第5話 “えれどー”始動!仲間って、いいですわね?

「その目……ただ者ではありませんわね」


「えっ、オレっすか?」


 昼休み、体育館裏。

 ひとり黙々と素振りをしていた少年に、わたくしは迷わず声をかけていた。


 彼の名は——大地翔(だいち・しょう)。

 剣道部の一年生であり、悠馬の後輩。

 そして、妙に古風で、謎の“和の精神”を全身で背負っている、ある意味とても“貴族的”な男だった。


「その型……真剣に鍛錬している者の動きですわ。あなた、武の誇りを知っていますのね?」


「えっと……まぁ、オレ、剣道が好きなんで」


「すばらしいですわ!」


 ビシィッと指を差しながら、わたくしは感動のあまり叫んでいた。


「わたくしは“気高さ”を、この国に取り戻すために活動しておりますの。

 その第一歩として“エレガント同好会”を設立しまして……」


「えれがんと……?」


「はい、“誇り高き者たちの集い”ですわ!」


「めっちゃ強そうな名前っすね!」


 ……この子、ちょろいですわ。


「その剣、何か流派があるのですの?」


「いや、学校で習うやつっす。型は“本多流”ってやつで、オレは基本に忠実にっすね」


「本多流……渋いですわ!」


「気合いの入り方とか、姿勢とか、ホント奥深くて——って、なんでわかってくれるんすか!?

 普通、“また剣道オタク語ってる〜”って笑われるのに!」


「なぜならわたくしも、“武”の誇りを重んじていたからですわ!」


 気づけば、ふたりはまっすぐ向かい合って立っていた。


「貴族として、剣術は必修科目でしたのよ。わたくし、前世では“麗しの槍姫”と呼ばれておりました!」


「マジすか!? え、すごっ! でも槍姫なのに剣術……?」


「異世界とはそういうものでしてよ!」


「納得しました!」


 ……この子、ノリがよすぎますわ。


 


 * * *


 

「では、試してみましょうか」


「試す?」


「はい。あなたのその“武の誇り”、実戦で見せていただきます!」


 そう言って、わたくしは近くに落ちていた細い木の枝を拾い上げた。


「えっ、マジでやんの!?」


「大丈夫ですわ。これは模擬戦です。服は汚れても、魂は輝きますわ!」


「魂! わかりました!」


 そして始まった、木の棒による真剣(?)バトル。


 わたくしの構えは中段。右足を少し引き、重心を落とす。

 翔の構えも、なかなか見事。


「参りますわ!」


「押忍!」


 ビシィィッ!


 風を切る音が響く。木の枝と木の枝が打ち合う音が、しだいにリズムを刻んでいく。


「……ッハァ、スゲェ……オレ、先輩以外とこんなに動いたの初めてっす……!」


「そなたも……なかなか……やりますわね……!」


 そして——


「うおっ! しまった!」


 翔の足元がぐらつき、バランスを崩した。


「ふふ……そこですわ!」


 シュッと一撃、木の棒の先端が彼の肩にピタリと突きつけられた。


「——一本!」


「う、うわあ……完敗っす!」


 地面に座り込んだ翔の顔には、むしろ清々しい笑顔が浮かんでいた。


「はじめてっすよ、こんなに本気でやって“負けて悔しくない”の……!

 なんか、めっちゃ気持ちよかったっす!」


「それこそが“武の誇り”ですわ。勝って驕らず、負けて腐らず。

 ただ、己の気高き魂を信じる。それが武人の道!」


「押忍! 勉強になりますっ!」


 翔が地面に正座して頭を下げる。


(あら……この礼の仕方、ちゃんと筋が通ってますわね……)


 まさか令和の高校に、“本物の礼”を持つ少年がいたとは。


「あなた、エレガント同好会に入ってくださるかしら?」


「喜んで! オレ、こういう熱いの、好きなんで!」


 


 * * *


 


 放課後、教室の黒板に『エレガント同好会』とチョークで大書きしながら、わたくしはつぶやいた。


「“芸術のそら”と“武の翔”……これで同好会の柱が二本、揃いましたわね」


「あと悠馬がマネージャーっぽくなってるし、なんかグループ感出てきたな……」


 教室の後ろでぼやく悠馬を見て、ふふっと笑ってしまう。


「誇り高き者たちの集い、“エレガント同好会”は、いまようやく本格始動ですわ!」


「いや名前だけはやっぱりダサいって!」


 


 * * *


 


 その夜、スマホを見ていると、グループLINEに翔から一言。


 >「明日、木の棒もう一本持ってきますね!」


 その後に、そらからスタンプが返ってくる。

 そして悠馬の「やれやれ」スタンプ。


 わたくしはそのやりとりを見て、思わず口元が緩んだ。


(……これが、“仲間”というものなのかしら)


 前世では持てなかったもの。

 でも今、少しずつ——築き上げている気がする。


 


 * * *


 


「それでは、皆様——改めてここに宣言いたしますわ!」


 昼休みの教室。まだ教室に数人しかいないこの時間を狙い、わたくしは教壇に立った。


「本日をもって、“エレガント同好会”を正式に発足いたします!」


「うぉぉぉっ! ついに来たっすねこの時が!」


「え、今そのテンション出すとこ? 翔くん、声デカい……!」


 そらがやや引き気味にぼそっと言うが、翔は気にする気配もない。


「いやいや、だって昨日“仮”とか“非公式”とか言われてたのが、ついに“正式”になるんすよ!?

 これはもう、祭りっしょ!」


「祭りの定義が広すぎるのよ」


 悠馬は定位置の席で腕を組みつつ、冷静なツッコミを忘れない。


「でもまあ、いいんじゃね? 莉愛もようやく“やりたかったこと”に本腰入れるわけだし」


「当然ですわ。改革というものは、まず旗を掲げることから始まるのですもの!」


 わたくしはチョークを取り、黒板にでかでかと書き記す。


『エレガント同好会』


 その文字に、わたくしの魂と誇りと若干の羞恥が込められている。


「……本当にこれでいくんだね?」


 そらが小声で聞いてきた。


「いきますわ!」


「いや、もうちょっとこう、仮称とか略称とかさ……」


「“エレ同”とか?」


 悠馬がボソッとつぶやく。


「えれどう……なんか……ゆるキャラっぽい」


 そらが意外な感想を漏らす。


「え、でもそれちょっと可愛くないっすか? 『えれどー、参上!』みたいな!」


「それは完全に方向性ズレてますわ!」


 なんだかんだでテンポよく会話が転がっていく。

“仲間”というものは、こういうくだらないやりとりの中に絆を築いていくのですわね。


 


 * * *


 


「まずは、活動方針を決めましょう」


 教室の隅の空きスペースに集まり、簡易ミーティングを開始した。


「“誇り”を広めるって……具体的には何をするの?」


 そらが真剣な顔で聞いてくる。


「いい質問ですわ、そらさん。まずはこの学園内における“自己肯定感の低下”と“他者比較による自己否定”という問題を解決——」


「長い長い! もっとこう、わかりやすく言って!」


 悠馬がすかさずツッコミを入れる。


「要するに、“自分を誇れるようになるための手伝い”ですわ!」


「おおっ、めっちゃシンプル!」


 翔が拍手を送る。


「たとえば、そらさんのように“人前に出るのが苦手な才能持ち”を後押ししたり。

 翔さんのように“誇りはあるけど方向性が独特な人”を伸ばしたり」


「独特って……」


「悠馬さんのように、すぐ茶々を入れてくる人にも、マネジメントという役割を与えたり」


「役割あるんだ俺!?」


 そう、わたくしには見えております。

 この3人は、わたくしの“改革”に欠かせない存在なのです。


 


 * * *


 


「ちなみに、部室ってあるんすか?」


「ありませんわ。予算もございません」


「ないの!?」


「ですから、まずは実績を積む必要がございますわ」


「なるほど、庶民の言う“コツコツ積み上げる型”っすね!」


「いや、完全に“とりあえず動いてから考える型”な気がするけどな」


 悠馬は肩をすくめたが、笑っていた。


(この空気……なんだか、懐かしくて、あたたかいですわね)


 


 * * *


 


 その日。帰り際に、そらがポツリとつぶやいた。


「なんか、こんなに自分のこと“褒められる”ことって、今までなかったかも」


「それはきっと、あなたが“褒められ慣れていない”だけですわ。

 でも、あなたは気高く、才能にあふれた人。だから、わたくしたちはそれを肯定し続けますわ!」


「……神崎さんって、ちょっと怖いけど、やっぱり……すごいな」


「“ちょっと怖い”のは余計ですわよ?」


 そらがくすっと笑った。


 


 * * *


 


 その夜。


 LINEグループ『エレガント同好会』が正式に始動した。


 グループ名:エレガント同好会

 メンバー:リヴィア(莉愛)、そら、翔、悠馬


 トーク最初のスタンプは——

 翔「エレガントファイヤー🔥」

 そら「えれどーです(くまの絵文字)」

 悠馬「名前だけはもうちょっとなんとかならんかったのか」


「ふふ……これが、現代の仲間との絆なのですね……」


 スマホの光を見つめながら、わたくしは小さく微笑んだ。


 


 * * *


 


「それでは本日、初任務——開始いたしますわ!」


「おーっす!」


「え、ほんとに行くんだ……」


「俺は止めたからな……」


 その日の放課後。

 わたくし神崎莉愛(中身はリヴィア・グランフォード)率いるエレガント同好会の面々は、近所のカラオケ店に集結していた。


 目的はただ一つ。


“庶民文化・カラオケ”の真の姿を知り、音楽の誇りをこの国に取り戻すこと!


「そもそも“音楽”とは、人の心を高め、魂を揺さぶり、時に涙を誘う高貴なる芸術ですわ。

 それを個室で、マイク片手に、しかもテンションで乗り切るような行為に使うなど——信じられません!」


「え、じゃあなんで来たの?」


 そらが純粋な疑問を投げてくる。


「庶民改革の一環ですわ!」


「便利なフレーズだなそれ……」


 悠馬が肩をすくめ、翔は「ついに来たな……音の道も!」と謎の覚悟を固めている。


 


 * * *


 


 店員に案内されて個室に入ると、そこには想像以上に庶民的な世界が広がっていた。


 壁は防音材で覆われ、画面が一台、リモコンがふたつ、マイクが二本。

 ドリンクバーという謎の魔境まで完備。


「これが……音楽の“戦場”ですのね……」


「カラオケは戦じゃないって」


 悠馬の冷静なツッコミを背に、わたくしはまず“機器確認”から始めた。


「ふむ。これはリモコン……?」


「それ、選曲用。画面で番号入れて、曲決めんの」


「なんと。庶民たちは、音楽の女神を番号で呼び出すのですわね……!?」


「言い方が神話すぎる」




✿⋆。˚✩˚。⋆。˚✩˚。⋆✿


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