第8話 第二キャンプ地 到着
濃緑色のテントが五つもある第二キャンプ地に到着したと同時に、PZは目を開ける。視界に入ったものは心配そうに自身を見つめるリチャードだった。
「着いたのか。第二キャンプ地に」
PZの確認にリチャードは何度縦に頷く。ずっと運転をしていたデイビスは腕を伸ばしていた。
「ようやく起きたか」
デイビスが運転席で身体を伸ばしている様子を見たPZは申し訳なさそうに言う。
「すまない。ずっとお前に運転を任せていた」
「今のお前の状態で運転なんて任せられねえよ。ていうかさっさと降りろ」
「そうだな」
二人が降りたことを確認し、運転者のデイビスもようやく降りる。今度は身体全体を伸ばしていた。
「久しぶりに平和な運転だったぁ」
過酷な戦場に突撃することの多いデイビスらしい発言に、PZは柔らかい表情になる。
「そうだな。ルート的に地雷原がなく、襲撃者がいない。だが気楽とはいえ疲れているだろ。そもそも有給休暇をキャンセルしてるんだ。休め」
この野郎と思いながら、デイビスはやや上から目線をするPZを観察する。顔に出ていないものの、疲労度が溜まっていることを数年の付き合いだからこそ感じ取る。
「おめえも休めよ。相当ハードな戦闘だったんだろ」
「ああ。だがその前にホワイト医師に診てもらう。懸念点もあるからな」
その発言にデイビスはホッとする。
「お前も相当疲れてたんだな。そうだよ。てめえは医者の世話になってろ」
PZは傾げながら、真面目に答える。
「いや別件だ。ダンジョン内でくらった毒などの経過や斑点を診てもらうつもりだが」
「あ。そっちかよ。管理者のリチャード君もえぐいことするな」
冷や汗をかきながら、デイビスはリチャードを見る。
「加減してないのはロボットだよ! 俺が出した指示は無傷で侵入者を捕らえるだから!」
子供のようにムキになりながら否定をする少年。デイビスはニタニタと人の悪そうな笑みをする。
「ほお。ボロが出たな。管理者君? だがPZを甘く見ちゃいけねえよ」
突然、リチャードの視線が泳ぐ。
「うん。それはその……加減ゼロの警備兵ロボットが証明してたよ」
二人が話している間に、PZはテントに入ろうとしている。
「ちょっと待って! ピーター!」
リチャードはPZを慌てて追いかける。デイビスはやれやれと思いながら、二人に付いていく。
「ホワイト医師はどこにいる」
発言しながら、PZは明るいテント内に入る。折り畳みのテーブルが二つあり、サポートスタッフ達が囲んでいる状態だ。六十代の男性医師であるホワイト氏が立ち上がる。
「ここにいるよ。ピーター」
「すまないが診てもらいたい。ダンジョンで色々と喰らったからな」
「分かった。準備しておくから、今はゆっくり休みなさい」
優しい医師の提案でも、PZは横に振る。
「いや。今の内に報告を」
機械などを用いてサポートするオペレーターのひとりが温めたミルクを入れたコップに蜂蜜を入れる。少しかき混ぜて、PZに渡す。
「ちょっとは休めよ」
ごもっともな意見が飛んでも、PZの考えはそう簡単に変わらない。
「報告できるぐらいの気力まではある」
ふうと息を吐き、温かい飲み物を口に入れる。ほんのりと甘く、素朴なミルクの味が広がっていく。柔らかくなっていくPZの表情に、リチャードは頬を赤くする。
「可愛い」
漏れ出た少年の本音でテント内が静かになる。飲んでいたPZ本人は眉間に皺が出来ていた。
「リチャード。そういう言葉は異性に対して使った方がいい。しかも子供のお前が大人の俺にそれはよくない」
膝を曲げ、リチャードと同じぐらいの目線で説教する物言いをする。
「子供って年齢じゃないよ。俺は」
ムキになっているような、リチャードの言葉をPZは傾げる。
「……そうなのか?」
「そうだよ! 十五歳だよ!」
テント内の誰もが「まじで?」と信じられないような目で少年を見る。
「明らかに子供というか」
「アジア系ってなると、成長もゆっくりめなのか?」
オペレーターがこそこそと話す。思わず笑うPZは弟妹と接するような態度で、リチャードの頭を撫でる。
「男の成長期はバラバラだ。お前にも来る。……ん?」
腕時計型の端末が振動したことで、PZは左手を上げる。緑色の光の点滅と共に、愉快な女性型ロボットの声が出る。
「ええ! まだ第二次成長期を迎えていないだけのこと! ただし、どこまで大きくなれるかは遺伝子次第ですがね!」
言い切って、プツリと通信が切れる。フリーダム過ぎる乱入者の声に、誰もが口を開いたままだ。
「変なタイミングで乱入しないでよ。ママ」
頭を抱えるリチャードに、PZはフォローをする。
「母親として言いたかったのだろう」
明らかに盗聴していると感じる程の把握力だが、PZは敢えて口に出さない。
「ふう。ピーター、準備が終わったよ」
入口の布をまくって、顔を出すホワイト医師はPZを呼んでいた。雰囲気が変わっていることに動揺しながら、自分の持ち場に戻っていった。
「分かった。すぐに向かう」
PZは飲み終えたコップをテーブルに置く。医師の下に行こうとした矢先、リチャードが裾を掴む。少年は不安そうに見上げていた。
「ホワイト医師は信頼できる。だからそういう顔をするな」
そう言いながら、PZは掴んでいるリチャードの手を解いて離れる。視線を感じ取りながらも、医師がいるテントに入った。
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