第20話 再戦

「目が覚めたかイノ」

「あぁ」

 

 目を開けると、隣には北斗がいた。身体を起こして軽く周囲を見回してみると、どうやらセーブポイントに戻ってきたようでギルドメンバーたちが横になっている。

 

「それにしても手強かったな」

「まぁ、ボス戦だから仕方ないねぇ。今までの戦闘とは随分勝手が違った」

 

 先ほどの戦闘を思い返しながら呟く北斗。これまではただひたすら攻撃してりゃ何とかなったが、今回のボス戦は一撃でもダメージを喰らえば、1割も気力が削られる。それは致命傷となる部位ならもっとだろう。

 ボスの大きさも武器の大きさも桁違いだったから間合いが取りにくい。目標の6割減には僅かに届かなかったが、今回で分かったこともそれなりにあった。そこを詰めていけばきっと何とかなる。

 

「あー、しんどっ!」

「リアルのボス戦ってこんなキツイんすね……。皆さんお疲れ様っす……」

 

 サナとユウキも起きたようで身体を起こす。やっぱりさっきの戦闘でだいぶ疲弊しているようだ。


 まだ少なくとももう1戦しなきゃならないのか……。

 

 呆然とそう思っていると、少し離れたところにいた華南が喋り始める。

 

「これで全員起きたな。疲れてるところ悪いが、あまりゆっくりしている暇はない。さっさと作戦会議に移るぞ」

 

 俺たちは一旦、非戦域内にある拠点へ戻ることになった。

 セーブポイントから転移し、Aランク非戦域に着いた俺たちは歩くこと10分のところにある拠点へと入る。拠点の一室に全員入ったところで、入口の近くにいたユウキが扉を閉めた。

 

「主に攻撃に関しては、さっきと同様陽動役と攻撃役に分かれよう。あの最後の旋風攻撃も盾に隠れるか、防ぐとして。問題点としては2つだな」

「攻撃スピードの上昇と網に囚われた場合の対処法か」

 

 華南の隣にいた北斗が真っ先に口に出す。

 

「あぁ、私たちが最後に攻撃を喰らった時点で4分を切っていた。このままじゃどう考えても時間内での討伐は厳しいだろう」

 

 序盤のときも思ったが、やっぱり攻略スピードは上げるべきだろう。

 で、あの網をどうするかだが……。確か網にも気力ゲージがあって、草属性と風属性が付与されてたんだよな。ってことはだ。

 

「網に関しては、炎で燃やせば何とかなるんじゃないか? 中に囚われてるメンバーには炎耐性のポーションを飲んでもらえばいけるだろ」

「せやね。後は、あの回避状態を何とかしつつ、一気に大ダメージを与えられたらええんやけど……」

 

 大ダメージだろ……。さっきやったみたいに巨大手裏剣を投げたタイミングで攻めるのもありだろうが、そう何度もあの手の攻撃を仕掛けてくるもんなのか?

 

 みんな揃って解決策を考え始めるが、一向に案が出てこない。すると、隣にいたユウキが顔を上げた。

 

「それなら僕に良い考えがあるっす」

「ホントか?」

 

 ユウキの言葉に華南が反応する。

 

「えぇ。何人かの人にはちょっと協力してもらうことになるっすけどね」

 


 ◇◆◇◆


 

 非戦域からセーブポイントへ転移。先ほどと同様にボス部屋に入り、ボスと応戦すること3分。

 予定よりも30秒早く6割を切り、戦いも中盤に突入。この3分間で他のメンバーが4人脱落する中、手裏剣の攻撃を刀身で受け止めつつ、俺は一旦後方エリアへ下がる。

 

「3人ともそろそろやで~」

「はいよ」

 

 サナが照準を定めながら声を張り上げる中、先に後方エリアへ着いていた北斗が返事をする。ユウキも杖を消して、ギルド倉庫にあった大きな網へ、大量の手榴弾を取り付けたものを抱える。


「僕とイノさんで取り付けるんで、北斗さんは守りをお願いするっす」

「任せな」


 俺たちは前線にいるボスへ向かって走り出す。

 

 ユウキが考えた作戦はこう。まず俺とユウキ、北斗がボスの足元へ接近。北斗がボスの攻撃を盾で防いでいる間、俺とユウキでボスの両足首に手榴弾つきの網を取り付ける。その後、サナの持っているライフルで狙撃することによって誘爆。ボスの体勢を一気に崩すのだ。


 何とかしてボスの足元へ到着。なるべくその場から動かさないようにしつつ、華南やサナたちが攻撃を仕掛けている間、俺とユウキで素早く網を巻き付けていく。途中、ボスの攻撃が降り注ぐも北斗が防御。ダメージを負いながらも両足に網を取り付けたところで、俺たちは一時撤退する。

 

「サナ、取り付け完了だ! いつでも良いぞ~」

「あいよー」


 中距離エリアについた俺がそう声を掛けると、サナは攻撃の手を止めて二丁拳銃を消す代わりにライフルを出現させる。かなりの重量があり、普通は立って狙撃することは不可能なのだが、彼女の筋力なら問題ない。

 前線にいた華南たちも被害を受けないよう一時退却。中距離エリアで今のうちに回復ポーションを飲み始めた。

 

 一方、スコープで狙いを定めたサナは、スキルを発動。引き金を引くと同時に銃口から銃弾が発射される。

 高速で飛んでいった銃弾は狙い通り左足首の手榴弾へ当たり、大規模な爆発が発生。続けて二発目も右足首の手榴弾に貫通。同じく爆発が発生する中、慶喜の体勢が崩れ、前へ倒れる。


