第18話 運命に抗うのではなく、受け止める覚悟

夜が明ける頃、私はまだ彼の腕の中にいた。


ルシファーは、変わらず無言だった。


けれどその腕は、まるで決意そのものだった。


この人は、私に言葉で誓う代わりに、

体温で、吐息で、触れ合いで、何度も何度も「愛している」と伝えてくれた。


(私に、すべてをくれた)


心も、王座も、未来すらも――。


◆◆◆


「……もう、逃げない」


ベッドを抜け出し、陽の差す窓辺に立つ。


カーテンが風に揺れて、光が頬を撫でる。


私はずっと、「普通の女の子」でいたかった。


貴族の令嬢で、上品に微笑んで、何も知らずに誰かに愛されて。


でも今は違う。


ルシファーが全てを捧げてくれたから。

あの夜に、あのキスに、何もかも込めてくれたから。


私も、もう「知らないふり」はできない。


「ルシファー」


呼びかけると、ベッドの上の彼が静かに目を開けた。


金の瞳が、私を見つめる。


「私……あなたがくれた愛を、無駄にしたくない。だから、知りたいの。自分のこと。……私が、“何者なのか”を」


「……それは、簡単な道ではない」


「うん。怖いよ。でも、あなたが信じてくれるなら、私も信じてみたい。自分のことを」


彼がベッドから立ち上がり、歩み寄る。


そして、私の頬に手を添えて、そっと囁いた。


「ならば、共に知ろう。おまえの正体を。……おまえ自身の手で、過去を取り戻せ」


私は頷いた。


これから何が待っているのかはわからない。


記憶の封印の先に、どんな真実があるのか。

それが私にとって耐えられないものかもしれないと、不安はある。


でも、それでもいい。


だって私は、“選ばれた”から愛されているんじゃない。愛されて、だから“選び返したい”と思ったんだ。


「まずは……あの封印の回廊に行きたい。始源の魔族について、私の血について、何か残っているかもしれない」


「案内しよう。だが――“真実”を知る覚悟はできているか?」


「できてる。……だって、もう私、ひとりじゃないから」


ルシファーの表情が、ほんの少しだけやわらいだ。


そして私は、その手をしっかりと握り返す。


(始まる。私自身の物語が、ようやく――)


第一部 完

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