第4話

 一連の事が整理出来たところで、五名の自己紹介らしきものが始まった。


 イマリは、まあ……イマリとして……。

 

 長身長髪の男性は『フランソワ』さん。彼は日によって、気分によって、女性にだってなれるそうで。今日は、女性に近い男性の日だと教えてくれた。普段はイマリと一緒に、政府から直接依頼を請け負うことを生業としていた。政府直々にだなんて、とんでもなく凄い人なのでは。……そう考えるけど、それ以上は聞かないほうが身のためな気もする。これ以上、厄介事には巻き込まれたくない。

 

 先生は、『ニヒト先生』と呼ばれている。深みあるルビー色の髪に、見透かすような鋭い緑の瞳で、それを隠すように眼鏡を掛けている。きっと先生は髪を下ろして眼鏡を外すと、全く別人になるタイプの人だ。訓練生達の中では、隠れた追っかけみたいな人達も存在する様子。私はまだ、先生の事をよく知らないけれど、私をずっと自室で寝かせてくれていたところとか、心優しい一面があると思う。

 

 いぶし銀の責任者は、アンバー色の短髪に毛先がくるっとしていて、眉間にシワを寄せている、厳格な人といった感じだった。ニヒト先生は『ダグルス将官』と呼んでいて、フランソワさんは、『ダグルス』と呼んでいた。名前で呼び合うということは、もともとこの二人はお知り合いなのかもしれない。


 自己紹介もほどほどに、ダグルス将官から本題に入ると告げられた——。

 

「こうなってしまった以上、事は潤滑に進めなければならない。本日から、イマリも此処の訓練生として君の側に置く。残念だが、君に拒否権はない」


 イマリも訓練生に……それが私にとって何か問題があるようには思えなかった。

 

「……それと目標が達成出来るまでは、毎日講義後の特別訓練を受けてもらう。君が契約を結んだのは、ただの召喚獣ではないからな」


 講義の後の特別訓練……。私の一日に、またつまらない時間が増えていく。

 正直、召喚士になりたいだなんて思わない。なったとしても、極めたいとも思わない。私は怪訝な顔でも見せてしまったのか、ダグルス将官は私に困り顔を見せている。


「スクナちゃん大丈夫よ。特別訓練は私が先生だし、気負いせずいきましょ」


「ぅえーっ! フランソワがせんせーとか、わたしがやだよーっ」


 とは言いつつ、イマリの顔からは笑顔が絶えない。俗にいうツンデレってやつなのかな。とにかく不思議な子という印象は、ちゃんと会話をした今でも変わらなかった。終始明るく笑顔を絶やさない姿が、そう思わせる要因なのかもしれない。


「——では、解散としようか。イマリは制服の採寸だ。フランソワは少し此処で待ってくれ。他に話したい事がある」


 契約を交わしてしまった私とイマリの行末は、もちろん私達の一存でどうにかなることでもなく、詳しい事は必要になったその都度、話されるということになった。

 私から引き離されたイマリは、笑いながら愚痴をこぼしている。そんな彼女に見送られながら、私と先生は講堂へと向かう——。


 

 その道中、先生からの気遣いが

 言葉として私に向けられたみたいだった。


「スクナさん。あなたはきっと召喚士になんて興味が無いのでしょうけど、今はあまり深く考えず、目の前に来た問題を越えていくことだけに集中してみてください。その繰り返しが実を結んで、いつか納得のいく答えも導き出せるはずですから」


 先生の言葉は妙にしっくりきて、私の心をフラットにしてくれた。きっと、考えないといけない事は今日で沢山増えたはずなんだけど……とりあえず今は、先生の言う通り、目の前にあるものを片付けていこう。そう思えた。


 先生の後について講堂へ入ると、騒がしくしていた訓練生達が先生の姿を見て、焦るように着席していった。今日もミリヤは隣の席を空けていてくれて、私も迷うことなく着席した。


「スクナ……っ 今朝呼び出しされてた……っ?」


 私の耳元で、小さくミリヤが尋ねてきた。

 他言無用とも言われていなかったので、私は正直にそうだと話す。凄んで内容を聞いてくるミリヤに、講義が終わったら全部話すと約束してしまった。とはいえ、何処まで話していいのやら……。


 後先を考えると、嘘に嘘を重ねるのには限界があるし、私の場合、すぐにボロが出てしまうはずだ。そんな事もあって、考えるのが億劫になった私は講義を終えて迫ってくるミリヤに、包み隠さず話すことにした。


「——ってことは!? スクナは召喚士になったってこと!? しかも真の契約って、最上位の召喚士だよ!? あのスクナがとうとう召喚士……。感慨深い……っ! 良かったね! おめでとう!」

 

 ミリヤが騒ぎ立てるのも無理はない。私は召喚士に無頓着だったわりに、明日から特別訓練まで受けると言っていて、ミリヤからすれば今の私は前向きそのものなのだから。

 自分の事のように喜んでくれているミリヤに、本当は全て忘れて逃げ出したいほど深刻な状況なんだ、とは今更言えない。


 頭の中で自分の置かれてしまった状況を、今一度整理する。これからどうなってしまうのか、全く想像もつかないけれど。ダグルス将官の「ただの召喚獣ではない」という言葉が頭から離れてくれず、事の重大さがじんわりと見えてきた。


 落ちこぼれと言われた私が、真実の契約まで結んだ最上位の召喚士だなんて、そもそも荷が重過ぎる。急激な環境の変化にふつふつと湧いてくる私の反骨心は、このまま召喚士に向かう日々に飲み込まれてしまいそうになった。

 

 いつものように私は自分に言い聞かす。

 『力は自分を見失わないぐらいのほどほどでいい。みんなや、姉さん達みたいになることはない』と。

 

 そしてふと、イマリはどう思っているのかが気になった。そもそもイマリは召喚士であり召喚獣の一人完結型。本来なら私の存在なんて必要ない。私と契約を交わしてしまったことでイマリは訓練所に来ることになっちゃったわけで……。

 あの自然児に、この訓練所での生活は息苦しいだけな気がする。


 あの日助けてもらったお礼を、伝え忘れていた事にここで思い出す。意図しない契約を交わされた事だけに意識が向いてしまっていたけれど、命を救ってもらった事は心から感謝できていた。


 色んな事があり過ぎて、後回しにはなったけど、今すぐお礼を伝えたい私はイマリを探すことにした——。

 

 

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