〜猫と神隠し〜ACT1

東京には、多くの公園が点在している。今、私達がいる公園は、芝生などが整備されていて敷地自体も広い。



犬の散歩などで多くの人間が公園内を行き来している。



私達が座っているベンチの前には緑の芝生があり、敷物を敷いてピクニックを楽しんでいる家族連れも見受けられる。



今、私がくつろいでいるベンチには、一人の男が座っている。男の名は、大貫健吾という。



私の下僕のようなものである。猫である私に、源之助という名前を付けて呼んでいる男である。



私達がこの公園に来ているのは、ある人間と会うためである。待ち合わせの場所を公園にしたのは、猫である私への配慮であろう。



基本的に、猫である私は店に入る事ができない。たまにある、屋外に席を設置してあるカフェなどでなら、私も一緒に入る事ができるが、ほとんどの店舗で入店ができない。



そのため、私達の素性を理解している人間は、このような屋外での待ち合わせ場所を指定する事が多い。



そう、今日会う予定の人間は、私達の事を知っているのである。それは、私達が特殊な探偵のようなものである事。



そして、私が特殊な猫である事をである。私は、一般的に猫又とか化け猫などと呼ばれる存在である。



そして、そのような猫や、私を連れた男とわざわざ会おうとする人間は普通ではない。



いや、厳密に言うならば、私達にわざわざ会う理由が普通ではないという事である。



そして、私は感じていた、また今回もアレがかかわっているという事を。



「すいません、お待たせいたしました」



私がそんな事を考えていると、一人の女が私達に近づいて来た。



黒いスーツに後ろで束ねた長い髪が特徴的な女である。ヒールの低い黒い靴を履き、身体の線は細い。



「おはようございます。お久しぶりですね」

「本当にそうですね。去年の物件の下見の時以来ですか?源之助も久しぶり〜」



健吾の挨拶に答えた後、女は軽い感じで私に手を振りながら挨拶をする。私はそれに欠伸でかえしていた。この女の名前は、内山莉乃。不動産屋である。



数年前のある事件の時に、この女とは出会った。それ以来、時々このように頼み事をされるのである。



だいたいは、この女の働いている会社が管理している物件の調査である。と、言っても普通の探偵などがする調査ではない。



問題物件などの、俗に言う霊視である。まあ、実際に霊的な問題があるのかを検証するための調査だという事である。



ただ、今回の調査依頼の内容は、いつもとは少し違っているようであった。女は、私を抱きかかえながら健吾の隣に座った。



そして、私を自らの膝の上に置く。私は、この女の膝の上でモゾモゾと態勢を整えていた。



それを確認した女は、健吾の顔を見ながら話し出した。



「さっそくなんですが、調査のお話をしてもいいですか?」

「いつもの物件の調査ではないんですか?」



内山莉乃の言い回しから、健吾は今回の調査の内容がいつもとは違うと気付いたようであった。



「はい、今回は問題物件を見てもらうのではないんです」

「というと?」

莉乃の答えに健吾が先を促す。



「私の会社で管理しているのは、マンションなどの賃貸物件だけでなく、他の施設なども管理経営してるんです」

莉乃は、そう言ってカバンの中からパンフレットを取り出し、健吾に手渡す。



「キャンプ場ですか?」

健吾は、手渡されたパンフレットの内容を見て答える。



「はい、このキャンプ場で行方不明者が出てまして」

「行方不明者ですか?」

健吾が莉乃に聞き返す。



「はい、元々このキャンプ場には、怪談話があるんです」

「怪談話?」

健吾が相槌代わりに聞き返す。



「ええ、一応ウワサ話程度のものだったんですが…」

莉乃はそう言って、話し始める。



「このキャンプ場の近くには湖があって、昔その湖で自殺した女性がいたみたいなんです」

この後、莉乃はキャンプ場のウワサ話について説明した。



要約すれば、キャンプ場ができる前から、この辺りには近くの湖で自殺した女の幽霊が出たらしい。この辺りでは、時々そのような話が聞かれたそうである。



しかし、数カ月前に複数の人間が、湖の近くで、その女の幽霊を目撃したそうである。そして、数週間前に行方不明事件が起きた。



「その行方不明になったという人は、どういう状況で姿を消したんですか?」

話をあらかた聞き終えた後、健吾が莉乃に質問する。



「行方不明になった女性は、会社の仲間数人とキャンプに来ていたみたいなんです」

「一人で来ていたわけではないんですね」

健吾が確認するように相槌をうった。



「はい、それで夜中にお手洗いのためにテントから出て、それから戻ってないみたいなんです」

「テントには、他の人もいたんですね」



莉乃がその健吾の質問に同意する。最近のキャンプ場は、女性や子供なども気軽に利用できるように設備が充実している場合が多い。



数年前にウイルス性の病気が流行った際に、キャンプをする人間が増えたからでもある。



現在では、手ぶらでキャンプに来る事ができる程、サービスが行き届いているそうである。



もちろん、トイレなどの水回りも女性が使いやすいように完備されており、シャワー室なども設置されている事が多い。



「それで、朝になっても帰って来ないので、皆で探したみたいなのですが…」

「みつからなかった」

健吾が莉乃の後の言葉をついだ。



「数週間たった今でも、その女性は行方不明のままだそうです」

その後も健吾は莉乃から話を聞いていたが、これ以上の情報を聞く事はできなかった。



会社の仲間の話では、行方不明になった女が自分から失踪する可能性は低いそうである。



もちろん、警察もこの行方不明事件に動いているようだが、反応は鈍いと言える。明確な事件性がある場合を除き、警察が行方不明者の捜索にそれ程力を入れる事はない。



まして、行方不明になったのは、成人した人間である。小さな子供などなら話は別だが、自ら失踪したと考えられてもおかしくない。



また、そのキャンプ場は、それ程険しい山奥などにあるわけでもないらしい。トイレに行く程度なら、道に迷うという事も考えられないためである。



「それで、湖の幽霊の話と、今回の行方不明事件が重なったからなんですが…」

そう言った莉乃は、少し言いにくそうに続けて言う。



「キャンプ場の神隠し事件って噂されるようになってるんです」

「神隠し事件ですか?」

健吾は、驚いた顔で莉乃の膝でくつろいでいる私を見る。



「またか?」

私はそう呟いていた。



「どうやら、内山さんとは神隠しで縁があるみたいですね」

「そうなんです」



健吾の言葉に、莉乃がため息を吐きながら答えた。そうである。この内山莉乃という女と初めて会ったのは、神隠し事件を私達が調べている時であった。



奇しくも、また同じような神隠しの事件で、私達は集められたのである。





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