異世界転移したら魔王軍の雑用係になりました~雑用係なのにスキル《魔族魅了》のせいで幹部のヤンデレ美人魔族達に狙われてます~
わーにん
第1話 異世界転移
――それは、突然の死だった。
ブラック企業で深夜まで働き、疲労困憊の俺は、目の前の横断歩道に気づかないまま足を進めた。
「........まあ、いつもの残業だしな....って、あれ?」
視界の端には、ライトの眩い光。次の瞬間、激しい衝撃。
そうして俺は齢26にして死を迎えることになった。
ーーーー
気づけば、俺は広大な森の中に横たわっていた。あたりを見回すと、木々の枝には毒々しい色の果実がぶら下がり、地面には見たことのない紫色の草が群生している。どこか湿っぽい空気と、生臭い匂いが漂っていた。
頭上を見上げると、薄暗い空に赤黒い雲が不気味に渦を巻き、その中央には巨大な赤い月が浮かんでいる。見たこともない光景だが、どこか嫌な胸騒ぎを覚える。
「ここ、どこだ....? まさかこれが転生ってやつか........?」
よくあるライトノベルの設定、《異世界転生》。いや、俺の状況なら《異世界転移》というべきか。頭が混乱する中、周囲を観察するが、俺の持ち物はどこにも見当たらない。仕事用のカバンも財布もスマホも消えている。
「こういうのって神様が出てきて、チート能力とかくれるんじゃないのかよ........」
周囲には獣の鳴き声が響き、木々の陰からは鋭い視線を感じる。どうやらここで立ち止まっているわけにもいかなそうだ。
「とにかく水とか食べ物を確保しないと....いや、その前にこの森を抜けないとダメか。」
生きるか死ぬかの状況に置かれているのは明白だが、不安や焦燥感よりも高揚感が勝っている自分がいた。「これが異世界か」と実感しながら、俺は慎重に歩き出す。
ーーーー
どれほど歩いただろう。息も切れ、足は棒のように重くなる。それでも進んでいくうちに、木々の隙間から異様な建物が見えてきた。
「.....城?」
森の中にそびえる巨大な黒い建造物。それは、ただの城というよりも、RPGゲームの最終ダンジョンのような禍々しい雰囲気を放っていた。塔の先端には雷雲がまとわりつき、石壁には何匹もの魔物の彫刻が刻まれている。
「どう見てもやばい場所だよな、ここ.......」
現実感のない光景に呆然としていると、ふと背後から低く重い声が響いた。
「おい、そこで何してる人間。無許可でこの地をうろつくとはいい度胸だな。」
心臓が飛び出るほど驚いて振り返ると、そこには豚の化け物――恐らくオークであろう魔物が立っていた。
体長2メートルはある巨体に、筋肉質な腕。その手には、見上げるほど大きな斧が握られている。
「こんな所に迷い込むなんて不運な奴だな。せめて苦しまないようにこの俺様が一撃で殺してやるよ。」
オークは斧を振りかざし、一歩こちらに近づく。その一歩一歩が地面を震わせ、俺の思考を凍りつかせた。
「ま、待ってくれ! お、俺は....ま、魔王様の命でここに来たんだ!」
とっさに嘘を吐く。こんな化け物を相手に正面から戦えるはずもない。苦しい嘘だが、少しでも時間を稼いで逃げる隙を作るしか、俺が生き残れる道は無い。
「魔王様の命....?魔王様を嘘に使うとは、なんて奴だ。」
俺の言葉に眉をひそめたオークだったが、何かを思い出したかのように、表情を変えた。
「........待てよ。お前、雑用係の面接に来たやつか?」
「め....面接?」
どうやら俺の発言が都合よく解釈されたらしい。オークは急に態度を変え、馴れ馴れしく肩を組んできた。
「そうかそうか。いや、遅れてくるなんて間が悪い奴だな! でも安心しろ。俺が会場まで案内してやるよ。」
「え、いや、ちょっと待っ――」
反論する間もなく、オークは俺の腕を引っ張り、黒い城へと向かって歩き出した。
ーーー
道中、俺は心の中で何度も「どうしてこうなった」と叫んだ。とはいえ、この状況で下手に逆らえば命の保証はないだろう。とりあえず様子を見るしかなかった。
魔王城の入り口に近づくにつれ、その威圧感はさらに増していく。扉には赤い魔法陣が刻まれ、中から漏れる紫の光が禍々しい雰囲気を醸し出している。
オークはそんな雰囲気には慣れているのか、軽い足取りで俺を引きずっていく。
「お前名前はなんて言うんだ?」
「宇多見....ユウキです....」
「良かったなユウキ!雑用係の仕事は楽じゃないが、命の危険は少ないぞ。たぶんな。」
「たぶんって........」
俺の異世界生活は、思っていたものとは全く違う形で幕を開けることになったのだった。
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