第9話 開戦

 セフィーシア城を中心に広がる大森林、外周には何人たりとも立ち入ることができない結界が張られていたが結界は消滅、外部からの侵入を容易にした。


 タイミング的にセクレシアへ転生したことが結界の消滅に関係しているのは間違いなく、偶然とはいえルーファ達が大森林へと逃げ込む助けとなった。


 偶然が重なり生まれた一つの小さな波紋は遊戯神にとって取るに足らない事象の一つでしかない。だがその小さな波紋が一つ二つと増えて行けばやがて大きな波へと変わる。


 そんな小さな波紋の一つ、大森林外周を東に向け移動する一団も三時間程直進すればルーファ達が襲撃を受け南下したルートへ辿り着く。


 痕跡を発見出来れば遅かれ早かれセフィーシア城へと辿り着くだろう。だが痕跡を発見できず、ルートを読み間違え北、または東方向へと進んだ場合、敵の索敵範囲に入ってしまう恐れがある。


 見捨てることを前提とするなら痕跡を発見できずルートを見誤ってくれた方が何かと都合が良いのだが、瞳一杯に涙を浮かべるルーファを見ていると見過ごすことが出来ない。


 対話を主軸としルーファを連れ今すぐ接触を図ると明言すれば守護者達を表面上納得させることが出来るだろう。千差万別、完全に同じ考えを持つ者など存在せず多少の差異はある、だからこそ納得できるだけの根拠を明示することに意味がある。


 何一つ話すことはできないが命を懸けてほしいと懇願されても、信頼関係が構築される前では余程のお人好しでもない限り命を懸けることなど出来ない。


「颯斗様。先程御話になられた一団ですが、何者かの襲撃を受けているようです。ただ、一つ気になる点が・・・・・・」


 レイスからの報告を受け探知範囲を大森林全域に広げ状況を調べることにした。大森林外周の結界消失に伴い時間の経過と共に人や動物、魔物の流入が始まっており反応総数は三百を優に超え現在も増加の一途を辿っている。


 北部外周付近に絞ると三十程度の反応があり動物や魔物以外に限定すれば十一、内訳は今にも消えてしまいそうな弱弱しい反応が九つ、ズバ抜けて強い反応が二つ、その内一つはルーファを襲った獣人と同様の禍々しさを感じる。


「見え透いた誘いに乗るのは癪(しゃく)ですが、静観したところで多少の時間稼ぎにしかならないでしょう。最悪こちらの位置情報を把握される可能性もあります。ここは誘い乗り速やかに殲滅するが上策かと」


「よっしゃーっ!! そんな奴らまとめて俺がぶっ倒してやるぜ!!」

 

「カイ・・・・・・ 単独行動を禁止されているのを忘れたのですか?」


 やる気に満ち溢れ今にも走り出そうにしているカイには申し訳ないがレイスが言うように今回も出番はない。単独行動を好む性格や実力など不安要素が多く簡単に許可を出すことができない。


「颯斗様にお願いがありますニャ」


 普段は暴走気味のカイを諫(いさ)める役に徹していたミィが珍しく神妙な面持ちで話しかけてきた。


「カイの同行をお許しくださいです・・・・・・ 戦わなくても同行できれば自分がどんニャに未熟なのか理解できると思うのニャ」


 安全な任務を宛がうより、多少危険を伴ったほうが成長率という点において明確な差が生まれる。だがそれは現実ではなくゲームでの話であり、危険性を理解しているからこそ簡単に許可することができない。


