序章4 勇者様は人を助けるよ


一般的な冒険者は2〜8人で行動する。勿論、私たちも例外ではなく4人で行動してる。どんなに強くてもソロプレイを行うプレイヤーはいない。メリットがないのだ。


冒険者はダンジョンや魔の地に赴き、魔物を倒したり、お金を稼ぐ。もちろんその地域に根付いた依頼もあるが、冒険者になるものの多くはお金稼ぎが目的のため、やはりその地を求めて移動しながら生きていく。最初に訪れるのはギルド。冒険者ギルドには依頼、それに伴うランクがあるのだが、一人で受けられるのはEレベルまでだ。


さて、なんで最初にこの説明をしたかって?









「…そこで何をしている?」


「おおっ、威勢がいいな。なんだお前ら!美人揃いじゃないか、変な趣味のやつもいるが、俺は行けるぜ…??」


「クソどもが。」


「ははは、今日はいい日だな!新しい獲物が5体になったぞ!」



片目を眼帯に、ナイフのようなものを片手にニヤニヤと笑みを浮かべる小汚い男。その足元にはきていた服を破られたのだろうボサボサになった髪、そして脱げた足、掴まれた腕と散々な状態の男の子がいた。


男の掛け声と共に男の子の後ろにいた集団がどんどんとこちらに歩いてくる。


「ねえ…どうする?」


「何言ってるのアイリス、助けるよ。」


「流石…かっこいい」


「…急に褒めないで」


「ごちゃごちゃごちゃごちゃいってねえーでよ!!!今の状況分かってんのか!!!!殺すなよ!!!べっぴんだ!!!」


















○○○○○○○



宿を出てギルドまでは徒歩で数分との距離。しかし、出た直後にハンターちゃんが耳をぴこぴこし始める。そのあとクンクンって何かを嗅いだようにし始め、、私たちの方に困ったような視線を送ってきた。


「匂う…、あと少し声が聞こえる。」


「何の声?聞こえないけど、」


「こっちの方からする…」



そう言って地面を眺めるように歩いてしまうハンター。なんだよって思いながら勇者と聖女を見ると2人とも困ったようにしながらもついていく選択肢をしたようだ。


そして、ギルドを通り過ぎ、少しだけ道具屋などの大通りを抜けて村の外れの方はきた。しかし、それでもハンターは止まらずにどんどん進んでしまう。もはやこの頃には少し駆け足になってきた。


辺りを見回すと人通りがほとんどなく、いくつか建物がありながらも朽ち果てたものもあったりする。あまり使われてないエリアのようだ。


ハンターが立ち止まる。

そして、一つの家と家の間の小道のようなところを見ている。


なるほど…。危ないなあ。



大勢に取り囲まれて今にも襲われそうな若い男の子。服は切られて、涙をボロボロとこぼしながら必死に助けを呼ぼうとジタバタしている。近くに来ても声が聞こえなかったのは既に口元を締め付けられるように閉ざされているからだろう。


8〜9人ほどだろうか、囲み方、そして場所としても手慣れてると感じる。


で、誰がやるか…?私がそんなことを考えていると勇者が剣を抜きながら一歩前に進んだ。さすがうちの勇者様、正義感に溢れてるね。









○○○○○○○




ガキンッ!!

どんっ、、


勇者だけでなんとかなっている状況。私はそっと救い出した男の子をぽいっと聖女さんに手渡して、ハンター共に傍観してる。

危なげない綺麗な戦い方をするなって。何人もが束になり、同時に攻撃を仕掛けたりするが後ろに目があるように避けてしまう。

そんな現状を見て、慌てたのかボスらしき男が大声で怒鳴る。




「なんだこの女、強えぞ!!!魔法を使え魔法を!!!」


「あれーー?いいの??」



思わず声を出してしまう私。



「いいからやれ!!!」




まじかよ。でもこれは正当防衛になるのかな?私は右から短剣を取り、魔力を纏わせる。そして勇者のみが斜め先に剣を振るう。


「ファイヤボ……」

「ウィン…」

ものすごい風のような速度で、今まさに魔法を出そうとしたごろつきどもの手をスパッと切ってしまう。



「あああ!!!!俺の手が!!!!!」


「おまえ、、魔法剣持ちかよ!!!!くそっ、逃げるぞ!!!!」


そんなこと許すかよって、


「ヒカリ!!!」



私は勇者に向かって合図を送ると、そのまま逆方向に飛んだ。文字通り"飛ぶ"。そして着地はまだ元気がいいごろつきどもを超えて、、。


当然現れた私に驚いたボスらしき男、そしてまだ1人走ろうとしていた細身の男が足を止める。その瞬間、勇者の拳が二人を宙に飛ばした。




「…なんで、今になって名前呼ぶのよ。いつも呼んで欲しいって言ってるのに。」


「そうだよ!僕の名前も呼んでくれないじゃん!ヒカリばっかりずるいよー!」


「まあ、勇者パーティなんてばれない方がいいからね。特にこんな奴らにね。でも名前呼んだっけ?」


久しぶりにみた機嫌よさそうな声。顔は不機嫌な勇者。名前なんて付けられたものにすぎないのに価値あるのかななんて捻くれたことを思いつつ、言葉を躱わす。いつか逃げ出すパーティだ。…あまり名前なんて呼んで愛着が湧いてしまっても困るしね。



