第4話 計略
武井は一人策略を練っていた。今や国連内部にも自国を有利に運ぶために送り込まれた職員ばかりで世界のために働くものは数えるほどしかいなかった。当然信頼できる部下も限られていた。
「黒葉くん、私の部屋に来てくれたまえ」
武井は最も信頼している部下を内線で呼び出した。
「コーヒーでいいかな?」
武井はいきなり呼び出した部下に気を遣って見せた。
「できれば日本茶をいただきたく」
だが、その気遣いに遠慮どころか自分の希望を押しつけてきた部下に武井は苦笑した。
手ずからお茶を入れた武井は先ほどまで目を通していたファイルを黒葉の前に置いた。
「明石リポート」「ザ・ダイアリー オブ マイコ」とその関連資料である。
「黒葉くん、君はこれらを知っているな?」
武井は鎌をかけてみた。
「実物は初めて見ましたし、内容は知りませんがね。その存在は知っていましたよ」
黒葉は一言言ってお茶をすすった。
「君は私によく尽くしてくれたが、本当は何者なのかね?」
黒葉は意外な顔をして答えた。
「私はごくごく一般の国連の平職員ですよ。まあ、事務総長もご存じの通り百目からもお金はもらってますし、教育も受けましたが。スパイとお疑いなら、間違ってますよ」
武井は黒葉がすんなりと自分の立ち位置を告げたことに拍子抜けした。
「では、百目と通じている君に頼みがある。私は世界に平和をもたらしたい。そのために世界各国共通の敵を作り、人類が一致団結して外敵に備えるという状況を作ろうと考えている。そのための材料にこれらの資料を使おうと思う。資料を有効に使うために百目の力を借りることはできないかな?」
今度は黒葉が武井の瞳をのぞき込むようにじっと見つめた。
「本気、ということですね。しかし世界平和なんて本当に実現できるんですかね?私には信じられませんが、協力は惜しみませんよ。私はあなたの部下ですから。ただ、仮に異星人との戦争に勝利したとして、その後世界が平和になる、という保証はできませんよ。よろしいですね?」
「そんなことは承知している。戦争の危機を回避し世界に平和を。その可能性を高められるなら何でもやってみる価値はある、ということだよ」
武井は冷えたお茶を飲み干した。
「もう一杯飲みましょうか」
黒葉が言った。もう少し話を続けようという意思の表示である。
「それは私にお茶を入れろと言っているのかね」
武井は笑って答えた。
そして二人の密談は続く。
「私の家系は嘘か誠か忍者だったらしくて。私の祖母も忍者だったという話ですが。その流れか、私にも百目からお誘いがあったわけです。百目とは言っても、政府系のデータバンクみたいなもんですよ。国際的スパイ組織だなんて、とてもとても。という韜晦は通じませんね?」
黒葉は笑みを浮かべながら武井に話しかけた。
「それは当然。百目の実力は想像がつく。その力を使って各国が国連に協力するよう裏から働きかけてもらいたい。もちろん表向きは国連から働きかける」
「承知しました。お茶二杯分くらいの働きはして見せましょう」
「言っておくが今日日、日本茶はものすごく高いぞ。よろしく頼む」
武井の言葉を聞き終えて黒葉は立ち上がった。
「では早速仕事にかかります。当面こちらには戻りませんが、適当に連絡は入れます。それとミシェル・オーブリオン、彼女に協力をお願いすることになると思いますから、開けておいて欲しいですね」
「ということは彼女はオーブリオン財閥の関係者というだけではなく、百目や石切場の賢人と関係があるのかね?」
「いえ、私の女と言うだけの話です」
「やれやれ、君のいうことはどこまでが本当か嘘か見抜くのが大変だな」
「では事務総長、行って参ります」
と言い残し黒葉は風のように姿を消した。
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