第二章 継承

一年後

第1話

―――出せない手紙を書いている。



もう何度目になるだろう。時折溢れ出してしまいそうになる気持ちを白い便箋に吐露するように。

つらつらと書き殴っては…やはり出す事など出来ずに引き出しにそっとしまい込む。




「………」



隣の安らかな寝顔に自然と笑みを浮かべながら、同時に泣き出してしまいそうになる。



「…ごめんね……」



何度となく、その寝顔に落とされる言葉。一体誰に対しての謝罪なのか。





――龍斗さん、あれからどれだけの月日が流れたでしょう。



元気で、居ますか?


あなたは今…ちゃんと幸せでいてくれていますか―――




























「……わぁ…」



咄嗟に漏れた声。甘い香りに誘われる様に外へ出てみれば、ところどころ綺麗なオレンジの花をつけた金木犀が。



大好きな金木犀の香り。深呼吸して、しっかりとその甘い香りを吸い込む。たったそれだけで幸せな気分になる。

ふふっと一人微笑んでいると、ザッ、と靴の鳴る音がして。




「――何やってんだ、一人で」



呆れた様な顔。だけどあたしを見るその瞳は相変わらず優しい。



「おかえりなさい龍斗さん」



何人もの組員さん達を従えて龍斗さんが帰って来た。ゾロゾロと彼に付いて歩く人、迎えに出て来る人達が群れの様に集まってくる。



「姐さん、ただ今戻りました」



龍斗さんのボディガードの、全身黒の出で立ちの数人が挨拶してくれる。

正式に組の跡継ぎに指名された龍斗さんの妻であるあたしも、もう姐さんと呼ばれる事に慣れてしまいつつあった。



「はい、おかえりなさい皆さん。今日もご苦労様でした」


笑みを向ければ、ささやかながら微笑み返してくれる。龍斗さんがそうであるように、あたしも彼に尽くしてくれる全ての人を気に掛けなければと思う。



「秋穂さん、もしかしてそれ…」


目聡く気付いてくれた倉田さんがあたしの耳を見つめて。


「ふふ、はい。龍斗さんがくれたピアス…開けるの怖かったんですけど、やっと決心して」


「よくお似合いですよ。指輪と同じデザインですね」


「そうなんです」


答えながら龍斗さんを見れば、組員さん達と何やらお話し中。一瞬だけチラリ、と向けられた目がすっと戻っていくのを見る。




先日のあたしの誕生日に、龍斗さんがピアスをくれた。

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