第一章 最初の村
第1話 風の国の二輪の百合
勇者は歩き始める。
振り返らずに。
距離が一歩、また一歩と遠ざかっていく。
仲間たちが何があったのかと勇者の方を見るが、勇者は何も言うこと無く前に進む。
仲間…、聖女もハンターも私の方を心配そうに見て、それから勇者の後に続いた。
既視感があるなあ…。
青い空を見上げてあの時を思い出す。私に首輪がついた日、逃げ出せなくなった日を思い出す。
_____________
【数日前】
「なんで!?!」
私の襟元を掴み、今にも殴りかかりそうなほど力をいられる。伸びた背中は逃げるようにのけぞり、少しでも対等になろうと力がこもっていた。
久しぶりにみた祭典用の服。目の前の彼女は美しい金色の髪を一つに整えて、宝石が散りばめられた最高級の装束。国を守るべき剣士として誰が見ても羨ましい、そんな美しい人だった。昔から綺麗な顔していたが、やっぱり大人になっても綺麗なのは変わらない。そんな彼女が王国の一室、そこで私の首元を掴み、鬼のような形相で怒りを露わにしていた。
「落ち着いてって、ただ協力してくれればいいんだよ。私がいなくなって上手くいくじゃないか。もし、ダメだったら最後に合流するからさ。」
「貴方は国の代表として一緒に旅に出るべきよ!!なんで今更そんなことを言うの。
なんで…
パーティに選ばれた貴方が…
私に頼んでまで逃げようとしているの!?」
「ちょっと!ヒカリもアイリスも落ち着いてよ!」
先ほど祭典が終わった時から私は勇者に引っ張られるようにこの部屋に入ってきた。そして、それを見ていたのだろう。ハンターと聖女もあわててこの部屋に入ってきたんだ。
私達を止めるようにハンターが間に入ろうとする。
しかし…私は、その手を払いのけた。
言わなければいけなかった。
きっと、、彼女たちは分かってくれるって。
「…国に帰らなければいけないんだ。教会の信託は残りの国力を合わせればって、魔の地についてだろ??私がいても居なくても魔の地に辿り着くには時間がかかる。
…だからいいじゃないか。私は用事をしてから時期を見て直接向かわせて欲しい、」
「だって…だって!!!
ずっと、10年も!!私達この旅に出ることを知ってたじゃないの…!恐れる私に、励まして元気づけて、これからも支えるって言ってくれたじゃないの!!!
貴方は…私のお嫁さんでしょ…?
ね??わたしをひとりにしないでよ…。」
「…ヒカリ。ごめん。
私達は結婚できないよ。…嘘ついてたんだ。
確かに私達は許嫁だ。
でも…元々結婚する気なんて無かったんだ。」
「…嘘。私はあのとき貴方が嘘ではないことを知っていたわ!!!!だって、、私は、、本当のことを知れるんだもの!!」
「……あの時はね。
だけど…
今は? 」
「ふざけないで!!!!!!!!」
ヒカリの金色の目が段々と赤く染まる。黄金の美しい色が夕焼けのようにどんどんと赤く染まってくんだ。
私はそんな勇者の力に耐えられなくて、足がドンって床に倒れ込む。そして床に挟まれるように勇者が目の前にいた。
上から雫がぽた…、ぽたっと落ちてくる。
ヒカリ…は真実の目で見たはずだ。私が嘘をついていないことを。結婚する気はないということを理解したはずだ。
だから____
私は…風の国出身。
風の国は昔に戦争で敗れたことによって領土の4分の3割取られてしまった。そして国の半分が聖女の国、聖マロン神聖国となった。
そんな国出身の私は…幼い頃から複雑な家庭環境で育てられた。そもそも私の国自体で生まれることが負けることと一緒だった。奴隷のように扱われ、干上がった地、人々は生きていくのに必死だった。
でも…私は第二王女として誕生した。物心ついたときには母はいなかった。でもお姉ちゃんがいた。とても優しくて大好きなお姉ちゃん。でもお父さんは最悪だった。国王たる父は私達のことをコマのように扱っていた。
時には殴り、時には…献上した。強い国のものに貸し出したんだ。
私がやさぐれるのも仕方ないだろう?でもお姉ちゃんは違った。どんなときにも真面目でちゃんとしてて、誰もを喜ばせた。
私はそんなお姉ちゃんを嫌いになった時もあった。だって、嫌な事を嫌がらないんだもの。助けて欲しいとき、私に謝れって、、ある意味立場としてただしい立ち振る舞いを求めてきたんだ。
だから…だから、私はどうでも良くなってた。勇者との婚姻が決まったのだってちょうど良いぐらいに思ってた。私の国では女同士の恋愛は御法度だった。歴史だけはある古い国であったからかわからないんだけどね。でも、私はどうでも良かったからそんな人生もいいかなって。
お父様が何を考えてそんな政略結婚をさせようとどうでもよかった。父は色んな国の人に私を結婚させるって言ってたらしい。だから、ハンターも聖女も結婚相手にしようとしてたって聞いたのは後のこと。私自身も知らない間に…ね。
最終的に大国の勇者というところに決まったのは価値を見て選んだんだろう。
ただ…ここにきて、お姉ちゃんが力を求めてきたんだ。父を倒し、国を復活させるって。
私、ヒカリと結婚して戻らない予定だったんだ。だけど、お姉ちゃんが初めて私を頼ってくれたんだ。
私が大好きなお姉ちゃんの顔で、私を求めてくれたんだ…。
だから、
ヒカリ「ごめんね。」
「…許さない。」
ガチッ
「えっ…」
今まで黙っていたヒカリ。
左腕を挙げて、そのまま私の首元は添えた。
彼女は怒ってるから首でも絞められるんだろうか…そう思ったときに変な音がした。
ヒカリ…は笑っていた。
涙をこぼしながら楽しそうに笑っていた。
「…何これ。」
「ははは、言う通りになったわ。そんなことあるはずない、そう思っていたんだけど。…貴方のお父様がくれたのよ。貴方が結婚から逃げたときに使いなさいって!!!
結婚前に使うと思わなかったけど、、でも良かった。
これで貴方は逃げられない。
私から逃げることなんてしないんだわ。」
首元には硬い金属のような冷たい何かが巻かれている。取ろうとしてもどこが裂け目なのかわからない。でも取らないといけないって必死に思った。でも爪でも魔力でもどうやっても取ることはできなくて…。
ヒカリの聞いたことない笑い声だけが響いた。
逃げ出さないといけないと思った。早く、お姉ちゃんの元へ行かないと行けないって思った。
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