東京県士は秋葉原を満喫する。

 津流義がまず案内したのはオタクとサブカルチャーの文化流行発信地、秋葉原であった。

 しかし、ここはただのオタクの街ではない。戦後からアメリカなどの海外から流通した電機製品の闇市でもあり、時代が経つにつれ、様々な最新技術を取り入れ、今では最先端陰陽科学技術がもたらした幻術ホログラムが道路とビルの間を占め、アニメキャラやメイドを模した最先端の絡繰ロボットが呼び込みしていた。

「WAO! なんて未来的な街ね! サイバーパンクみたい!」

「ああ、あそこで昼食を取ろう。」

 感嘆するクリスを連れて、津流義が指差したのは秋葉原中央ビルの最上階であった。

「ビルの最上階って、まさか、高級レストラン!?」

「いや、秋葉原らしい飲食店だよ。」


 緊張するクリスと共に津流義が入ったエレベーターが開くと、そこには中世の西洋城のような内観が広がり、青いカーペットの両側に女騎士の甲冑にメイドのようなフリルやスカートなどを併せ持つ衣装を着た女性たちが並んでいた。

「お帰りなさ…」

「お帰りなさいませー! 私の騎士団長様ー! この土御門秋風副騎士団長が迎えに来ましたー!」

 橙色のツインテールに、紅葉の瞳を持ち、眼鏡を掛けた騎士メイドが津流義を抱き締め、エレベーターの壁を突き倒れた。

「副騎士団長! 特定の顧客を懇意するなんて、メイド違反ですよ!」

「黙らっしゃい! この店のメイド長兼店長である私が津流義様の貞操を護る義務があるのです!」

「あっ、あの〜。」

 秋風がクリスに気付き、彼女を一瞥した途端、表情を蒼白に変貌させ、のびた津流義に涙目で訴え、胸倉を強く揺らした。

「誰なんです、この女!? まさか、浮気ですか!? 許しませぬ、許しませぬ! こうなったら、私特性の洗脳薬を…!」

「ちっ、違…彼女は…あわわわわわ!」

「ちょっと!? このままだと、津流義さんが!?」


 津流義は秋風に事情を説明し、彼女を落ち着かせた後、やっと席に着いた。

「この娘は土御門秋風、秋葉原の技術長で、この街の広告に使われる幻術ホログラム絡繰ロボットを開発した陰陽師なんだ。」

「陰陽師が科学者だって聞いていたけど、何気に著名人なのね。」

「津流義様、幼馴染で、許嫁(自称)なのが抜けてます。私の目が黒いうちは津流義様に色仕掛けは許せませぬ!」

 津流義の紹介に胸を張り、鼻息を立てる秋風は二人にオムライスを差し出す。

「それではサービスの呪文を言いますね。我が愛しの騎士団長様、貴方様の栄光に我が慈愛を捧げます。愛創造魔法、萌え萌えキュン!」

 秋風が手の指で作ったハートから幻術ホログラムの桃色光線が放たれ、津流義のオムライスに掛けられると、そのオムライスは不思議な虹色サイケデリックに輝き出した。

「ありがとう、いただくよ。はむっ。」

 津流義は異様と化したオムライスに躊躇せずに口に頬張り、食した瞬間、彼の身体も不思議な虹色サイケデリックに輝き出した。

「Oh…ナニコレ…?」

「これこそが私の開発した幻術ホログラム細菌絡繰ナノマシンを仕込ませたオムライス! 私の心拍数や体温などで愛を数値化させ、光り輝かせます!」

 苦笑するクリスに対し、意気揚々に解説した秋風。

「これを私も食べるの?」

「ああ、大丈夫です。貴方とは初対面ですし、そんなに光り輝かないと思いますから。」

 秋風の素っ気ない態度に、クリスは皮肉にも胸を撫で下ろした。

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