3話 突撃!隣の住人さん!(前編)

「みんなが準備終わるまで、まずは私の部屋に来てよ」


男性陣が部屋の片付けをしに、それぞれの部屋へ向かったあと、蒼空そらがそう言った。


「自分も行くっす!できるだけ長く話して早く朱乃さんと仲良くなりたいんすよ~」


そう言うと小さい女の子は私の腕にしがみついてきた。


「えっと…お前は…」


「あ、自己紹介してなかったすね!自分、星宮 椿ほしみや つばきって言うっす、よろしくっすよ~朱乃さん」


朱乃さん…なんだかこそばゆい感じだ。いや、まあ私より年下だろうから喋り方も特段違和感はないのだが


(なんとなく…落ち着かないなぁ…)


「ふふっ、良いね。女子でしかも歳が近いもの同士、仲良くしなね」


蒼空はそう微笑むと、部屋に併設へいせつしてある台所に向かう。


台所に入る直前に蒼空は私に声をかけてきた。


「お菓子とかお茶持っていくから、先にお部屋行っといてくれる?鍵はさっきの束の1つで開くから」


「わかった。じゃあ、先に行っておくよ」


「お願いね~」


 --------


「えー!?じゃあ、朱乃さんって制服しか持ってないんすか!?」


「あぁ…まあそんな出かけないし、これがあれば十分なんだよ」


蒼空の部屋に入ると椿に様々な事を聞かれた。

誕生日やら、血液型やら、これまでの生活のことや、とにかく沢山聞かれたが今はファッションの話になった。


「なら、今度一緒にお買い物行きましょう!お洋服とか、あとはアクセサリーも買うっすよ~」


「いや、いいよ。私そんなに金無いし…」


「大丈夫っすよ~お金ならつばささんが出してくれるだろうし、いざとなったら自分が出しますんで」


「そ、そうか」


椿がドヤっとしている。

あの人ならともかく、椿に他人の服を買ってあげるほどの金があるのだろうか?


そう思っていると、お茶とお菓子をのせたお盆を持っている蒼空が入ってきた。


「何話してるの?」


「聞いてくださいよ、蒼空さん!朱乃さん、制服しか持ってないって言ってるんすよ!」


「ほんとに…!?朱乃ちゃん、可愛いからどんな服でも似合うでしょうに」


「いや…可愛くはないと思うが…それにしてもいい匂いだな。紅茶か?」


そう言うと蒼空はコクっと頷き、部屋の中央にあるちゃぶ台にお盆を置くと、ティーカップを渡してきた。


「ダージリンティーだよ。砂糖とミルクいる?」


「いや、大丈夫だ。このままでいいよ」


「そっか。…はい、椿ちゃんはミルクたっぷりね」


「ありがとうございます~」


飲んでみると、爽快感そうかいかんがあるさわやかな味だった。

とても好みの味だ。


「えーと、自己紹介するだったよね。椿ちゃんはもう名乗った?」


椿は笑顔でうなずく。


「そうっぽいね。2人楽しそうに話してたし、私と話してた時よりも朱乃ちゃんも話しやすそうだったしね」


「そ、そうか?」


「うん。敬語じゃなくてすぐにタメ口だったからね」


言われてみればそうだ。

やはり、年下の方がガキの面倒見てたのもあって接しやすいのかもしれない。


「じゃあ、私の名前改めて教えるね。私は稲原いなばら蒼空そら。さっき言ったけど、蒼空で大丈夫だからね。」


「わかった。改めてよろしくな、蒼空」


「うん。えっと、じゃあ私たちからは白狼隊のこと教えようかな」


「白狼隊…さっきから言ってるやつだな。翼も言ってた」


「白狼隊を説明するにはまず、ウォンデッドに付いて説明しなきゃっすよね。知ってます?朱乃さん」


「あぁ、知ってるよ。30年前の大戦で現れた未確認生命体だろ?」


30年前の大戦。人類と未確認生命体ウォンデッドとの戦い。

何を望んでいるかもわからない、それと人類は多くの犠牲ぎせいを払う結果となったが、勝利した忌々いまいましい歴史だ。


「だが、そいつらって絶滅ぜつめつしたんだろ?あの大戦で1匹残らず駆逐くちくしたって話だが」


「それは、表向きの情報っすよ。そもそも人類があんなにも苦戦した戦いの敵を抹消まっしょうするなんて無理な話っす」


「ウォンデッドはね、生き残りがいたの。そいつらは再集合して新たな組織を立ち上げたのよ」


「新たな…組織」


「私たちはその組織をXと呼び、壊滅させるために結成されたレジスタンス"円卓えんたく騎士きし"の1部隊。それが白狼隊はくろうたいよ」


「基本的に円卓の騎士ではウォンデッドを倒すことを信念にあげているっすよ」


「なるほどな…で、何でその白狼隊さんが私を引き取るんだよ?」


 私が疑問を持つと。2人は少し表情を落として、こう言った。


「詳しいことは言えない。けどね?翼さん…白狼隊の現隊長であるあの人はあなたに何か可能性を感じているらしいの」


「らしいっすね。どうやらなんかあるらしいですよ、あなたには」


「…」


私はまだ疑問を持った。

聞きたいことも多かった。

しかし、聞けなかった。

あの2人の顔…しんみりとした表情を見ると、聞いちゃいけない気がした。

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