理想の異世界転生! って違う、そうじゃない!

平野とまる

第1話

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!」


 水面に映った自分の姿を見て、相沢あいざわ 宗助そうすけは叫び声をあげた。


「ええええ? 聞いてた話と違うよ⁉ 理想の姿になれるんじゃ? これじゃ、理想の異性の姿……まさか!」


 宗助は大混乱しながら叫び続けていれば、ふと自分をこの世界に送った人物が言った言葉を思い出す。


『選ばれた君は、理想の姿で理想の力を持ち、理想の世界に行けるんだよ』


 神なんて自称したその人物は、そう言っていた。

 そして、今の自分は理想の異性の見た目をしている。

 実際今の宗助は、150cmをちょっと超えたくらいの身長に、女性と見紛うほどの体つきだ。

 紫色のミディアムウルフヘアに、パッチリ二重の青い目が印象的な、女性としてはちょっと気の強そうなクール系美人と言う、間違いなく宗助のド真ん中ストライクの見た目だ。


 そんな見た目なので、慌てて宗助は自分の体をまさぐった。

 胸は、無い! いや、微妙にある? あっ、これ筋肉だ。

 身長が縮んだせいでダボダボになっているトレーナーをめくれば、腹筋が六つに割れていた。

 まさに自分が望んでいた惚れ惚れする肉体で、確かにこう言う点も理想通りではある。

 と、宗助にとって非常に大事な事を思い出し、ズボンを広げて自分の下半身を見た。


 ある! 宗助の宗助があるぅぅぅ! しかも、転生前は大きくなっても小指サイズだったのに、小さいのにすでに日本人男児の平均サイズくらいある! コンプレックスが解消された! 嬉しい!


 なんて歓喜に包まれながらあほな事を宗助は考え、神に心からの感謝を捧げる。

 そんな場合じゃないと言うのに、たっぷり5分ほど感謝した後、再び水面に映る自分を見てやっと宗助は現状を思い出した。


「そうだ! そんな場合じゃない! この水って飲めるんか?」


 神から異世界に転生されたそうなのだが、残念な事にそこは森だった。

 仕方なく彷徨って数時間、喉が渇いてきた所に澄んだ湖を発見したと言う訳だ。

 ちなみに体は全然疲れてなかったりする。

 これも、現代日本のもやしっ子だった宗助からは考えられないことで、無尽蔵の体力も理想の結果と言えるだろう。

 何故か全然本人は気が付いていないが。


 と、宗助は生水が危ない事を思い出す。

 確かに自然界での水は危険だ。

 一見綺麗な川でも、上流で獣が横断しているどころか糞をしていたり、そもそも有害な物質が溶け込んでいる可能性があるからだ。

 だからこそ、1度沸騰させたりろ過したりしないといけない訳だが、黒のトレーナーに青のジーンズ姿で、スマホと財布しか持っていない宗助はどうしたら良いか何も思いつかない。


