第21話 死なないで


「悪かった、長電話して」

「いいよ、気持ち、落ち着ける時間になったし……」


 目を腫らしたまま、小鳩がまなじりを拭って笑った。残路が、微笑み返す。


「これからどうするの」

「そうだな……」


 残路が、口元に手を持っていく。もって行ったまま、彼は咳き込んだ。

 手を、そっと口元から離す。

 その手には、真っ赤な血が滲んでいた。小鳩の目が、大きく見開かれる。


「残路!?」

「はは……っ……思ってたより……」


 小鳩の隣で、残路がゆっくりと床に倒れて行く。


「……思ってたより、辛くない……」


 慌てて、小鳩が残路の肩を抱きとめる。残路の口端から血が垂れて、床を濡らした。


「だが、早すぎる……」


 そのまま、残路の瞳が虚ろになっていく。小鳩は残路を床にそっと寝かすと、急いで部屋から出て、父親を呼びに走り出した。


「父さん!!」


 リビングにいた父親が、小鳩に驚いて振り向く。祖父母も何だ何だとやって来た。


「どうした?」

「の……烏丸先生が倒れた!」

「何!?」


 父親が小鳩の部屋に入り、残路の様子を見て、「大変だ……!」と言いながらスマートフォンを取り出した。画面をタップして、救急車を呼ぶ。


「残路……!」


 体が信じられないほど冷たい。小鳩は、床に倒れた残路の手を必死に握りしめた。


「大丈夫、大丈夫だから……!頑張れ!頑張れ……!」


 残路の体はかすかに震えていて、手は氷のように冷たかった。


(どうしよう、どうしたらいい……!)


 小鳩は彼の体に毛布を掛けて、片手で身体をさすった。

 救急車のサイレンが、遠くから聞こえ始めた。


「大丈夫、もうすぐ救急車がくるから……!」


 救急車のサイレンが遠くから聞こえ始めた。

 残路が、薄くまぶたを開ける。


「小鳩……」


 弱々しい声が、掠れた息の下から漏れた。


「何……?」

「俺が死んだら……」

「まだだよ!」


 小鳩は思わず残路に向かって叫んだ。


「こんな所で死なせない!残路、だって……!」


 小鳩が言葉を詰まらせた。目の奥が熱い。さっき乾いたばかりの涙が、止めどなく溢れてくる。


「残路はまだやることが残ってるだろ!」

「……そうだな……」


 残路が、はぼんやりと天井を見つめた。


「本当に、そうだ……」


 自分に言い聞かせるように、残路が囁く。

 その瞬間、玄関の扉が勢いよく開く音がした。


「救急です!」


 隊員たちが駆けこんで来る。祖母が、小鳩の部屋に隊員たちを誘導する。


「こっちです!」


 隊員たちが部屋になだれ込んで来る。彼らは、すぐに残路に駆け寄ると、素早く処置を始めた。残路は目を閉じていて、最早隊員の呼びかけにも応じない。


「血圧低下してます。意識レベルGCS7!搬送します!」


 隊員の一人が無線で連絡をとる。小鳩は立ち上がり、残路の手が担架へと移されるのを見つめていた。










✧••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✧


面白いと思ったら、☆評価・レビュー・フォローよろしくお願いします!

評価ボタンは最終話の下にあります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る