あの夢を見たのは、これで9回目だった。
ちきりやばじーな
10回目の夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
あの夢を見た日は、決まって窒息感と共に目が覚める。
最悪の気分のなか学校に行く。電車に乗るのも少し怖くなる。
クラスの友達に話すとある程度スッキリする。だから私は時々友達にこの夢の事を話したりしている。
初めてあの夢を見た時は、景色がはっきりしてなくて、ぼやっとした夢だった。
その頃私は角膜に異常があり、移植手術をして退院ばかりだった。
きっと、起きている時の感覚がそのまま夢にも反映されてたのかもしれない。
目を瞑ってしばらくすると、地上に広がる夜景を見下ろすことの出来る部屋にトリップする。
夢とは思えないくらいに現実感のある場所。そこで男と裸で過ごしている。
男の顔は見えない。
『ねぇ、別れようか』
夢の中で私がそう言うと喧嘩になり、男が首を絞めてくる。
そして最悪の気分で目覚め、生を実感する。
3回目くらいから『またこの夢だ』と思うようになった。
けど、夢の中の私はいつもきっかけのセリフを言って、バッドエンドに辿り着いてしまう。
結果は変えられない。
あの夢を見るタイミングはよくわからなかった。
4回目、男が私の名前を呼んでいるのに気がついた。私はこの夢の中では『ミナ』という名前らしい。
回数を重ねるごとに、あの夢の輪郭がはっきりしてきていた。
友達に話す事で自分の頭が整理整頓されたからなのか、鮮明になっていった。それか角膜が馴染んできて感覚とリンクしていたのかもしれない。
けど、相変わらず男の顔だけは見えなかった。
5回目、男の腕に大きなアザがあった。
6回目、そのアザが鮮明になって、黒い薔薇のタトゥーだとわかった。
7回目、男の声に聴き覚えがある感じがした。
8回目、スマホの日付を認識した。3ヶ月前の3月20日だった。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
次にあの夢を見たら10回目、何かが起きるかもしれない。
「あの・・・似鳥陽央さん?」
気分が優れず一人でいると、違うクラスの子から話しかけられた。
誰だろう?
どうして私の名前を知っているんだろう?
「あっ、ごめんなさい人違いでした」
「あ、いや、急に名前呼ばれたからびっくりして・・・」
「あっ、よかった合ってた」
「あの・・・?なに・・・?」
「あっ、あのっ・・・へっ、変なこと聞くかもだけど・・・」
私は何を聞かれるのか構えた。
「毎晩男に殺される夢見てませんかっ・・・」
驚いた。どういう偶然だろう。
「あっ・・・そっ、そのっ・・・こないだ・・・似鳥さんがクラスでそう話してるのを聞いちゃって・・・」
訂正、違うクラスだと思っていた彼女は同じクラスだった。
そういえば一人、このクラスになってから2ヶ月くらい欠席していた子がいた。確か入院していると担任の先生が言っていた気がする。
そうか、この子だったのか。名前はなんだったっけ?
「あ・・・私しばらく休んでて・・・」
「あー、えっと・・・移植手術受けてたんだっけ?」
「そ、そぉ!そうです!」
「めっちゃ奇遇じゃん!まぁ私は角膜だからすぐだったけど」
同じ移植手術を受けたもの同士ということもあって私はそこだけ覚えていた。名前は覚えていなかったのに。
彼女、土屋ふうらとはそれから友達になった。
あの夢の話もした。すごい偶然だと思った。
どんな夢か聞いたら驚くほどに私の夢とよく似ていた。
というかもう偶然ではないのかもしれない。
彼女は夢の中で藤谷という苗字だったみたいだ。
その日の夜、彼女が夢で呼ばれている苗字と、私が夢で呼ばれている名前を試しに検索してみた。
「行方・・・不明・・・」
ネットの片隅にひっそりと、3ヶ月前に捜索願いが出されていた。
それから私は眠りについた。
眠りにつくと、またあの夢だった。
「えっーーーーー」
男の顔が、遂に見えた。
あの夢を見たのは、これで10回目になった。
次の日、学校でふうらに夢の事を話した。
「ねぇ・・・見た?」
「うんっ・・・見たっ見ましたっ・・・」
「顔、見えた?」
「見え・・・ました・・・」
「どうする?」
「どう・・・しましょう?」
私たちは、あの男の顔を知っていた。
彼女と2人であの顔の男に聞きに行こう。
「先生、質問があるんですけど」
「なんだ?」
「右腕に薔薇のタトゥー入れてませんか?」
「あー見られちゃったか。これ、内緒にしとけよ」
「あと、もう一つ」
「なんだよ」
「藤谷ミナって名前、知っていますか?」
担任の顔色が、変わった。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。 ちきりやばじーな @chikiriya827
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます