東京県士はアメ横を流離う。
上野アメ横商店街、アメリカの舶来品か飴屋のどちらかが多いことから名付けられたその商店街はかつて世界大戦後の物資不足を補う闇市でもあった。
上野駅と御徒町駅の狭間に位置する歴史ある商店街にある【肉屋アメヤミート】にて、コロッケを手渡された一人の青年がいた。
「はふっ、はふっ、もぐっ、もぐもぐっ、ごくん!」
それはコロッケを夢中に頬張る、東京タワーの家紋が付いたスーツを着た黒髪黒瞳の青年『大和津流義』。
「いいって事よ、東京県士の津流義様がいりゃあ、もてなすっていうのが礼儀だってんだ。しかし、流石だな、津流義様、俺の作ったコロッケを美味しそうに食ってやがる。」
肉屋の店主である坊主頭のおじさんが津流義に微笑んだ。
「はい、とても美味しいです。馬鈴薯の蕩けるような甘さと肉の旨みが合わさって、カリサクッの衣が絶妙に、何とその…美味しいです…」
上手く食レポが出来なかったことで、俯いた顔を赤く染めていた。
「はっは! 気にすんなよ、東京一の色男! そういう奥手な所がモテるって雑誌に書いてあったぜい! もう一つ、おまけするよ!」
「はっ、はい…ありがとうございます。」
「全く、うちの娘に会わせたいものだが、あの野郎、友達の家に泊まるって言って、昨日から帰って来てないんだ。全く、大ファンなのに。」
再び、コロッケを頬張った津流義はクールな表情を変えず、目を輝かせるだけで喜びを伝えた。
大和津流義、大和神技流剣術の免許皆伝者にして、日ノ本の神代に伝わりし勇者、大和武命の子孫。しかも、現総理大臣『大和仁』の御子息である。
そんな彼は渡されたもう一つのコロッケを食べようとすると、
「excuse me。」
英語が聞こえた方に向くと、ブロンドの長髪に、青い瞳を持つ外国人の少女がいた。
「Hello…日本語はショウショウ学んでいますが、え〜と、アキハバラ、アサクサ、シンジュクに行きたいのですが…」
「秋葉原、浅草、新宿…?」
津流義が見れば、彼女の背には重く大きいナップサックを背負い、初春の冷え込みに対する少しの厚着を着ていた。
彼はそんな彼女に顔を綻ばせ、丁寧に挨拶した。
「良ければ、俺が案内しましょう。あと、このコロッケを如何ですか?」
津流義は外国人の少女にコロッケを手渡し、彼女は頭を下げた。
「あっ、ありがとう、ゴザイマス。センキュー。私の名前はクリス・クリストファー、デス。ヨロシク、お願いします。」
「俺は大和津流義と申します。よろしくお願いします。」
「おっ、早速仕事かい。外国の嬢ちゃん、幸運、いや、ラッキーだねぇ。東京一の有名人に案内されるなんてな。」
肉屋の店主は手を振りながら、東京ツアーに意気込み二人を見送った。
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