「今だ! 全員、最大火力で削り取れ!」

 

 華南の号令で中距離エリアにいた俺を含む前線メンバーは、ボスに向かって走り出す。直後、後方エリア、中距離エリアにいたメンバーたちから攻撃が降り注いだ。

 一番にたどり着いた俺はそれに便乗する形で、ボスの胴体に向かって刀を振る。北斗も一時的に盾を消し、槍斧で頭部へダメージを与えていく。一方の華南はボスがすぐ起き上がらないよう、炎を纏わせた剣を足首へ突き刺す。

 

 そうして3割まで削り切ったところで、身体に風を纏ったボスが起き上がり始めた。俺たちは攻撃を受けないよう、その場から退く。

 すると、起き上がったボスは俺たちから距離を取って、2メートルほどの長さのある棒手裏剣を自らの背後に10本展開。風を纏った棒手裏剣が高速で俺たちに向かって降ってくる。

 俺はスキルを発動させ、回避。サナ、華南、北斗も何とか避け切ったようだ。しかし、今の攻撃で一気に6人のメンバーが脱落していく。

 と、ここでユウキがボスに向かって大きく手を振ってきた。

 

「おーい、こっちっすよ~!」

「全員、攻撃で誘導開始! ユウキのいる場所まで追い込め!」

 

 華南が再び指示を出せば、間髪入れずにボスの左側面に攻撃を開始。どんどんボスが回避しようと右奥の壁際に寄っていく。瞬間、ボスの足元が爆発。雷を纏い、麻痺状態になったボスはその場にしゃがむ。ユウキが予め設置していた炎属性と雷属性の地雷に引っかかったのだ。

 

「ふはははっ! これぞ罠の力っす!」

「笑ってるとこ悪いが、まだ終わってねぇぞ」

「分かってるっすよ」


 後方へ戻りながらユウキは、数日前にゲットした雷属性の上級魔法が3回のみ撃てるAランクの指輪を装着。雷撃を慶喜目掛けて撃ち落とす。今の一撃で、2%の気力が減少した。


 上級魔法の威力すげぇな。


 呆気に取られながらも、攻撃を再開。スキルを発動させて突きを6回叩き込む。みんなが最大火力でボスへ攻撃を仕掛け続けていると、気力が残り2割を切った。


「残り3分! ポーション、アイテム全部使ってでも仕留めるぞ!」


 しゃがんでいたボスも再度立ち上がり、1本の棒手裏剣を持って華南の攻撃を防ぐ。その隙に北斗がスキルを発動。硬化で強度が増した槍斧でダメージを与えるも、ほとんど減っていない。と、ボスが巨大手裏剣を高速回転させ、旋風が巻き起こる。気力ゲージが4割を切り、一旦回復するために退く。

 

「なかなか減らないな。何でだ?」

「んー、あっ。多分あれやない?」

 

 中級ポーションを手に出現させて飲もうとしたら、ライフルのスコープを取り外して観察していたサナがある一点を指さした。

 サナからスコープを借りて覗いてみると、ボスの眉間に何やらピカッと紫色に光る石のようなものが埋め込まれている。

 

 確かこれ虎の間戦の時にも見たな。ってことは、あそこを狙えばトドメをさせられる感じか?

 

 そのことを近くにいた華南へと伝える。俺の話を聞いた彼女は、何やら考える素振りを見せたかと思えば、口を開いてこう言った。

 

「ふむ、せっかくだ。ここは俊敏スキル持ちのイノにやって貰おうじゃないか。勿論、いけるよな?」

 

 華南はダンジョンで初めて出会ったときのように、圧のかかった笑みを浮かべ、俺をじっと見てくる。

 

 おいおい、拒否権なしかよ。まぁ、でもこれでボスが倒せるんならやるしかねぇよな。

 

 俺は一度ため息を吐いてから、華南の方を見る。

 

「分かったよ。やれば良いんだろ」

「おう、頼んだぞ」


 満足げにそう言った華南は、再びボスの元へと走り出した。俺は再度ボスの眉間へと視線を向ける。

 

 いくら俺が俊敏スキル持ちでも、それだけじゃ届かない。となると……これを使うしかないか。

 

 手元の風ポーションの蓋を開け、一気に飲む。現状、ボスの残りの気力は3パーセント。この調子ならもうそろそろだな。スキルも今までの戦闘でAランクにまで上昇し、最大継続時間は30秒にまで上昇。今からならスキルを発動させても、問題なくボスまで辿り着ける。

 

 俺はさっそくスキルを足に発動。中距離エリアから抜け出し、前線エリアへと駆ける。ボスは棒手裏剣だけでなく、矢も展開。巨大手裏剣の時と同様、またしても俺の方へ飛んでくる。

 が、難なく回避。棒手裏剣と矢が床へ突き刺さる。その間にも、気力は2パーセントまで減少。一気にボスへ接近し、高々と跳躍。紫の石が視界に入った瞬間、ついに1パーセントへ減少。

 

「っ……!」


 刀身にスキルを発動。切っ先に手を添え、大きく紫に光る石目掛けて渾身の突きを入れる。気力が減少し、数値がついにゼロになった。

 その直後、目の前にいた徳川慶喜が消滅。黒い靄が発生する中、宙にいた俺は地面へと着地した。

 

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