第四章 アンニュイなオレのご主人様 2
「呼ばれて飛び出て――」
「しつけえんだよ死ねボケッ!!」
「うおっ!? いきなりキレんなよ冗談だろ!?」
召喚された瞬間にミシェリアの怒鳴り声が聞こえ、てっきりオレに言われたもんだと思ったんだが、どうやらそれは違ったらしい。
「けっ。お高く止まりやがって。股開くのは上の連中だけってか?」
どこぞの傭兵らしいニンゲンのオスが、ミシェリアに対して悪態をついてるところだった。
「・・・クズが。ああそうさ。テメェみてえな無能な○○カス野郎に開く股はねえんだよ。わかったらさっさと帰って1人でシコってろ」
1度はブチキレたものの、なお食い下がる男にミシェリアは溜息をつくと、それ以上は何を言われても無視してミノを召喚してる。
「今日のミシェリアは、また一段と機嫌が悪いな」
「ミシェリアはいつもこんな感じゃなかったにゃ?」
「・・・それもそうだな。で? いつも通り機嫌の悪いゴシュジンサマに、今日は何があったんだ?」
召喚契約の効力でミシェリアの言葉は理解できるが、それ以外の言葉は全く理解できねえ。
ってわけで、先に召喚されてた仲間に近付き聞いてみた。
ちなみに、モンスター同士とはいえ種族が違えば当然言語も違う。
それでもオレらが普通に話せるのは、同じ召喚術者の召喚奴隷だからだ。
こればっかりは便利としか言いようがない。
「発情したオスがお嬢に交尾を迫ったがフラれ、腹いせに逆ギレしてたところじゃよ」
レオンも他のニンゲンの言葉は理解できないはずだから、たぶん状況でわかったんだろう。
「簡潔でわかり易い説明どうも。っていうか、これから一戦って時によく発情できるもんだな」
「ニンゲンというのは、いつでも何処でも発情するからのう」
「そ~いえば、前にボクを見ながらハァハァしてたニンゲンがいたにゃ。すっごく気持ち悪かったにゃ」
ニャン吉はネコ肌に鳥肌を立てるなんていう、おもしろい芸当でその時の気持ち悪さを表現してる。
「人種は見境いねぇなぁ」
「確かにそれはその通りだとは思うが、戦況が優勢ということで、浮ついてる連中も少なからずいる」
いつも冷静に状況を分析してるフォーテルも話しに乗ってきた。
そう言われて周りを見てみると、確かにいつもより雰囲気が明るい。つか、緊張感が薄くなってる気がする。
「全員がそうというわけではないが、ミシェリアに発情していたオスも、そんな気の緩みがあったんだろう」
「まだ戦争が終わったわけじゃねえってのに呑気なもんだな・・・。それにしてもミシェリアも随分あっさり引いたな? そんなんじゃ大暴れするもんだと思ったが」
「こういうことは初めてではないからのう。隠してはおるが、メスの傭兵は珍しいのに加え、お嬢はニンゲンの中でも、魅力的で美しいとされている部類らしいゆえな」
魅力的? 美しい?。
・・・まあ、オレからはニンゲンのメスなんてみんな同じに見えるから外見はなんとも言えねえが、あんな性格が破綻してるメスが魅力的なのか?。
ニンゲンのオスの考えることはわからん。
「最初の頃は、あんな風に言われたら味方だろうと本気で殺そうと暴れたもんじゃが、今では見ての通りじゃよ。無論、気分が悪くなることに変わりはないじゃろうが」
オスはその後も、何だかんだとしばらくミシェリアに言い寄ってたが、結局、何を言っても相手にされず、最終的には捨て台詞を吐いてどっかに去ってった。
「集まれてめえら」
自分の召喚奴隷を全て呼び出し、言い寄っていたオスからも解放されたミシェリアは、オレらを自分の元に集めた。
「向こうに砦が見えるな?」
そう言って、ミシェリアが指差した方角。
オレらがいる場所からそこそこ離れた場所に見えたのは、かなりの規模で、いかにも頑強そうな石造りの砦だった。
「今回はあれを落とすのが目的だ」
・・・マジか。
あれを落とすのは、かなりめんどくさそうなんだが・・・。
「あれを落とせば敵の中枢、王都は目前だ」
ただでさえめんどくさそうな砦なのに、さらにそんな重要な場所ってことは、今回の戦いはかなり厳しいことになりそうだ。
まだ始まってもいないってのに、なんかもう疲れてきたぜ・・・。
「仕入れた情報だと、劣勢ってことで寝返ったり逃亡するような敵傭兵も多いって話だ。とはいえ、だからこそ残ってる連中は死に物狂いで抵抗してくる。他の連中みたいに優勢だからって浮かれてやられるような、クソみてえなことだけはすんなよ」
ミシェリアはそれだけ言うと、いつも通りレオンをベット代わりにして横になり、戦いが始まるまで休憩を始めた。
オレらもその近くで戦いが始まるのを待つ。
・・・すると、ニャン吉がちょっと嬉しそうにこんなことを言い出した。
「ミシェリア、もしかしてボクたちのことを心配してくれたにゃ?」
多分「優勢だからって浮かれてやられるな」って言われたことを、良いようにそう解釈したんだろうが・・・。
「残念だがそりゃねえな。オレらが死ねば自分の戦力が低下するから、あいつはそれがイヤなだけさ」
「俺も同感だ。ミシェリアは俺たちに、自分の駒という以上の感情は持ってない」
「・・・ふにぃ・・・」
オレとフォーテルに突っ込まれて、ニャン吉はがっかりしてる。
別にニャン吉をガッカリさせたいわけじゃねえけど、事実だからなぁ・・・。
「ミシェリアのことなんざどうでもいいんだけどよ、こっちは優勢なのか? 勝ってんのか? どうなってんだ?」
ミノは召喚奴隷にされて、ニンゲン間の戦争に駆り出されたのは今回が初めてらしい。
だから、とりあえずミシェリアの命令どおりに戦ってはいるが、何がどうなってるのかはほとんどわかってない。
オレも最初は右も左もわからん状態でこき使われたもんだが・・・もう遠い昔のように感じるぜ。
今でもニンゲン間の戦争にゃ興味はねえが、戦力としてしょっちゅう駆り出されてる以上、嫌でもわかっちまう。
前にフォーテルから聞いてた情報もあるしな。
「勝ってるよ。戦況はかなり優勢で、戦争の勝敗も見えてる」
「つまり、戦争はオレサマたちがいる方が勝って終わるってことか?」
「そう言うこった。だからもうちょい頑張ろうぜ」
「戦争が終わったら、オレサマたちは解放されんのか?」
ミノの言葉に、オレたちはミシェリアを見た。
オレらがどうなるのかは完全にミシェリア次第なんだが、当の本人はレオンをベッド代わりにして、目を瞑ってお休み中だ。
せめて落書きでもしてやろうか。
バレたら殺されるだろうが。
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