第2話 魔王軍の雑用係
俺はオークに引きずられるように魔王城に入った。目の前に広がるのは広大なホール....のはずだったが、そこにあったのは荒れ果てた空間だった。
床には泥や埃が積もり、そこら中に紙くずが散乱している。壁には蜘蛛の巣が張り巡らされ、天井からぶら下がる巨大なシャンデリアは半壊していて、今にも落ちそうだった。
「........ここが、魔王城?」
俺の呟きにオークが鼻で笑う。
「ここは魔物用の入り口だからな。魔族が使う場所はもっと綺麗だぞ」
「....魔族?」
俺は思わず聞き返す。
「魔物と魔族は違う。俺たちみたいなのが魔物で、魔族は見た目が人間に近い。あいつらは魔力が多くて、頭も回る、そして、何より........」
オークは少し嫌そうな顔をして続ける。
「プライドが高い」
なるほど....つまり、ここは魔族の使う正面玄関ではなく、下っ端が通る裏口ってわけか。
俺が不安を抱えたまま歩いていると、周囲の魔物たちの視線に気づく。
「....人間がいるぞ」
「なんで、人間なんかがいるんだ?」
「....くそ、居心地悪いな........」
冷ややかな視線が突き刺さる。俺は思わず身をすくませた。
ーーー
「さあ、着いたぞ。ここが面接会場だ」
オークがそう言って押し開けた扉の向こうには、広々とした部屋と数人の女性……おそらく先程話していた、魔族と呼ばれる者たちだろう。
さっきまでの廊下とは打って変わって、この部屋は豪華だった。黒と金を基調とした装飾に、磨き抜かれた床。中央には長いテーブルが置かれ、その奥には黒髪の女性が座っている。
「あなたが今回、雑用係として面接に来た人ね?」
知的な雰囲気を漂わせたその女性は、書類をめくりながら俺を鋭く見据える。
「え、えっと……そう、です……?」
俺の答えに、彼女はわずかに眉をひそめた。
「まさか人間が来るなんてね……あなた、名前は?」
「宇多見ユウキと申します……」
彼女――クロエは軽くため息をついた。
「私はクロエ。魔王軍の参謀を務めているわ。まず、雑用係の採用試験を受けてもらうわよ」
「えっ、試験?」
「当然でしょ? 無能を雇うほど、魔王軍は甘くないの」
俺が返答する間もなく、試験が始まった。
ーーー
試験内容は、掃除、書類整理、物資管理――
どれもブラック企業で鍛えられた俺には造作もない仕事だった。
そして気づけば、課題はすべてクリアしていた。
「ふむ、少なくとも雑用係としての適性はあるようね」
クロエが書類を眺めながら頷く。
「人間を雇うなんて、馬鹿げてる」
そう言ったのは赤髪の魔族だった。長い赤髪をなびかせ、腰に下げた剣を握り、鋭い視線を俺に向けている。
「アイシャ、もう決まったことよ。私の決定にとやかく言わないで」
クロエが淡々と応じるが、彼女は納得いかない様子で剣の柄に手をかけた。
「信用できるわけがないだろ」
「……」
幼げで、髪を肩くらいで切りそろえている青髪の魔族が俺をじっと見つめている。
「アイシャ……殺すのは、まだ……ダメ。」
「は? なんでだ、リリス?」
「利用価値はある....まだ壊しちゃダメ。」
「こ、壊す前提!?」
俺の叫びを無視し、アイシャは渋々剣を納めた。
「........お前の判断に従おう。」
「ありがとう、アイシャ。」
クロエが軽く微笑むと、俺に向き直った。
「さて、あなたの正式な配属先だけれど……」
クロエは少し思案する素振りを見せたあと、微笑を深める。
「とりあえず、しばらくは私の監視下に置くことにするわ。」
「えっ?」
そう言いながら、クロエはゆっくりと俺に歩み寄る。
「しばらくは、あなたが『使える』かどうか……じっくり見極めさせてもらうわね?」
――結局、異世界に来てもブラック労働からは逃げられないらしい。
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