後ろを振り返るとハンターがみんなの事を締め上げてくれたようだ。これを衛兵に送れば終わりなんだけど…あまりにも人数が多い。どうするかね。


ハンターが褒めて褒めてとでもいうように頭を差し出すものだから撫でながら考える。ふむ…、



「アリス、男の子の調子はどうだい?」


「治療はしてみました。やはり怖かったのでしょうか、その後すぐ気絶してしまって…。」


「そしたら…、私こいつらを見てるから、勇者とハンターで衛兵呼んできてよ!ハンターはウル出せる?男の子と聖女でギルドに報告するのがいいかな?」


「出せるよー!でも、一人で大丈夫?」


「大丈夫だってーば!私強いの知ってるでしょ?」


「…アイリスを一人にはできない。逃げようとしてるんでしょ…?」

 . . .

「ヒカリちゃん、私が逃げ出せないことは知ってるでしょ?位置情報だってわかるんだ。もしだよ?もし仮に私がやばい状況になってたらこの素晴らしい首輪が教えてくれるじゃないか?」



首輪を見せながら笑ってやる。きっとそこには【 0%】と書かれているはずだ。複雑な顔をしながらも渋々とした様子で勇者は頷いた。


そしてハンターがウルという大きい狼のような使役獣を出し…勇者と共に駆け足でこの場所をさった。可愛い、早く戻ってきたいんだろうなっていうのがわかるねえ…。



そんなこんなで勇者たちが行ったのを確認して私はまだ意識のありそうな男たち一人一人の耳元で小さく魔法を使う。


「ハリケーン」



耳の中に入っていた小さな魔法は、ひとり、また1人と意識を失わせる。



そしえ私は呻き声をあげる一人の男の元へとあるいた。




「ねえ…魔法壁使って?

小さくでいいよ。声が聞こえないぐらい。念の為ね?」


「お、おまえ、同郷か…。はっ、こんなところで会えるとはな…。」


「馬鹿だなあ…、でもよくここまで来れたね。だって大国のお膝元の街じゃないか。」


「まあな…。と、ところで、逃がしてくれたりするのか?」


「うん、いいよ。その代わり国に戻ってリリー様のところへ行って。アイリスって言えばわかるから。」


「あ、あいりす様…?あのアイリス様がなぜここに…!」


「じゃあ離すよ。戻りたくないと思うけど、戻ってね。ただリリーの元に行ったら大丈夫だと思う。計画は始まっている。」


「…貴方の元は風が吹く事を。」




男は手を切られた事でふらふらとしながらも魔法を使って空に飛ぶようにかけていった。


やることはやったし、暇だななんて思ってると、



「おい、おまえ、俺も逃してくれ!お前何か取引しただろ??金か??なんだ??出せるものなら出すぞ!!!!」




うわ、やらかした。全て気絶させたかと思いきや、奴らのボスはしてたフリをしていやがったみたいだ。キーキーと喚くように騒ぐ。一応念のため声を聞こえないようにしてたのはよかったな。

まあ、でも見られちゃったしね。



「ふーん。じゃあ、いいよ。何が出せるの?」


「金は今これだけ出せる。」


「証拠は?」


「俺の右ポケットに入ってる。」



言われた通りに右ポケットを見ると、小さな小袋が出てきた。うわっ、こいつ悪どいことばっかしてたんだな。これ魔道具だ。お金入れの魔道具はある程度流通している。勿論一般人には出さないが、魔道具の中では比較的手が出しやすい部類に入る、


だからこんな小さな小袋の中になかなかの金貨がためてあるのがわかった。



「ふーん。足りないけど…。」


「もうねえよ!!許してくれ!!俺にはまだ小さい子供がいるんだよ。」


「騒がないでよ、いいよ。」


「たのむって、いいのか!?」


「ほらっ、行って?」



あっさりと許されたことに驚きながらも、流石歴がありそうなだけある。紐が切られたことを知るや否や一気に私に背を向けて走り出した。




スパッ




首が飛んだ。







「やっぱ怒られちゃうからさ、色々と。」



私は血がついた剣を拭きながら、倒れた男の元にあるく。男を一人逃した事がバレるのはいい。しかし、真実を知られては困るし、簡単にこの男は言ってしまうだろう。


それは困るんだよね。



私はその男の眼帯を取る。



「あと、ほら何も持ってないって持ってたじゃないか。嘘ばっかは困るんだよね。」




私はその眼帯を先ほどもらった小銭袋に入れる。そして、肩にかけてたマントを取り男にかけた。彼女たちにはまだ刺激が強い。



計画は始まっている。勇者達だって国に基づいて色々考えがあるんだろう。パーティは勿論世界を救う。だけども私にとってパーティとは檻のようなものだ。私は王女としてやるべき事がある。だから…帰らないといけないんだ。お姉ちゃんの元に。でも、何よりもお姉ちゃんに褒めてもらえるからね!だから、頑張らないと!!


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