第2話 大災厄
その日、国連の軍縮担当上級担当武井は国連本部のあるニューヨークではなく彼の祖国日本にいた。
事実上の軍隊、日本の自衛隊が開発した新兵器が「大量破壊兵器」ではないか、という指摘が国連になされ、その事実確認をするための視察に赴いていたのである。十数人の国連職員に加え世界各国の監視を目的と称し視察に参加したスパイを引き連れて彼は日本の地に降り立った。武井は当初日本政府が視察を当然断るだろうと予想していた。
しかし日本政府は武井の予想を裏切り、あっさりと視察を認めた。
武井はあまりにもあっさりと視察を承認した日本政府の返答を聞いたとき思わず「本当か?」と聞き直したほどである。
「問題ございません。あれは大量破壊兵器などではありません。ただの輸送手段ですから」防衛省の背広組の説明は国連がうたがっているものはただの鉄道であるといっていた。
「リニアモーターカーですよ、あれは。それを兵器などというとは心外です。加えて、あれは防衛省の開発ではございません。あくまで民間のJR主体の開発です。防衛省は何の関係もございませんので誤解なきよう願います。後ろの方々も本国にそのようにお伝えください」
防衛省の職員はその正体を知りながら国連職員を装ったスパイに向け、いけしゃあしゃあと言ってのけた。
「ではどうぞ、ご案内いたします」
そして視察は何の成果もなく終わりを告げようとした、そのときだった。
リニアモーターカーの運転指令所にざわめきが起こっていた。その様子に防衛省職員も気づき、JRの社員を捕まえ状況を確認しようとしたが、JR社員も何が起こっているのかわからず首を振るばかりだった。
次に防衛省職員が行ったのは防衛省に直接問いあわせることだった。その流れを見て武井はどうみてもリニアモーターカーの施設にしか見えないこの巨大な建造物が日本の防衛関係につながるものだと確信した。しかし、確認を終えた防衛省職員が視察団を集め語ったことは、武井の確信など消し飛ばす衝撃を持っていた。
「各位にお伝えします。各位は速やかに本国の大使館、国連事務所に連絡されることを推奨いたします。まもなく地球は未曾有の危機に襲われます」
「何のことだ?」「何を言いたい?」「意味がわからん」大方の反応はそれだった。
その反応に防衛省職員は言葉を続けた。
「月が落ちてきます。正確には月の一部が砕け、地球に向けて進行中です。落下予想地点は計算中で不明ですが、欠片のサイズからいってただ事では済まないでしょう」
職員は冷静に報告したが、内心はその内容に半信半疑であることはその表情から見て取れた。それは視察団の全メンバーも同様であったが、ただ一人武井だけは違っていた。
「プログラム・メギド」
国連の内部でもごくごく一部でささやかれていた噂、都市伝説レベルと思われていた、異星人による人類絶滅のシナリオ。それが月を地球にぶつけるという内容だったということを思い起こしていた。半信半疑ながらも本国へ問い合わせ、結果を聞いて慌て始めた視察団員を防衛省職員は送り出し、手の空いた隙を見つけ武井は職員を問い詰めた。
「君たち日本の防衛省はこの事態を予測していたのではないか?そしてこのリニアモーターカーの施設がこの事態を解決するための貴国の策。そう考えなければただの輸送システムの発令所がこれほど早く情報を得、そして慌てふためく理由がない」
「私にはわかりかねることです。詳細は本省へおたずねください」
その困惑した表情と言葉尻から「この男は何も知らされていないのだな」と武井は悟った。
「では防衛省の担当官につないでいただきたい。私は国連の視察団としての責任を果たさなければならない」
武井が詰め寄ったそのときだった。
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