 せめてサバイバルの知識があれば、手持ちの何かで対応できたかもしれないが。

 いかんせん中学卒業し高校入学を控えた、ちょっと陰キャよりだった宗助だと何もできないのも仕方ないだろう。

 右往左往するものの、こうなれば直接飲むしかないかと言う短絡的な考えに宗助は至ってしまった。


 そして、宗助は危険と知っている割に、ごくごくと豪快に水を飲みだす。

 これは、単純に何も考えていないだけだ。

 思考回路としては、危ないけどもう飲むしかないよね。から、飲むと決めたらめっちゃ喉乾いた! ガブガブ飲んじゃう! ってな具合だ。


 もし宗助の体が変わってなければ、とても大変なことになっていただろう。

 が、そこは理想の体である。

 なんと、その程度の事じゃ全く問題なく、結果として宗助の行動は正しい――かはさておき、体には何の問題もなかった。


「……お前、私の湖で何しているの?」


 そう、湖にはヌシが居て、湖の水を許可なく飲めば怒らせると言う問題は発生してしまったのだ。


「ぐぼふぉっ、ゲホゲホ、は、鼻に水が入ったよぉー。うええええ」


「いや、あの。ほんと何してるの? 大丈夫?」


 しかし、普段なら湖の水を飲まれれば激昂する湖のヌシが、非常に困惑した表情で宗助へと問いかけた。

 彼女は、人魚であり、下半身が魚の尾となっていた。

 そして、上半身を纏う布越しにも分かるほど、大変立派なお胸をお持ちであり、かつ宗助の様な偽物と違って完全なクールビューティーさんだ。


 彼女は実に混乱していた。

 いや、最初はこの無礼者の女を水に引きずり込んで溺死させるつもりだったのだ。

 だが、いざ水面に近づいたと思ったら騒ぎ出し、何やら衣類を捲り出しこいつ狂ったのかと、先ずそこで最初の困惑が訪れた。

 続いて、がばっと下半身を確認しだした時に、水の中に居ても分かる濃厚なオスの匂い。


 間違いない、この人間は男であり、きっと女性から身を守るため健気に女性と見紛う姿を獲得する努力をしていたのだろう。

 人魚は確信する。この男は天からの授かりもので、私が性的にも食料的にも美味しく食べるためにここに来たに違いない。絶対に!

 だから、不用意に人間が飲めない状態の湖の水を飲もうとし出したので、慌てて何よりも澄んだ上質の媚薬に変えて男に飲ませた。

 ら、なんか異常な勢いで飲むのが心配になり出てきてしまったという形だ。


 声を掛けたら苦しむとは思わなくて、しかし発情している訳でもなさそう。

 即効性がある媚薬はずなのにと思い悩む人魚は、しかしどうしてよいか分からずに困り果てて再度声を掛けたと言う訳だ。


 だがしかし! 変なところに媚薬が入ってしまった宗助はそれどころではない。

 たっぷり苦しみまくって、顔をぐちゃぐちゃにさせたのち、ようやく人魚の姿に気が付いた。

 ちなみに、この時の人魚は苦しむ美男子の顔ごちそうさまですと思っていたり。


「ああ、ごめんなさい。この湖に住んでいらっしゃる方ですかね?」


「はい、そうですね。あなたの嫁ですよ」


 ん? と宗助は思った。

 嫁? 聞き間違いだろうか?

 しかし、あまりにも堂々としているし、でも、その割にやたら鼻息が荒い美人さんだな。

 って、下半身が魚⁉ 人魚⁉


 絶賛大混乱である。

 その時の人魚は、ただただ自分を見つめてくれる男に興奮し、脳内であんなことやこんなことを妄想している。

 とてもスケベだ。


「あの、えっと、僕達初対面だと思うので、嫁と言うのはちょっと違うかと」


「大丈夫です、私は精力が弱いので、続けて3~4日くらいしか致しませんし」


「え? なんだって?」


 どこかトリップしたように話し続ける人魚だが、宗助はその言葉があまりにもぶっ飛んでいるせいで、思わず聞き返す。

 3~4日ぶっ通しで何をするつもりなのだろうと。


「ですから、貴方を種を私の卵にぶちまけるのです。100回もぶちまけてくれたら精力の弱い私はきっと満足できます。うふふふ、ぶっ壊して差し上げますからね、私の旦那様」


 ヤベー奴だ! 元々様子がおかしい人(?)だなとは思っていたが、こいつは痴女を超えた何かだ!

 もはや衝撃で声も出せなかった宗助は、頭の中でそう叫ぶ。

 そして、体を反転させ、一目散にその場から立ち去った。


「あっお待ちな……人間の癖に早い! ああああああ、私のディルドがぁぁぁぁぁぁぁ! さっさと引きずり込むんだったー!」


 背後から凄まじい叫びが聞こえ、超美人さんからそんな言葉聞きたくなかったよーと、宗助はそんな事を思うのだった。

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