1章.物理学者の学園生活
第10話物理学者とお勉強
12歳になった俺たちはなんと国の運営する教育機関に行くこととなった。つまり、義務教育というやつだな。そこで魔法やらなんやらを学べるのだが、実力調査テストというものでクラス分けがされてしまうらしい。元いた日本よりもわかりやすく実力主義ってことなのかもしれない。
テストの数は総合的な筆記テストと魔法実技の二つだ。筆記テストは国語力、魔法についての知識そして算数などの計算力が問われるような問題ばかりらしい。魔法実技は的を狙える正確さと的をどれほど壊せるかの威力又は威力の制御を見る試験らしい。どれもこれも村長から教えてもらったことだ。ルイスもメティスも頑張ってくれだとさ…。
「ルイ〜、今日もお勉強ー?」
「仕方ないだろ、魔法について詳しくなさすぎるんだよメティは」
「魔法は使えるんだからいいじゃんかー」
メティは天才肌だ。魔法について詳しく知らず、なにがどうなっているのかわかっていないのに感覚だけで魔法を使っている。
「メティと同じクラスになりたいんだから仕方ないだろ」
「なにそれ、私とルイとは同じクラスになれないってこと?」
「少なくとも魔法学について何も知らない今のメティじゃね」
「むぅ」
頬を膨らまし、俺の方を見てくるメティは俺に何を言っても意味がないと諦めたのか素直に勉強を始めてくれた。
「で、これはいつまでに覚えればいいの?」
「来週」
「え?」
「来週の今日にこの村を出るから、それで王都に着くのは1週間。持っていく荷物は減らしたいから一週間でこれを覚えて、もう一週間で算数をやるつもりだから」
「え…?一週間でこの分厚い本一冊丸々覚えるの?」
「じゃないと同じクラスになれないもん」
「わ、わかったよ…ルイと同じクラスになるためだもんね…」
そして一週間、メティは死に物狂いで魔法学の基礎を頭に叩き込んでくれた。全てを覚えはできなかったが、俺としては上々の出来だと思う。正直本一冊を一週間で覚えるなど無理だ。可能だとしてもそれは元々精通している分野での話だけだ。
「じゃあ、お父さんお母さん。行ってくるね」
「えっと…、行ってくるね」
「あぁ、いってらっしゃい二人とも」
「いつでも顔出していいからね?私達おいしいご飯作って待ってるから」
村の人たちに見送られながら俺とメティは村を出た。王都直通の馬車が出ているのだ。俺らの村は王都と遠くも近くもないため、既に人が乗っていた。軽く挨拶をした程度で会話自体はそう多くはなかった。俺がメティに算数を教えていたのも一つの原因だろう。
一週間はすぐに経ち、俺らは王都についていた。
円形に王都は作られており、中心に大きな城が見える。日本の大阪城や姫路城とは違く、物語や映画の中でよく見る西洋のお城だ。街並みから見ても文化的には西洋の方…ヨーロッパらへんの建造物が多いように見える。
学園はその円形の外側、円周部分のある一角に作られていた。円なのに一角というのは違和感があるが、学園自体もまた広かった。
「ここが俺たちのクラス寮か」
「ま、悪いとこじゃなさそうだね」
「そうだな、もう少し狭いかと思ってた」
「私も〜」
俺たちは学園に入り、自分達の寮に入ろうとしていた。ちょっと待てと、男女一緒の寮に暮らすのかと疑問に思うかもしれない。しかしこれには理由がある。メティの精神的な傷が癒えているのか判断できない点だ。5歳の時に自由な遣いに両親を殺され、俺と半ば家族同然に育ってきたメティは果たして新しい環境で普通に生活できるのか?今でも夜中にその光景を思い出し、起きてしまうことがあるそうだ。その時はいつも俺と一緒に寝ていた。つまり、俺たちが一緒の部屋で暮らす理由には十分な正当性があるわけだ。
「それにしてもルイが自分のこと俺っていうの違和感あるね」
「そうか?メティにとってはそうか、ずっと僕だったもんね」
「うん。でも私、俺っていうルイもかっこいいと思う!」
「そ、そうか」
「照れてる?ふふ」
心の中ではずっと一人称は俺だったが、会話の上でも俺を使うようにした。学園で僕という一人称は舐められる可能性があると村長に言われたからだ。いや、俺もそれは少し思ってたけど村長の知識量というか学園に対しての理解度が高すぎるのだ。
学園のテストのことも、この寮のことに関しても全て村長が教えてくれたり手配してくれたのだ。ただ一つ欲を言うなら俺が村長に質問しない限りそのことを教えてくれないって言うのやめてほしかった。そのせいでテストという存在を出発の一週間前に知ることになったのだから…。
「それにしてもいいの?」
「なにが?」
俺たちの部屋にメティと一緒に入って荷物を整理している時のことだった。メティは少し不安そうな顔をしながら俺に質問をしてきた。
「だって…この寮って、あれなんでしょ…」
「あれ…?」
「こ…こ…」
「こ?」
「こ…婚約者の…寮なんでしょ?」
「あぁそのことか、それは何度も話したじゃないか」
「で、でもぉ…」
先程も言った通り俺とメティは正当な理由で男女二人で寮に住むわけだが、精神不安とはいうものの俺と居れば日常生活が送れるほどの軽度な症状のため治療も兼ねた本格的な病院兼寮である場所に入ることにはしなかったのだ。それで俺らが入ることになったのはこの婚約者同士が住める寮である。この寮自体は国にいる貴族、いわば上流国民同士の婚約が結ばれている二人用の寮らしい。が、男女で住むことを許可している寮はここと精神用の寮しかないため俺とメティのようなケースの時はここの婚約者用の寮に住むことになる。
「俺はいいって言ったじゃん。それに小さい時に結婚するって言ったのはメティの方だからな?」
「そ、そうだけど!もし学園にもっといい人いたらって思うと…」
「それは俺を捨てるってことか?」
「ち、違うの!私は嬉しいけど、ルイにもっといい人がいたら私が邪魔になっちゃうじゃん…」
「はぁ…、それも何度も話した。俺はメティとなら婚約者のように振る舞ってもいいし、正直嬉しいって」
「本当に?」
「嘘なわけない。じゃなかったら一緒のクラスになるために勉強なんか教えるもんか」
「そ、そうだよね!」
「信じてくれたようで何よりだよ」
婚約者のように振る舞う…というのは、メティの事情に自由会が関わっているためにメティが俺と一緒に住む理由を他人に説明してはいけないと学園側から指示が出ているのだ。それにメティも両親の死を説明するのは辛いだろうということで俺と婚約をしていることにすれば、一緒の部屋に住んでいる理由を説明できる。だから、婚約者のように振る舞うのだ。いや、俺たちの中ではほぼ婚約をしているようなものだ。既にお互いに了承しているから振る舞うのではなくありのままを見せつければいいのだが、メティはそれに不安を抱いているらしい。それが先程の会話だ。
「メティ、このベットフカフカだぞ」
「ほんとだぁ〜、旅の疲れがすぐに消し飛んじゃいそう」
「だな、今日は早めに風呂入って寝ようぜ」
「そうね、じゃお風呂入ってくる!」
寮の中に男女別々の大浴場があるのだ。一週間も馬車に乗っていると流石に疲れが溜まるようで、お風呂に入った後すぐにベットで寝てしまった。もちろんベットは二つあるのだが、くっついて置かれているため実質二人用のベットが一つあるような形になっている。
まぁ、一人用のベットで二人寝たことがある俺たちにとってこれは特別なことでもなんでもないけどな。
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