第26話

「あっ これ夏服かなーっ?」


 警備を終わらせて自室へと戻った私とイマリは、小さな鉄箱に綺麗に入れられていた衣類を見つけた。手に取って広げていくと、夏制服の上下が二着、黒茶色のフード付きケープと夏用のブラウスが数枚。


「ぜんぶ軽いねーっ ね、スクナきてみよーよっ」


 ニヒト先生も言ってたように、試着してみて何か違えば申し出なくてはいけない。早くしないと本格的な夏を迎えてしまうから。


 私とイマリはそれぞれに制服を着替えていく——。


 私の制服は特に変更した点はなく、夏服の通気性を感じるくらいだ。胸元まで隠すケープは丈夫な織り方が採用されているみたいだけど、だからといってごわつく事もない。試しにフードを深く被ってみると、目元が外から隠れるあたりのちょうど良い作りになっていた。


 イマリはというと、いつも通り七分袖で前開きの上着を羽織っていた。上着の変更点は両サイドにポケットが付いたというところ。そのポケットに両手を忍ばせるイマリは「手が楽になったっ」と気に入っている様子だった。そして最大の変更点はやはり、ワンピースではなく腰で履くスカートになったことだろう。


 胸が苦しいとそこまでデザインが変わるのだから、ほんと、発育が良い。そして、抑えるものがなくなった胸元はブラウスのボタンもいくつか外されていて、それはさらに強調されていた……。


「あ、あのさイマリ。ちょっと胸が見え過ぎっていうか。みんな目のやり場に困るかも……」

 

「えーっそうなのーっ? じゃーいっこボタン閉めよーっと」


 目のやり場に困るというか、正直、他の人に見られないようにするための言葉だったけど、まあいいか。


「スクナは『召喚士』ってかんじだーっ 強そーっ」


「えっ、そうかな。……そうなれるように頑張ります」


 イマリがそう言ってくれると、少しだけ本当に強くなれる気がする。


 普段、洗濯は各自で行う決まりがあるけれど、夏制服が届くと、今まで着用していた制服は一度メンテナンスも兼ねて、訓練所側が洗って保管してくれる手配になっていた。私達はそのまま脱いだ制服を鉄箱へと戻して、後から回収してもらうために扉の外に置いた。


「イマリ、今日はまだ呼び出しはない?」


「うんっないよーっ あ、そーいえばフランソワは今日ダグルスと『ミッカイ』だから訓練えんきーって言ってたっ」


「……密会?」


 意味深な言葉が私の頭をぐるぐると回っている。そういえば、ダグルス将官に会ったのは、あの一度きりだけだ。もしかするとダグルス将官は表舞台には立たず、秘密裏で動いている人なんだろうか。それとも……


「スクナ、お腹すいたーっ」


「えっ、あ、うん……食堂いこっか」


 私の妄想癖はイマリの空腹によって打ち切られ、私達は久々にゆっくりとした夕方を過ごすことにした——。



 食堂に着くと、目を疑うような光景が飛び込んできた——。


「あーっ ミリヤと怖そーなスクナのおねーさんっ」


 ……イマリ、確かにそれは仰る通りなんだけど、できれば穏便に、穏便に、穏便にぃ……と願うように心で唱えた。


「よく言ったわイマリ。やっぱアンタって怖そうで嫌なやつなのよ」


「『暗殺』を生業にしている人間よりは、いくらかマシかと思いますけど?」


「ほんと、口の減らない女よねアンタって」


 口喧嘩の絶えない二人が、どうして一緒に座っているのか皆目見当もつかない。

 理由は分からないし、恐ろしくて聞けないけど、この光景を見れたのは新鮮だった。ヴェルナ姉さんが誰かとこうして話しているところを、私は一度も見たことがなかったから。

 

「スクナ、特訓頑張ってるみたいね。一週間後が楽しみよ」


「うん、ミリヤの足元にも及ばないはずだけど、模擬戦のときはミリヤの時間が無駄にならないように頑張るね!」


 ——ガタン。と椅子が倒れ、勢いよく立ったヴェルナ姉さんが「模擬戦……って?」と呟きながら呆然と私を見つめていた。


「落ち着きなさいよ、妹イビり女。手を抜くつもりは無いけど、手加減はするわ」


 ……ミリヤ、その言葉には矛盾が発生しているような。


「えーっ? ミリヤ手加減なんてしたら負けちゃうよーっ?」


「へぇ……。言ってくれるわねイマリ。その言葉を言ったこと、後悔させてあげようかしら?」


「うんっ 望むところだよーっ でもこっちが手加減しなきゃかもっ?」


 腕組みをして斜め上を見上げ考えるイマリは、本気なのか冗談なのか……偽りなさそうに言ったイマリの言葉に、ミリヤのこめかみに浮かぶ血管がちぎれてしまいそうになっている。


 未だにヴェルナ姉さんは立ったままで一言も話さないし、ミリヤとイマリはすでに白熱し始めているし。これは一体どういう状況なんだろう……。


「……ところでスクナ」


 引き攣った顔を笑顔で覆い隠しながら、ミリヤは私のほうを向いた。


「調子乗り過ぎて一週間後私とマーボにボッコボコにされるイマリが、警備に出ていないとき、ちょっと私の部屋に来てくれる? 久しぶりに話したい」


 やたら長い主語はさておき、私もミリヤとゆっくり話がしたい。


 私は、二つ返事でその誘いを受け取った。イマリは「ずるいよーっ」と言ってにこにこしながら愚痴をこぼす。もはや放心状態だったヴェルナ姉さんの事はミリヤにお任せして、私達は注文していた食事を取りに行くため、そこでミリヤ達とは別れた。

 

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