第21話 物理学者の敵

「ははは、僕たちが心配できてるってことは、学園も心配してるってことだったか」

「そうだな」


 レインに自由会がメティを勧誘する可能性があると教えられて、心配をしていたが…。学生である俺らが心配できてる時点で、学園も心配もとい、自由会への警戒をしていたのだ。


「まぁまぁ、最初から警戒してくれているならいいじゃないか。それなりに頭の切れる学園なら守られる価値があるってことだよ」

「そうだな、より安心して学園生活を送れるよ」


 レインは俺がオスカー先生と話してる間、ずっと教室で待ってくれていた。うぅ、いい友人じゃないか…。


「もう…終わったの?」

「キルア、もっと普通に僕の前に出てきてもいいんじゃないかな?」

「私の気配をもっと敏感に感じてほしい…」

「難しいことを言わないでほしいなぁ」


 キルアさんがいきなりレインの後ろに現れた。魔法を使ったんじゃないかってぐらい気配がなかった。


「それで、メティは楽しめた?」

「た、楽しかった…」

「そうか、それはよかった」

「じゃあ、今日は解散だね。学園も警戒してくれてはいるらしいけど、メティスさんも一応気をつけなね」

「あり、がとう…」

「感謝をするならお隣にいるルイス君にね」


 昨日今日でなんかいろいろ疲れた。昨日はメティの決闘があって、今日はいきなり自由会の話を聞いて…。明日は疲れない一日だったらいいなぁ。

 レインたちとパープル寮のエントランスで別れ、自分たちの部屋に向かう。メティも少し疲れているように見える。まぁ、俺よりも疲れるのは当然か。俺のために決闘をして、自由会って単語を、聞きたくもないトラウマの単語を聞いてしまったんだからな。


「明日までに疲れは取れそうか?」

「どうかな…、でも、いや…うん、いっぱい寝たら大丈夫だよ」

「そうか、今日は早めに寝ような」

「うんっ」


 メティがまだ疲れてるようだったから、早い時間に寝た。学園が俺に安心していいって、そういったから普通に寝た。

 なのに…、これはどういう状況だ?


「女の子に守られて、超絶恥ずかしいよな?なぁ、ルイスくぅん」

「俺たちに関わらないって約束は?」

「学園の決まりに俺が従わなければいけない理由は?」

「面白い考えだね」

「つよがんなよ、自分の状況をよく考えな」


 自分の状況。それは簡単だ、ベットの上で寝てたつもりが紐で縛られ学園の屋上にいる。そして目の前にはメティに負けて、俺たちに関わってはいけなくなったはずのリン・エーテル、女神の遣いだ。


「それで、これはどういう状況だ…?」

「だーかーらー、お前を餌に俺に恥をかかせたあの女をおびき寄せるんだよ。手紙も置いてきた、一人で来いってね」

「一人で来なかったら?」

「なんで質問攻めにできるわけ?今自分がめちゃ不利なんだよ?あぁ、女の子に守られるような意気地なしには考える脳みそもないか、あはははっ」


 なんともおかしな話だ。学園という自分より強い先生が数多くいる環境に俺を縛っただけで優位にいると思える浅はかさ。特に屋上なんて、視界があまりにも広く、メティが先生たちに助けてというだけで奇襲がし放題だ。それに、話すのが得意じゃないメティといえでも、誰かと相談して一人で来るわけがないと確信できる。


「もう少しで時間だ…」


 もう少しで時間なんだ…。時間まで指定しているなら、先生を呼んで、この時間に奇襲を…とかもできるかもしれないな。

 屋上に繋がる扉が開いた。まさか、一人で正面から出てきたのは、先生…とかでもなく、リンの要求通りの相手、メティだった。メティがある程度歩いてから、扉がひとりでにしまった。


「メティ、なんで一人でっ」

「おぉ、君が王子で、こいつが姫だな。ゲームでよく見る展開だ」

「か、かえして」

「返して?簡単に返すわけないだろ。ほら、もう一回戦おうぜ?女神の遣いの俺が負けるわけないからよ」


 確かに、女神の遣いであるリンは魔法の力だけで見たらかなり強い。しかし、それで調子に乗って頭を使わなければ結局意味がない。さっきひとりでに扉が閉まったことに気づく俺と、気づかないリン。これなら、俺がリンに奇襲を仕掛けることも可能だ。


「なぁ、黙ってねぇで答えろよ」

「…」

「ダンマリ決め込んじゃってぇ。ここで勝てば俺の方が強い。俺の女になってもらうからな?」


 こいつの原動力は、恥をかかないことと女性の二つしかないのだろうか。なんとも悲しい価値観だ。


「キルアよ、縄を切るわ」

「ありがとう」

「驚かないのね」

「気づいてたからね」

 

 ひとりでにしまった扉、メティの無駄に長い沈黙。導き出されるのは、キルアさんの透明化魔法による俺の救出作戦だ。初見でこんなのされたら見破れる奴はいないだろう。


「前回はいいようにやられたけどよ、今回は水と電気で俺を倒せると思うなよ?後ろにはお前の大好きなる、い、す、く、んがいるんだからよぉ」


 よし、縄を切ってもらえた。あとは常に持っている魔法陣の書かれた紙をもってと…。


「リン!こっちをみろ!」

「んだよ、今いいとこっ」

「フラッシュ!メティ、いまだ!」

「わかった」

 

 常に持っている光を出して相手の目をつぶす魔法。リンはいま、身動きが取れないはずだ。そのすきにメティの水魔法で捕獲する。もちろん、事前に話してるわけでもない。しかし、俺とメティはこれだけで何をしたいのかが伝わるのだ。


「つかまえ…られてないっ、ルイ…、き、きを…つけ、」


 が、不測の事態が起きた。フラッシュをあて、メティの魔法で捕まえられるはずのリンがそこにはいなかった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る