第11話物理学者とテスト前日
朝、寮中を響き渡る音で起床の放送が流れた。
『朝です、起きてください。私の名前はリラ・クラレット、このパープル寮の管理人です。また、男性寮はブルー、女性寮はレッドとそれぞれ屋根の色がそのまま名前になっています。こほんっ。失礼、あなた方の部屋の前に学園の制服を既に置いてありますので一度着てみてください。魔法糸を使用しているため一度着れば体に合うように伸縮してくれます。では、質問がある方は一階の管理人室にきてください』
ふむ、拡声魔法での放送だな。拡声魔法は土属性に分類され、メティは自由自在に使える初歩的な魔法だ。俺はそんな魔法すらもペンと紙なしでは使えないのだから困ったものだ。ペンと紙というのは自分で魔法陣を紙に描き、魔法を物理的に行使するということだ。魔法なのに物理的にとはこりゃいかに?
「おはよ〜ルイ」
「おはよう、これがさっき言ってた制服らしいね」
「おぉ、かわいいね!」
「ちゃんと男女で制服違うんだな」
「ふふふ、この制服を着れば私も頭良さそうに見えるよね?」
「実際に新入生の中じゃ頭いい方にいると思うけどな、俺が教えてんだから」
「うわ〜それを自惚れっていうんだよ?一位取ってからそういうの言って」
「へいへい」
制服は日本でよく見るワイシャツと灰色のズボンに灰色のブレザー。メティの方もワイシャツに灰色のブレザー、灰色のスカートに黒色のハイソックスが支給されていた。男子は青色のネクタイ、女子は赤色のリボンとわかりやすい色分けもされていた。
「そのスカート短くないか?」
「うーん、私もそう思うんだけどこうなったってことはこれが正しいんでしょ?」
「たしかに魔法糸がそうしたんだったら、正しいけど…」
魔法糸とは魔道具の一つだ。まず魔道具というのは物質、例えば石でもいいし人工的な剣でもそこに魔法陣が描かれている物の総称だ。そして魔法糸は糸に伸縮魔法の魔法陣を描くことで作られるものだ。糸という細いものにどうやって魔法陣を描くのかという話だが、もちろん俺のような手描きでは不可能だ。つまり、魔法で魔法陣を描く技術が必要になる。村長曰く、繊細な作業で技術力が必要じゃよとのことだ。メティに試してもらったことがあるが、手でつまめるような小石にさえ魔法陣を描くことはできなかった。メティは集中力が続かない〜と嘆いていた。
「ま、スカート短くってもいいよ。このシャツってスカートの中入れなくていいんだよね?」
「そうだな。スカートに入れなくていいんじゃないか?」
「ふーん、ならいっか」
「それよりもそのスカート下着見えたりしないのか?魔法使ったら簡単に捲れたりしそうで怖いんだが」
「大丈夫だよ」
そういうとメティはスカートを自らの手で捲った。俺はなにをしているのかと一瞬固まったが、すぐに目を逸らし下着をぎりぎり見ないで済んだ。
「だから、大丈夫だってよく見てよ。スパッツだよ?」
なるほど、スパッツか。よくあるスポーツ用の伸縮性に富んだ服のことだろう。なら問題はないか。
「ね?」
「た、確かにそれはスパッツだ…。でもな、俺からしたらスカートの中にある時点で下着もスパッツも大差ないってことに今気付いたよ…」
俺の目には黒色の丈の短いスパッツが写っていた。もしそれだけを履いていたのだとしたら特になんとも思っていなかっただろう。スポーツするんだなぐらいの感想しか抱かないと思う。が、今はスカートの中にあるという前提があるのだ。どうしてもそれのせいで下着もスパッツも…ほぼ同じに思えてしまう。
「…、一緒にお風呂入った仲なのに?」
「いやそれも5年前の話だからな?」
「そうだっけか?」
「そうだよ、あとスカート捲るのやめなさい」
「はーい」
スカートを捲るのをやめたあとメティは俺の制服姿を一瞥し、椅子に座った。部屋の間取りというか家具の配置だが、日本で言うところのホテルのようなものになっている。トイレと洗面所が部屋に入るドアのすぐ右にあり、俺らが今いるところには大きな窓が一つと壁にベットが二つ寄せられ、窓の近くに一つのテーブルと二つの椅子が置かれている。
「そういえばこんなのも配られたぞ」
「これは…?」
「婚約者だよっていう証用の指輪らしい」
「…」
「ま、つける規則はないから別に…」
「ううん、一応婚約者用の寮にいるって見せつけられるし…。つけるよ」
「そっか」
この学校はなんともすごいものを支給してくるな。婚約者だとわかるように指輪を用意してくるとは…。プリントにはご丁寧に既存の指輪があった場合は破棄していただいて構いませんって書かれてるしな。用意周到というかなんというか…。
少し気まずくなった雰囲気の中、先に声を出したのはメティだった。
「それで今日はなにする日なの?」
「今日は予備日だから何もないよ。テスト本番は明日」
「じゃあさ、じゃあさ!学園でも見て回らない?」
「だーめ。制服と一緒にもらった手紙に外に出ないようにって書かれてるから」
「えー、それじゃつまんないじゃん」
「仕方ないよ、テスト終わったら一緒に見てまわってあげるからさ」
「ほんと?約束だからね?」
「あぁ、約束は守んないとだからな」
「やった」
「だから、俺と同じクラスになるために今日は勉強しようね」
「私は魔法を自由に使うけどルイは言葉を自由に使うよね、ずるい」
「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ」
ブーブー文句を垂れるメティを鎮め、明日のテストのために詰めれるだけ知識や計算力を詰め込んでおいた。これだけやっときゃ一番上のクラスいけるだろう。過去問とかないから未知数だけど…。
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