神様の言うとおり(適宜)

Ash

第1話 初仕事

1-1

 貴方は神を信じますか?

 私は正直信じていませんでした。つい最近までは……




『そこで待っていれば、仕事の相棒が来るよ』


 頭の中に響く声にそう告げられ、導かれるままに不思議な広間で待っている。

 丸い広間は、四方に伸びる通路以外目立つものは何もなく、静寂が支配する寂とした雰囲気をまとっていた。

 手持ち無沙汰にそれぞれの通路を覗いてみる(まあ、ひとつは私が外から入ってきた通路だけど)が、先が見えない程真っ直ぐ続いていることしかわからない。


 暇だなぁ……。

 そんな感情が芽生え始めた頃だろうか。通路のひとつからカツンカツンと、少し硬質な足音が聞こえてきた。

 おっ? と興味津々に音の方を向いてみると、通路に人影があり、こちらに向かってきている。


 どんな人だろうか?

 身長は私と同じくらいか?

 何か背負っているのか? シルエットが丸っこい。

 想像は尽きない。だが、時に現実は想像を軽く凌駕する。


 亀だ。

 亀が目の前に居る。

 しかも二足歩行。

 

 なに? え? はぁ?

 軽く……いや、かなり重く混乱に陥ってしまう。


「貴女がアイザワカレンさんですね? 今回ワーカーのパートナーを務めさせていただく、ガリエラ・タントスです。よろしくです」


 通路から現れた亀は、名を名乗ってフレンドリーに話しかけてくる。

 一方私は状況がまったく飲み込めない。飲み込めるわけがない。だって、私が聞いていたのは『仕事の相棒が来る』という情報だけだもん。

 亀なんて聞いてない。

 というか、二足歩行の時点で目の前の存在が本当に亀なのかもわからない。


 でも、とりあえずは落ち着け、落ち着け私。まずは挨拶だ。コミュニケーションにおける人類共通の重要事項だ。

 人類? ……いや、亀だってきっと人類だ。


「あ、はい。相沢花恋です。よろしくお願いします。ガリエ、え? タン、さん?」


 ダメだ。知能レベルが著しく低下している。名前が全然覚えられなかったよ。

 けど、目の前の亀は怒ることもなく、優し気な表情を浮かべてくれた。


「ガリエラ・タントスです。好きなように呼んでいただいていいですよ」


 良い人だ。いや、亀だ。


「じゃ、じゃあタントス……さんで」


「はいです。そちらは、アイザワさん? カレンさん? どちらが宜しいですか」


「よ、呼びやすい方で構いませんです」


 まだちょっと受け答えがおかしい。

 けど、目の前に二足歩行の亀だよ? 喋るんだよ? 仕方なくない?

 なんて、誰に対するかわからないような言い訳を頭に浮かべながら、いっぱいいっぱいの自分を何とか落ち着かせようと努力する。

 こういう時は、深呼吸をしながら素数で人の字を数えて飲み込めばよいんだっけ? ……ダメそう。


「では、カレンさんで。改めましてよろしくです」


 そうこうしているうちに、亀はそう言って右前足(手?)を差し出してきた。

 握手? だよね。


「こ、こちらこそ」


 私も右手を出して握りしめる。おっ、見た目通り柔らかい。

 そう。亀は亀でも、タントスさんは擬人化を果たしたような亀なのだ。しかも、昔の映画のような戦う系の亀ではなく、多分にファンシー要素の詰まった、ゆるキャラに近いタイプ。

 触っていると、何だか緊張もほぐれるよ。


「ん? どうしましたです?」


 いつまでも手を放そうとしない私に、タントスさんは小首を傾げた。


「いえ。可愛いなぁと思って」


 思わず本音が漏れてしまった。でも、本当に可愛いのだ。


「か、可愛いですか!? あ、ありがとうございますです」


 照れてる。やっぱり可愛い。


「では、カレンさん。早速ワーカーのお仕事に向かうとしましょうです。説明は途中で行いますし、聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてくださいです」


 お互いの挨拶が終わって、タントスさんが先に立って歩き始める。


 そう、お仕事。

 今日は私の初仕事なのだ。

 何のことかさっぱりわからないと思うけど、私もよくはわかっていない。

 まずは、そこから話していこうと思う。

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