第四章 アンニュイなオレのご主人様 1


「・・・おだやかだねぇ。ふわぁ~」


 太陽の光を浴びながら湖畔に寝そべり、オレは本日数回目のアクビをした。

 ここはオレの棲家の湖。

 たまにニンゲンが召喚奴隷探しや力試しでこの辺りに来ることもあるが、それさえなきゃ、静かでのんびり出来る良い場所だ。


「今日は天気もいいし、のんびりするには最高だぜ・・・」


 オレは今朝獲った魚を口に放り込み、また、ぐで~っと寝そべった。

 我ながらダラけてるとは思うが、ミシェリアにこき使われてない時は、いつもこんな感じでのんびり過ごしてる。

 じゃあ他のリザードマンもこんな感じなのかと言われれば、それは違う。

 リザードマンは好戦的な性質で、自分で言うのもなんだが、今のオレみたいにのんびりしてる奴は珍しい。

 ただいくら好戦的な性質と言っても、基本的に縄張り入って来たり、戦いを仕掛けてこなければ、こっちから襲うようなことはしねえ。

 なのにニンゲンは平気でこっちの縄張りに入って来たり、召喚奴隷にする為やらなんやらと戦いを仕掛けてきやがる。

 だからニンゲンってのは嫌いだ。

 奴らの自己中にはうんざりだ。

 だからオレらも戦う。

 縄張りを守るため。

 自分を守るため。

 仲間を守るために。

 そんなんで、以前はオレも必死こいてニンゲンどもと戦ってたが、何度も召喚奴隷にさせられたりして、今はもう、出来るだけニンゲンとは係わりたくねえってのが本音だ。

 ぶっちゃけめんどくせえ。

 もちろん今でもニンゲンは大嫌いだし、召喚奴隷抜きで襲ってくりゃこっちも必死で戦うが、戦わねえで済むならそれに越したことはねえ。

 今はもう、のんびり暮らせりゃそれでいい。

 後は嫁さんもらって、ガキ作って、そんなとこか。


「・・・とはいえ、それもいつ出来るかねぇ・・・」

 

 大きな溜息をつき、空を見上げる。

 現実を思い出して憂鬱になる。

 残念だが、今のオレは暴君ミシェリアの召喚奴隷。

 戦いたくねえのに無理やり戦わされ、道具のようにこき使われ、オレかミシェリアが死ぬか、もしくはミシェリアがオレに飽きるまでそれが続く。


「・・・あ~あ。さっさとミシェリアが死んでくれねぇかなぁ・・・」


 ミシェリアに聞かれたらどんなヒドイ目に遭わされるか、想像するだけで血の気が引くが、こうでも言わんとストレスが溜まりすぎて爆発しそうだ。

 そうそう、ストレスが溜まると言えば、囮にされて死にかけた戦いを思い出すと、今でもハラワタが煮え返る。

 ニンゲンらしいっちゃらしいが、ソレはソレ、コレはコレだ。

 オレですらこうなんだから、あの時は抑えたミシェリアも、内心はキレまくってるだろうと思ってたが、驚いたことに、あれから何回か召喚されて戦ったが、前と変わらず同じ国の傭兵として戦い続けてた。

 オレはてっきり、自分を囮にした国なんざ捨てて、敵側に鞍替えするんだろうなと思ってたが、意外や意外、今も同じ国の傭兵のままだ。

 おそらく前に言ってた「目的」ってのが関係して我慢してるんだろうが、次に召喚された時は、マジで敵と味方が入れ替わってると思ってたくらいだし、最悪、返り討ち覚悟で囮にした連中に特攻かますかもと思ってたのもあって、かなり拍子抜けだった。

 とはいえ、レオンから聞いた話しだと、さすがにあの日の夜は荒れに荒れまくったらしい。

 自分を捨て駒にしようとした連中を皆殺しにしてやると、暴れるミシェリアを抑えるのが大変だったと、ぐったりしながら言ってた。


「・・・ふぅ・・・」


 ともあれ、ミシェリアにこき使われる日々はまだまだ続きそうだ。


「でも、今日は召喚はなさそうだな。いっそこのまま放っといてくれりゃ良いんだが・・・あぁでも、そうなるとニャン吉たちとも会えなくなっちまうのか・・・いっそこっちから会いに行ってみっかな。あ、でも詳しい居場所わかんねえや・・・」


 色々と考えながら、太陽の光を浴びながら、湖畔に寝そべりゴロゴロするオレ。

 ・・・あぁ、今日は平和だ・・・。

 ・・・意識が朦朧としてくる・・・。


「ふわぁ~・・・天気もいいし、このままもう1回寝る――」


 ぬくい陽だまりの中で、うとうとしながら気持ちよく目を瞑ろうとした瞬間。

 召喚用魔法陣がオレの腹の下に現れた。


「・・・はぁぁぁ・・・」


 オレの都合も気分もお構いナシ。

 問答無用で魔法陣の中に吸い込まれてくオレの体。

 宇宙よりも深淵な深い溜息が出るのを止められやしねえ。


「平和だった時間も終わりか・・・」


 万が一に備えて、すぐ近くに置いてあった愛用の槍を手にし、もうすっかり寝るつもりだった意識を無理やり目覚めさせる。


「おし。めんどくせえけど、気張っていくか」


 うんざりするが、召喚される時はいつもこんな感じだからな。

 召喚奴隷になった当初は気持ちの切り替えが上手くできず困惑したもんだが、今となっては気持ちの切り替えも慣れたもんだ。


「次はどんな戦場なのか。たまには戦場以外の場所で召喚されたいもんだが、まあミシェリアの召喚奴隷の間はまず無理か。ただ前みたいな囮だけは勘弁してほしいぜ」


 囮にされて、命からがら生きながらえた戦い。

 ただあれ以来、敵の勢いはほとんどなくなっていた。

 たぶんチェックメイトも間近なんだろう。

 次がどんな戦場になるかわからねえが、十中八九、敵国の中枢に切迫した戦場のはずだ。

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