「ダメですかニャ?」


「貴女もカイ同様、颯斗様の御考えを理解する努力をした方が良い」


「考えってニャンの・・・・・・ もしかして、焼き」


「違います!! ・・・・・・貴女はもう少し颯斗様の御考えを読み解く努力をしたほうがいいと言っているのです」


 何か思いついたのか続け様に何か話そうとしたミィの言葉に被せるようにレイスが声を張る。


 呆れているのは間違いなさそうだが嫌悪感や怒りといった感情はなさそうに見える。思いのほか仲が良いのかもしれない。


 十秒程の沈黙、指摘され自分なりに答えを探し考えが纏まったのか晴れやかな表情をしたミィが話し始める。


「誘い出す理由が陽動ニャら転移での急襲を想定して動くべきだけど、すぐに殺さニャいところをみると襲撃者は単独行動、たぶんこちらの情報は掴んでニャいと思う。だから情報を得られる前に倒せば問題解決ニャ。それと編成は戦闘要員一名、サポート役一名、最低でも二名で対応すれば問題なく倒せると思う。私ならサポート役に適任ですしカイを同行させても対処できます・・・・・・ 戦うのは苦手だから他の人に任せますニャ」


 感情に左右されず状況を踏まえ考えられる中で最良の案を提示する。それが例え間違っていたり多少ズレた答えだとしても自ら考え案を出すことに意味がある。


「際どいですが及第点としておきましょう・・・・・・ 颯斗様、ミィ・アルファウスからの献策けんさく、如何いたしますか?」


「・・・・・・ 今回はミィ、カイ、サティナの三人に任せる。ただし無茶だけはしないように!! 名誉の死なんて望んでないし絶対に許さないからね」


 話し終えると跪き話を聞いていたサティナが立ち上がると真剣な表情でミィに歩み寄る。


「あのお。私、ミィちゃん言っておきたいことがあるんですよねぇ・・・・・・ 今回は大目に見ますけど、また颯斗様を困らせちゃうと・・・・・・ 許さない!! ですよぉ」


 玉座の間全体が高濃度の闇属性魔力に包まれたが一瞬で浄化され消失する。


 純白と漆黒、光と闇を象徴した二翼を持ち清純清楚を絵にかいたような容姿、柔らかく優しい口調、天使族ということもあり常に光属性魔力が薄く全身を覆っている聖女のような雰囲気を持つサティナが発したとは思えない魔力と言葉に、あのミィですら素直に謝罪の言葉を口にしていた。






                大森林北部


「陣形を維持、怪我人は中央へ!! グレイスまだやれるな?」


「無茶ばかり言いやがって。あぁーっ、もう来るんじゃなかった」


 レザーアーマー、薄汚れたフード付き外套がいとうに身を包んだ獣人の男は鋼鉄製の剣を構え陣形を立て直すべく声を張り仲間を鼓舞し続ける。だが姿、気配、殺気、何も認識できない攻撃を受け一人、また一人と力尽き崩れ落ちていく。


 手持ちの治癒ポーションは既に使い果たし魔力も枯渇寸前、辛うじて立ってはいるが気を抜くと意識が飛びそうになるのを精神力だけでねじ伏せているが限界は近い。


「ウィクス。す、すまん。先に寝る。あ、後は頼ん、だ・・・・・・」


「グ、グレイス⁉」


 幼少期から共に切磋琢磨してきた親友であり戦友のグレイスが力尽きその場に崩れ落ちた。互いに支え合っていたからこそ極限状態でも折れることなく立っていられたが支えを失ったことで心が絶望へと向かい加速していく。


「ここまでか・・・・・・」


 負荷が大きければ大きい程、小さな亀裂は瞬く間に巨柱を蝕み急速に倒壊へと向かわせる。倒れ身動きが取れない九名を連れ離脱することは不可能、責任感、人間性、その全てが重い枷となり選択肢を極限まで狭めていった。


 その時、前方に薄気味悪い魔力を持つ獣人らしき人物が姿を現す。全身を斑模様の体毛に覆われ装備どころか服すら着ておらずウィクスが知る同胞とは明らかに違っている。


「今はこれで我慢しろ!! すぐに大物が釣れる・・・・・・」


 小声で断片的、何を話しているのか分からないが言葉を発している点だけで獣人だと判断した。自身の知識が全てじゃないと自分自身に言い聞かせ同胞だ、助かったのだと思いたかっただけなのかもしれない。


