第19話 幸運Eは時として役に立つ
「……ここが大広間か」
「だいぶ広いな。流石はボス部屋や」
ボス部屋へと転送された俺たちは、軽く周囲を見回す。中は畳を模した床と松の木が描かれた金の襖壁で構成されているようだ。
虎の間戦同様、タイマーが設置されていることから制限時間に討伐しなければならないのだろう。
「ボスはやっぱり徳川家に由来するものなんすかね?」
「さぁな。だが、どちらにせよ強敵なことには変わりないだろうよ」
この二条城は京の都における江戸幕府の拠点となった場所だ。今までの攻略からしても、二の丸御殿に関するモンスターが出てくることが多かった。ユウキが言っていたようにボスも二の丸御殿関連のものが高いだろう。
「お、どうやらお出ましのようだ」
剣を手元に出現させた華南が呟く。部屋の中央へ視線をやれば、大きな黒い靄が発生。そこから1体の鎧武者が出現した。
目視で5.5メートルもある鎧武者は若草色の鎧に、金色の龍の装飾が付いた兜を被っている。
すると、気力ゲージが出現。風属性で数値は約100万。虎ノ間戦の大型の虎が5万なのに対してその20倍もある。その上には徳川慶喜という文字と紫の髑髏マークが表示されていた。こいつボスということで間違いないだろう。
徳川慶喜と言えば、江戸幕府の第15代将軍であり、この二の丸御殿にて大政奉還を行った本人だ。
慶喜が3メートル級の巨大手裏剣を出現させると同時に、タイマーが動き出した。時間は僅か10分。その間に何とかしてボスの気力を削らなければならない。
「事前に言った通り、まずは様子見と称して6割削れたら良い。あまり気負い過ぎるなよ!」
華南はみんなに向かって言い放つと同時に、ボスへと駆け出した。俺たちもすぐに彼女の後へ続く。弱点は雷と氷。黄色の指輪を嵌め、刀身に雷属性を付与。
と、後方から魔法や矢、銃弾と言った中距離・遠距離が発射。ボスの側面へ当たるかと思いきや、手に持っていた手裏剣で大半が防がれる。直後、華南が跳躍。
「はぁっ!」
炎を纏わせた剣で次々と斬撃を入れていく。サナもスキルを発動させたようで、連続して放たれた銃弾が胴体へ刺さっていく。
俺も斬り込もうとするが、巨大手裏剣がこっちへ迫ってきて、一旦離れる。今の一連の攻撃で気力ゲージが3パーセント減少。チラッとタイマーへ目をやると、戦闘開始から20秒が経過していた。
このままの調子だと時間内に6割を削り取るのは少し難しいな……。
「正面からやり合っても無駄だ! 前衛は二手に分かれるぞ!」
俺は周囲で戦っていたメンバーへ声を掛ける。再度、ボスの足首へ接近。3連撃斬り込んだところで、手裏剣から発せられる風を喰らい、気力ゲージが3割減少。
初級回復ポーションを手の中に出現させながら、中距離範囲まで一時的に退避する。
「おーい、こっちだ!」
北斗を含む盾持ちメンバーで攻撃を引き付けつつ、他のメンバーで攻撃を仕掛ける。丁度近くにいたサナが雷の付与された銃弾を続けて発射。見事命中し、ボスの気力ゲージへ麻痺状態を表すアイコンが表示された。
きっと雷バフポーションを飲んだのだろう。ボスの動きが若干鈍くなる中、風属性の弱点をついて、複数の方向から大量の雷属性と氷属性の魔法が降り注ぐ。初級回復ポーションで気力ゲージを全開にした俺は、攻撃に加わるべく前線へ走り出した。
陽動組と攻撃組に分かれて着々とダメージを与えること3分。この間にメンバー4名が脱落した代わりにボスの気力ゲージが7割まで減少した。と、ボスが手裏剣を持っていた腕を交差させ、構えの姿勢をとる。前線でダメージを与えていた俺たちは何か来ると、警戒。
「技が来るかもしれないっす! 全員後ろへ退避するか、盾持ちの後ろに隠れるっすよ!」
ユウキが声を張り上げてそう言った。他のみんなが盾持ちの後ろへ隠れ出す。
生憎と近くに盾持ちなんていねぇしな。ここは退避するしかねぇか。
俺はすぐさま、スキルを発動。一気に壁の方へ走る。
すると、巨大手裏剣がボスの手から離れ、風を纏いながら回転。何故か壁際の方へ逃げていた俺の方へ飛んできた。
「いや、何でだああああ⁉」
高速でこっちに向かってくる巨大手裏剣から、逃げる俺。後ろをチラッと振り返れば、巨大手裏剣は横開店しながらどんどん俺へ迫ってくる。途中、手裏剣に付与された風が俺の背中を襲い、徐々に気力ゲージが減っていった。
「よぉし! 今のうちに一気に削り取るぞ!」
「おー!」
巨大手裏剣を投げたことにより、慶喜は無防備な状態に。華南が剣を頭上へ振り、メンバーと共にガラ空きになった懐へ集中攻撃を開始。後方からも容赦なく叩き込まれ始めた。
「イノ、すまねぇが耐えてくれ!」
「マジで何なんだよ……! パラメータ設定したやつ絶対許さねぇー!」
北斗が斧で気力を削りながら、爆速で逃げている俺へ声を掛けてくる。スキルが切れるまで残り10秒。何とか逃げ切りたい。
必死の思いで駆け抜け、壁際を1周するころには巨大手裏剣は慶喜の手元へ戻った。すると、今の集中砲火でボスの気力は6割まで減少。ボスは攻撃の体勢から一変、攻撃を回避するのに専念し始めた。
巨大手裏剣に追われている途中、スキルが切れて死にそうになりながら走っていた俺は、息が荒れる中何とか中距離エリアにたどり着く。息を整えながら赤色に変色した気力を緑に戻すべく、上級ポーションを口にする。ここでボスの手元に大きな網が出現し、前線の方へ投げられる。
前線にいたメンバー5人が網で捕縛され、身動きがとれない状態に陥っていた。網にも気力ゲージが存在しているようで、草属性と風属性の表示がされている。
「多分、風属性が付いてるところを見るに、捕まってしもたら気力ゲージがどんどん削られていくようになっとるんとちゃう? 後、さっきのおもろかったで」
「頼むから後で一発殴らせろ」
中距離エリアでボスに向かって、絶え間なく銃弾を撃ち込むサナ。最後の一言に青筋を立てていたら、網に囚われているメンバーたちの気力ゲージがイエローまで減少していた。
……おっかねぇな。何とか救出できる方法とかないのかよ。
「って、今度はなんだ? なんか、緑のオーラが纏わりついてるように見えるんだが……」
なんやかんやで気力が半分まで減少した瞬間、ボスの雰囲気が変わったことに気づく。前線にいたみんなも違和感を覚えているようで、その場に身構えている。
すると、回避に専念していたボスが突如立ち止まり、雄叫びを上げた。直後、ボスを中心として部屋全体に旋風が巻き起こる。
ボスから発せられるつむじ風を諸に喰らい、みるみるうちに気力ゲージが減少。回復ポーションを飲もうにも、風の影響でこれじゃまともに口にできない。
何とか腕を交差させて凌ごうとするが、あっという間に気力ゲージがゼロになり、目の前がブラックアウトした。
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