第20話 物理学者の交渉
メティが自由会に目をつけられる可能性が出てきた。これは非常にまずい状況だ。自由会はメティにとって最悪のトラウマの種だ。だから、俺とメティだけでどうにかできるなんて考えていない。この話自体もレインから聞いた、まだ確定された話ではない。それでも、先手を打っておくことが悪手になることはないだろう。
放課後になり、キルアさんとメティが二人で学園にあるカフェに向かった。俺とレインに気を遣ってくれたんだろうが、メティが俺以外と過ごせるようになっていて感慨深く感じる。
「ふぅん、学園長にお願いねぇ」
「学園長とまでじゃなくても、学園から多少は守ってもらえないか聞きに行きたいんだよ」
「いや、そうだね。僕もまだ不確定な情報だからと、多少甘く見ていたのかもしれない」
「確定してから動くじゃ、絶対間に合わないだろ?」
「そうだね、ルイス君のいう通りだ。僕も手伝えることがあったら、手伝うよ。まずはオスカー先生に話してみるといいよ」
「あぁ、そうするよ」
レインからも、とりあえずいいんじゃないかなと言われた。近くに相談できる相手がいるのはいいことだな。前世の俺は結構孤独で、何に悩んでも自分だけで解決することが多かったからなぁ。
前世の大学と同じ感じで、先生ごとに部屋が用意されている。オスカー先生の部屋に向かう。すると後ろの方から声を掛けられた。
「どうした?俺になんかようか?」
「あ、オスカー先生。えっと、1年1クラスのルイス・パーカーです」
「名乗ってくれてどーも、礼儀がなってるねぇ。とりあえず、部屋入りな」
オスカー先生に部屋へ案内された。中は本だらけで、魔法に関しての書物が多いように見える。奥の方には作業机、それより手前に小さな椅子が置かれていた。
「小さいけど、そこ座ってくれ」
「はい」
「それで、どういうご用件だい?」
「はい。初めに要件をまとめると、女神の遣いと自由会に関してのお話です」
自由会。その単語を声にしただけで、先生の雰囲気が一気に変わった。最初はいつものように少しけだるげな感じだったが、今は真剣な表情をしている。
「それで、最初のインパクトを与えるためだけに自由会なんて単語を使ったわけじゃないよな?」
「当然です」
「わかった、話してみな」
「ありがとうございます」
オスカー先生にレインから注意した方がいいよと言われたことを、自分の言葉で伝えた。メティが自由会と接触してしまう可能性を最も危惧しているとも…。
「なるほどなぁ…、いや、いい疑問だ。誰かの入れ知恵?いや、ルイスは筆記の首席だったな、自分で思いついたか?」
レインが俺に最悪の可能性を教えてくれなければ、気づかなかったかもしれない。入れ知恵というより、アドバイスに近いだろう。
「自由会が接触してくる可能性ねぇ…、無きにしも非ずか。それで、どうしてほしい?」
どうしてほしい、わかりやすい質問だが、わかりにくい質問でもある。学園全体で守ってほしいなんていえやしない。確実の情報なら自由会という単語だけで学園が動くだろう。しかし、今はあくまで可能性の話だ。しかもただの生徒の戯言だと一蹴されてもおかしくない。
ただ、生徒が学園に守ってほしいことを伝えるのはおかしくないはずだ。
「してほしいことはありません。ただ、学園には短い期間でもいいので警戒をしておいてほしいのです」
「ははは、どうしてほしい?はちょっと意地悪すぎたか」
先生の張りつめていた表情が緩くなり、笑顔で笑い始めた。自由会と俺が言ったからわざと威圧感を出していたのだろう。とりあえず、俺の言ってることが全うなことだと思ってくれたのだろう。
「そうだな、ルイスの言うことは正しいかもしれない。まぁ…、学園が動いてないわけじゃないからな。変なことをお願いされたら怒ってやろうかと思ってたよ」
「あ、良かったです…」
「まぁ簡単に言えば、安心してくれってことだ。女神の遣いって、公言してるやつがいるだけで危ないのに、そいつに勝っちまったからな…。まぁ、何かがあれば、学園が全力で守るし、今も警戒は続けている」
つまり、結局のところ俺がわざわざ先生に交渉しに来る必要はなかったってことだ。なんだよ、骨折り損のくたびれ儲けじゃないか…。いや、お願いしたかったことが最初からやられてただけだから、それを知れただけ十分ではあるか。
「ということで、どうせこの後学園長にもお願いしたいとか思ってたんだろうけど、大丈夫だ。すでに俺が話を通してる」
「あぁ、もう早いですね。俺が気にしすぎることじゃなかったか…」
「いやいや、1年生でそこまで考えられることは優秀のあかしだ。それに俺も学園長にどういうか悩んでた可能性もあるからな、お前は最善の選択をしたよ」
この先生、先生として優秀すぎるな…。授業自体はけだるげな感じだが、人を導く点においては優秀かもしれん。
「じゃ、これ以上話しても同じだから帰れー。俺も研究で忙しいんだよ」
「失礼しました。授業でもいつもお疲れですもんね」
「そうだ、年寄りはいたわるべきだぜぇ」
「お疲れ様です。ありがとうございました」
「おうよー」
変に心配しただけだった気もするが、まぁ、行動に移すことは大事だよな!
そのおかげで自由会に対して恐れすぎる必要がなくなった。その点でいえば、まぁ悪くはないかな。
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