⑤ 同僚たちとのエピソード
【美香】
入社当初は、百海ちゃんは、同僚のひとたちに、
「得体の知れない生物」
みたいに思われてたけど、のちに巻き返してだんだん信頼が厚くなってきたのよね。
その後のことをもう少し詳しく聞かせてくれない?
【百海】
うん。それが、今までとは打って変わって、みんな仲良くしてくれるようになって。
あたしはそれまでだいぶ遠慮して気を使ってたんだけど、学生の子らに
「何、気使ってるんですか!」
ってえらく叱(しか)られてしまってね。
それ以来あたしは本来の自分丸出しで彼らと接するようになって。とても楽に仕事ができるようになったわ。
【美香】
へぇ! かなり年上の百海ちゃんに対して、なかなかやるわね。でも、それこそが百海ちゃんが認められた証拠よね。
【百海】
そうかもね。
それで、うちの居酒屋には、「サイン」アプリのグループがあって、そのグループに入れてもらえることになったの。そしたら、学生の子らからしょっちゅう、
「シフトの交代お願いできませんか。」
とか
「ここのシフト、代わりに入ってもらえませんか?」
とか頼まれるようになってね。あたしはフリーターの身だったから、基本的にすべて喜んで交代したり代わりに入ってあげたりしたものよ。
【美香】
へぇ! 変われば変わるものね。大逆転じゃない。
シフトの交代や代理を百海ちゃんが逆に彼らに頼むことはなかったの?
【百海】
ほとんどなかったわね。フリーターという立場上、基本は決められたシフトを変更するのはあまりいいことじゃなかったから。
フリーターは安定してシフトに入ることが役目だったからね。
【美香】
そっかぁ。他に彼らのことでエピソードは?
【百海】 そうねぇ。おそらく大将からあたしの病のことを知らされていたんだと思うけど、あたしを傷つけるようなことは誰も一切言ってこなかったわね。
その代わり、後日、大将がまとめて、言いやすいタイミングを見計らって苦情や要望を伝えてこられたわね。
【美香】
なるほど。彼らは若いんだし、本当は言いたいこといっぱいあるんでしょうけど、彼らの精いっぱいの優しさであり、配慮だったのね。
ほかに何か思い出に残ってるエピソードはある?
【百海】
そうねぇ。あたしは音楽が好きで、はやりの音楽にも詳しかったから、彼らに最新の音楽の話をしてあげると、とても喜んでくれたわね。
まぁ、音楽くらいしか若い子らにはついていけなかったんだけどね。
【美香】
そっかぁ。ただ彼らと仕事をこなすんじゃなくて、ささやかな楽しみも彼らと楽しめていたのね。
ほかには?
【百海】
あたしは大将のご配慮で、正月三が日はシフトを免除されていたんだけど、
2年目のときに、元旦にシフトに入っていた学生2人がインフルエンザにかかってしまってね。
それで、「サイン」のグループであたしが急に呼び出しがかかったことがあったわ。
三が日は恐ろしく忙しいからということであたしは免除されていたんだけど、
空いているのがあたししかいなかったみたいで、そうもいってられなくなったんでしょうね。
【美香】
え! 大丈夫だったの?
【百海】
うーん、確かにかなり忙しかったけど、あたしにすれば特に普段と変わらない感覚だったわね。散々脅(おど)されていたから、入るまではびくびくモノだったけどね。
【美香】
そっかぁ。ということは、もうその時点で、百海ちゃんは、ほとんど何不自由なく業務をこなせるレベルに到達していたんじゃないかな。
【百海】
そうなのかなぁ。だとしたら知らない間に成長ってするものなのね。
【美香】
そうね。そんな百海ちゃんなら、今後も何があっても大丈夫よ!
【百海】
そっかな。ありがとう!
【美香】
うん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます