第2話 全方向魔法少女
突然現れた変態に、リンの頭は超スピードで混乱し始める。
なんで服を着てないのか、そもそも自分に何の用なのか、ていうかマントいる?イケメンが台無しじゃん、等様々な思考が脳裏を駆け巡る。
「少年、名前は?」
突然、変態が自身に尋ねてくる。素直に名前を教えていいのか迷ったが、まだ頭が混乱していたのもあって素直に答えてしまう。
「リン・リーゲイルだ」
「リンか、いい名前だね。君の希望にあふれたその瞳の輝き、その中に内包された少しほの暗い鈍色の心根にとてもよくあっている」
男はどこか恍惚的にそう告げる。その表情と言葉によって思わず鳥肌が立つ。
言わなきゃ良かった、とリンは心の中で深く後悔する。
古今東西いつの時代も、変態とは深くかかわるべきではないのである。
このまま相手のペースに飲まれては危険だ、自らのいろんな、主に貞操の危機を感じたリンはその場からの逃走を試みる。
「あのー、俺ちょっと今急いでるんで失礼しますね。またどこかで会ったらよろしく、出会いに乾杯ってことで……」
そう言って180度急旋回、その場から走り去ろうとするが、目の前には1秒前視界から消し去ったはずの変態がなぜか目の前に立っている。
「瞬間移動するタイプの変態なんて聞いたことねえよ……」
もはや目の前の相手への不信感を隠すこともせず、言葉が漏れ出る。内心まずいかとも思ったが幸か不幸か変態は自分の世界に夢中らしく、気にする様子を見せない。
「少し待っておくれよ、リン。僕はただ君のことがもっと知りたいだけなんだ。」
「俺ちょっと恥ずかしがり屋のシャイボーイなんで!初対面の人にはあんまいろいろ教えられないかなーって!ということでいったん今日はお開きにしませんか!」
「ああ、そんなにさみしいことを言わないでおくれよ。それに大丈夫、僕はどんな君でも受け入れるし、むしろそんな君だからこそ愛しいんだ」
どうやらこの狂人は言葉は理解できるが意思の疎通はままならないらしい。俺へ向けるまなざしも気のせいだと思いたいが、どんどん熱くなっている気がする。
もう一度振り返り逆の方向に逃げようとするが、またしても回り込まれてしまう。
「どうすりゃいいてんだよ、もう……」
「ああ、そんなに気を落とさないでおくれ、そうだね、少し引き止めすぎたよ。人見知りの君への配慮が足りていなかった。申し訳ない」
「そ、そうそう分かればいいんだよ、じゃお暇させてもらうぜ」
なんだか知らんが見逃してくれるらしい。ここは素直に帰らせてもらうとしよう。
再三振り返り、歩き出そうとするが右手をつかまれ引き留められる。
「おい! 放せって……」
「ごめんね、最後に一つだけ――君の本当の姿を見せておくれ」
その言葉を聞いた瞬間だった。全身に強い電流が走り、体が動かなくなる。歩き出そうとしていたため少し前に重心が向いていた体は受け身も取れずに正面から倒れる。しかし転倒の痛みは一切感じない。感じるのはただ、全身が訴えてくる違和感のみ。
「ああ、良い、良い、素晴らしいよリン!君は、君の本当の姿はこんなにも美しいのだね!」
上の方から変態が興奮している声が聞こえる。
クソ、こんなんだったら最初っから無理やり振りほどいても逃げるべきだった、というかそもそもこんな人気のない裏路地なんて来るんじゃなかった、と今更になって後悔がなだれ込んでくる。
「でも、君ではなかったみたいだね」
その言葉を最後にずっと感じていた男の気配が一瞬にして消え失せる。と同時に体の感覚が戻ってきて、自由に動かせるようになる。
「クソ、あの変態野郎ふざけやがって――」
そこまで言ったところでふと違和感を覚える。
「なんか俺の声、高くね?」
そこまで言ったところで今度は確信に変わる。間違いなく俺の声は高くなっている。
声の変化を自覚すると、次々と全身のいたるところが今まで共にしてきた感覚と食い違っていることが分かってくる。
ちらと視線を移しただけでも手足は縮んでおり、おまけに服もピンクのフリフリが多い格好に変わっている。
ふと耳を澄ますと水の音が聞こえてくる。そちらの方に目線をやると裏路地を抜けた先、少し開けた場所に噴水のようなものがあるらしい。
嫌な予感というか、ほぼほぼ確信となりつつある嫌な予想をそれでも否定するため、無我夢中で噴水のほうまで走る。
そんなわけがない。声が高くなっているのも、手足が縮んでいるのもおそらく何かの間違いのはずだ。だって、だってこんなことがあっていいはずが――
水面に映っていたのはピンクを基調とした、コスチューム衣装のような服を身に着けた可愛らしい女の子の姿だった。
「俺、魔法少女になってんだけど!!!!」
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