第7章 本丸御殿・第4層攻略編
第38話 混ぜるな危険! 不運とうっかり
第4層を攻略しながら、行方不明者を捜索すること1カ月。くまなく第1層本丸御殿から第4層の最前線まで探すも、行方不明者の居場所どころか痕跡すら見つからず、捜索が滞っていたある日のこと。
遺産迷宮攻略課に向けてとあるパーティからメッセージが送られた。
『第4層のAランク戦域でモンスターと対峙している最中、メンバーの1人が消えたので、《先遣隊》の皆さんに捜索を依頼したい』と。
これは何か手がかりが掴めるかもしれない。そう考え、課長命令の元、俺たちは依頼を受諾。華南と織部の方も同じく行方不明者を探してほしいという依頼を受けているため、俺と北斗、優希の3人で、パーティ・《疾風迅雷》のメンバーに会って、行方不明になった経緯を訊くことになった。
「で、依頼主のところに来たは良いが、なんでそんなに縮こまってるんだ?」
「まぁ気楽に行こうや。な?」
Bランク非戦域の中にある茶屋の一角に座った俺と北斗は、向かいに座る依頼主の青年へ声を掛ける。
「い、いや……その……」
青年は緊張しているのか、萎縮したように俺たちから目を逸らし始めた。
「どう考えてもイノさんと北斗さんの見た目が厳ついからっすよ」
隣に座ったユウキが呆れた表情で俺たちにそう言うと、青年は首をブンブン縦に振る。
そんなに怖いか? 少なくとも坊主頭でガタイの良い北斗よりかはマシだと思うんだがな……。
「北斗さんは言わずもがなっすけど、イノさんも目つき悪い方ですし、雰囲気的に関わりづらいオーラ発してるんでね……。それで、行方不明になったお仲間の話に移るんすけど、具体的なことをお聞きしたいっす」
「いなくなったのはパーティリーダーのアズマで、自分と同じ大学生です。先日、Aランク戦域の序盤を探索していたんですが、戦闘中に残りのハートが1の時に死んでしまって。戦闘が終わってから近くのセーブポイントを探したんですけど、何処にも居なかったんです」
その後も話を聞いていると、アズマは自分たちのレベルがAランク戦域の推奨レベルに達していない状態で探索を推し進めようとしたらしく、モンスターに太刀打ちできなかったところをやられたようだ。
攻略課の方で、ハートが残り1になったらダンジョンから出るように言っているのだが、それを無視して進んでしまったらしい。
「完全に自業自得じゃねぇかよ……」
何でそんな奴の捜索なんかしなくちゃならないんだよ……。これが課長命令じゃなかったら即刻断ってるところだ。
「まぁまぁ。それでは、見つけ次第また連絡させてもらうんで、よろしくお願いするっす」
「こちらこそよろしくお願いします」
茶屋を出た俺たちは青年と別れ、アズマと逸れたというAランク戦域へと向かうことに。
◇◆◇◆
逸れたポイントまで到着するも、これと言って特に痕跡らしいものはない。セーブポイントにも一応行ってみるが、結果は同じだった。
「んー、何処に居るんすかね……」
「少なくともダンジョンの何処かにはいると思うんだけどねぇ……」
周囲を見回しながら俺たちは通路を進む。通常、ダンジョン内で死亡した場合はセーブポイントか非戦域にて復活することになっており、ダンジョンの外に出た場合でも、退場記録が必ず残る使用になっている。その記録にも残っていないのなら、一体どこに消えたというんだ……。
突き当たりの角を右に曲がって先へ進んでいたら、ユウキが「あっ」と声を漏らした。
「どうした? ……って、おいそれ」
ユウキが足元へ視線を落としているので、釣られて俺と北斗も見れば床の一部が凹んでいた。瞬間、真後ろの漆喰壁が破られ、そこから十数頭の鹿の大群が現れる。鹿たちは標的を見つけたかのようにギラついた目で睨んできた。
「あはは……ついうっかり……」
「うっかりしてないで、早く逃げるぞ!」
北斗が焦ったようにそう声を掛けた途端、鹿の大群が後ろから迫ってきた。俺たちはすぐさまドカドカとやってくる鹿から逃げる。と、先頭を走っていた鹿が角から手のひらサイズぐらいの石を大量に放ってきた。
「痛っ。こりゃうっかりも侮れねぇな……」
「マジですんません!」
ユウキが謝り倒しながら横を並走する中、放たれた石が頭や背中にぶつかり、気力ゲージが徐々に減っていく。
遭遇域までもう少し。あの突き当たりを右に曲がれば……って、北斗は?
バッと後ろを振り返って、確認するも背後に北斗の姿が見当たらない。と、かなり後ろの方から声が聞こえてきた。
「2人共ー! 俺を置いてく――」
北斗は重装備なせいか走るのが遅いようで、背後に鹿たちが迫っていた。だが直後、北斗の足元の床がパカッと開き、重力に従ってヒューッと穴へ落ちていった。
「あ、北斗さんが……」
「落ちたな」
開いた床のせいで、鹿たちが立ち往生しているのを良いことに北斗が落ちていく瞬間を2人で立ち止まって見る。と、開いていた床が元に戻り、鹿の大群が再び爆走し始めた。
「って言ってる場合か! どうすんだよ⁉」
追ってくる鹿に視線をやりながら再び通路を駆ける俺たち。
「どうするもこうするもあの大群相手じゃ逃げるしかないっすよ! あ、イノさん前! 前見てください!」
「へっ?」
鹿に気を取られていた俺はそのまま漆喰壁に激突。漆喰壁がぶつかった衝撃で割れ、止まるに止まれなかった俺たちは、そのまま真っ暗な空間に出て、底の見えない空間へと真っ逆さまに落ちる。
「うおおお⁉」
「はぁ……またこのパターンすか。って! このままじゃ地面にぶつかるっす!」
2人して落ちる中、ユウキが持っていた杖で真下を照らすと、岩肌が見えた。
「いつもならもうセーブポイント行きだろ!? 一体、どうなって――」
瞬間、俺と優希は岩肌へと頭から激突するのだった。
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