今食べ始めたし」
「いや、いい。無理に誘うと嫌がるかもしれないから……」
そんな
そしてすぐ、にやにやした顔でお皿に入ったトッポッキをフォークでくるくる回しながら言う。
「なに?なに?それを知っている人が高校の時私とサイ弁を巻き込んだの?」
「その話はやめてくれ。あの頃は……私もクソガキだったから」
「こんな時はこのワタ姉さんに任せろ〜!」
「は?おい、ワタ!お前また何を――」
ピンポン〜!
「ごめんください〜!お隣ですが、ちょっとよろしいでしょうか〜?」
その行動力に
「は、はい?」
当然のことながら
「ひ、ひいっ!」
そのまま拉致するかのように
「食事はみんなで一緒にしてこそ!おいしいものだからね!」
「???」
「ごめん、カナさん。ワタのやつ強引で……」
「ひっどい!クさんが焦れったいことをするから私が手伝ってあげたのに――うっ!?」
やはり子供も大人も口に何かを入れておけば静かになる、という真理を改めて悟りながら
「気まずければ無理している必要はない。大人たちとご飯を食べて楽しいこともないし」
「い、いえ……むしろ私の方こそお二人の時間をお邪魔したようで……」
「「うん?」」
そんな
お互いにその言葉の意味を気付くに三秒。先に気づいた
「プフフ!まさか私とクさんがそんな仲だと思ったの?かわいい〜」
「ち、違いますか?」
少し戸惑った
「まったく、ワタのやつとはただの高校の同級生だ」
「ほぼ十年近い腐れ縁だから半分は兄妹みたいだね〜私がお姉さんで」
「強いて言えば、お前は面倒くさい弟じゃないか?私はお前を女性として認識できないからな」
「何いいいっ〜!こんな美少女にそんなこと言うなんて!」
そうして
「フフッ」
「す、すみません!こうやってみんなで食べる食事は……久しぶりなので」
その瞬間――
カチッ!
そんな不明なスイッチが入る音。その音とともに、
「かわいいぃぃぃぃぃっ〜!何だ、この愛らしい生き物は!?こんなものが三次元に存在するとは!クさん、この子を私の家に連れて行ってもいいよね?!うん、連れて行くね〜!」
「やめろ、こら!」
勝手にスイッチが入って暴走する
「カナさん、あいつ
「バイ?」
「ひどいよ、クさん!私はただ美少年と美少女を愛しているだけだよ!あ、ちなみに美中年もね!」
そんなとんでもないカミングアウトをする
「ところで、どうしてクさんと呼ぶんですか?
「あ、それはね、高校の時――」
「言うな、こら」
「まったく〜クさんはいつもツンデレなんだから……今の時代、ツンデレ男は需要ないのに〜」
「誰がツンデレだ。誰が」
よほど「クさん」というあだ名の所以を言いたくない気がして、
「でもさ、なんかこういうの楽しいね!そうじゃない、クさん?」
「お前だけだけど」
そんな
「よかったら私たち毎日この時間に一緒にご飯食べようか?もちろんクさんの家で」
「で、でもそれでは
「この前言ったように、一人も二人もお箸をもう一つ並べる違いだ」
「三人は?クさん、三人は?!」
「ああ、三人に増えても変わらない。いいか?」
しつこい
そんな中、
「あ、今日はライブ配信の日だった!私、もう行くね!」
その言葉とともに、
「まったく、あいつは疲れないのか……」
「ワタさんは放送と関するお仕事をなさっているようですね」
「うん?ああ、あいつVTuberなんだ」
「VTuber!?……なんか、すごいです!」
走り出す
そういえばここ数年、子供たちの間でVTuberが憧れる職業の一つという調査結果を思い出した
(そういう所はまた子供らしいのにな)
でも
また隣の子が栄養失調で倒れたら困るから。
(そもそもあの男がちゃんと父親していれば、こんな心配もいらないのにな)
この前、友人のサイ弁に頼んだのが三日前。調査は十日ほどかかると言ったので、これから長く見積もって一週間ぐらいだ。
――もし
「あ、
まるで何か忘れたことを思い出した声で
「あの……これ」
そうして
五千円札だ。
「???」
それがどういう意味なのか分からないという顔で
「お、お返しをするつもりだったんですが……何にすればいいのか分からなくて……私のせいで病院代も代わりに払わせたので、少なくとも埋められるように……」
「……」
震えながら握っている五千円札を見て、
そしてゆっくりと
青玉のような青い目が鏡みたいに映る。その中にあるのは白髪の
青い瞳の中に映ったその唇からは氷の息吹が出てきた。
「別に……お返しを求めたんじゃない。その気持ちだけありがたくいただくよ」
そうやって
「だめです!」
急に声を上げた
「わ、私は悪い子ですから……善意を当然だと思ったら、だめです!」
そんな
だが、その次の聞こえてくる言葉、それによってあの言葉が出てきた根元を悟った。
「じゃないとパパにも……!」
その言葉に
たぶんあれは
(……パパ、なのか?)
こういうのは断ったら逆効果だ。
隣で……部外者から見れば、たいしたことでもないものが当人にとって何よりも、命よりも大切なことかもしれないからだ。
――そして
「……分かった。ありがたく受け取るよ」
「!」
優しい口調で
軈て、不安に震えたその瞳は――
「あ、ありがとうございます!」
今まで見た中で、一番満開の顔で笑った。
「……」
その微笑みに
間もなく、ぴょんぴょん飛び出すローファーの音が
「あの、おやすみなさい。
「……ああ、カナさんもおやすみ」
こうして二百一号室のドアは固く閉ざされた。
「……」
作り笑顔を解いた
三日前に本人も知らないうちに切られたところは、
傷も絆創膏もない手の甲。それを見ながら
「絆創膏だけで……十分だったのにな」
そんな苦々しさがこもった声で――
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