 獣人が現れてからというもの先程まで執拗に繰り返された攻撃は鳴りを潜め時間の経過と共に絶望が希望へと変化していった。


「助かった、のか・・・・・・」


「んな訳ねえだろ!! 用が済めば全員殺す。その前に・・・・・・」


 希望は絶望の中見出してしまうと再び立ち向かう力を奪う毒となることがある。抗う事すらできない絶望的状況下で有ればあるほど猛毒となり心を殺す。


 剣を握るどころか言葉を発するだけの体力すら残されておらず、歩み寄る獣人に抗おうとする心は完全に消えさり最後の時を待つことしかできなかった。











                大森林北部 転移地点


 微かに聞こえるうめき声、辺りには薄っすらと鉄錆のような臭いが漂い、微かな残留魔力を残すのみで人の姿は見えない。


「この先みたいニャ」


「腕が鳴るぜ!!」


「見学は黙ってるのニャ!! そんな事より翼隠さなくて良いのかニャ?」


 天使族は神の使い、畏怖の対象とされることもある為、翼を隠すようにとレイスから命を受けているにも拘らず隠そうとせず、サティナはじっと森の奥を見つめ、問い掛けに一切反応を示さない。


 心配になり再度話をしようとするがサティナの表情を見てミィは考えを改める。その歓喜に満ち溢れた表情を見て変質的な恐怖を感じてしまう。


「・・・・・・ 怖いニャ」


「? 何かありましたあ? あちらは準備万端でお待ちの様ですし、そろそろ行きましょうかあ。それと翼は隠しますから安心してくださいね」


 何事も無かったように森の奥へと向かい歩き始めたサティナの後を追いミィとカイも歩を進める。二分ほど進むと戦闘の痕跡が色濃く残る場所に辿り着く。鬱蒼うっそうと茂る木々、更に二百メートルほど進んだ先は少し開けており弱弱しいが人の気配を感じる。


「いい加減出てきたらどうニャ!! 覗き見とか気持ち悪いのニャ!!」


 進行方向右手にある木々のほうへ、ミィは嫌悪感を滲ませ虫でも見るような険しい表情で辛辣な言葉を投げかける、すると両手を上げた狐の獣人が姿を現す。


「驚かせて申し訳ない。俺はウィクス、依頼を受け仲間と森に入ったのは良いが魔物の襲撃にあっちまった。近くの街まで助けを呼びに行こうとしていたら声が聞こえたんで様子を見に来たって訳さ。そこで相談なんだが、もし治癒ポーションに余裕があるなら分けてもらえないだろうか? もちろん代金は言い値で払う」


「それはお困りですね。ポーションは持ち合わせておりませんが治癒魔法が使えますのでお役に立てると思いますよお」


「それは本当ですか? もし可能であれば力を貸して頂きたい。正直、助けを呼んで戻るだけの時間がない・・・・・・」


 笑顔で話を続けるサティナの話に割って入らず、怪訝けげんな表情を浮かべカイの動向を注視するミィにとって獣人が何者だろうと関係ない。勝てないと判断した時点で退却する腹積もりでいるからこそ、迅速な状況判断が重要となる。


 そんなミィの思いを知ってか知らでか、カイは珍しく何の口出しもせず話を聞くことに徹し、案内されるがままサティナと共に森の奥へと向かい歩く。


「本当に助かりました。皆さんと出会ってなければどうなっていたか・・・・・・ そうだ、この周辺で戦闘の痕跡のようなものを見かけませんでしたか? 賊に襲われた捜索対象者がこの辺りに身を隠したという情報を得たもので」


「この辺りで戦闘の痕跡ですか? うーん。見ていないですねえ」


 知らないのであれば仕方ないと笑いながら狐の獣人は森の一角、テニスコートほどの開けた場所へと案内すると深々と頭を下げる。


「頼む。仲間を助けてくれ・・・・・・」


 獣人の言葉に返答することなく中央付近で倒れている者達の傍へとサティナ達が歩み寄った次の瞬間、小規模な爆発が次々と起き大量の土煙が舞い上がると辺り一帯を飲み込んだ。


 一瞬で視界は奪われ一メートル先すら視認することが出来ない状況に陥ると同時に鋭い金属音が響き渡る。



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