第3話 仕返し 前編


 一週間後。

 あくびを噛み殺しながら、学校の玄関へ向かっている途中。


「りぃ~~~んっっ!!」


 背中にドンッ! っと大きな衝撃しょうげきがきて、倒れそうになるのをギリギリ抑える。

 ふり返ると、優弥と静弥が仲良く並んで挨拶してくれた。


「おはよう~っ!」

「……はよ」


 私も微笑んで「おはようございます」と返す。

 すると、優弥がキラキラと瞳を輝かせて、私を見る。


「今日お店来る? 来るよねっ?」


 あれからみんなと出会ったお店――『Ruoルオ』に通ってる。

 今日も特に予定はないので、頷く。


「はい。行こうと思ってます」

「そっか! 嬉しいなぁ~、待ってるね!」


(可愛いなぁ……)


 ニコニコと可愛いオーラ全開の優弥に、心が癒される。


「……優弥」

「ん? どーしたの、静弥」


 優弥が静弥の顔を覗き込んで、首を傾げる。


「……ライン」

「あ!! そうだった! ありがとう、静弥っ」


(……ライン?)


 私は首を傾げる。

 すると、優弥がポケットからスマホを取り出して、QRコードを開いた。


「ライン交換しよ? 桜華組のグループラインも、後々入らなくちゃいけないし!」

「わかりました」


 そう言って、私もスマホを取り出すと……着信音が響いた。

 画面には”千夏”と名前が出てる。


「あっ……と、先に出てもいいですか?」

「うんっ、いいよ~!」


 お礼を言って、通話ボタンを押す。


『おはよ~!』


 元気な声が、スマホ越しに聞こえる。


 ――この子は、浅桐あさぎり 千夏ちか

 私の親友で、数少ない私の信用できる人。


「おはよう、千夏。どうしたの?」

『いつも教室にいるのに、いないからどうしたのかなぁって。……何処にいるの?』

「今、伊織の友達とたまたま会って、話してた」


 そう言うと、千夏は驚いた声を上げた。


『え!? 亜豆馬君って友達いたの!?』

「失礼だよ。……まぁ、私もこの前知ったけど」

『へぇ~。あ、もうちょっとで授業始まるよ! なるべく早く来てね!』

「はいはい。じゃあね」

『うん、また後でね~!』


 電話を切って、スマホをポケットに入れると、横から体に穴が空きそうなほどの視線を感じた。

 恐る恐るそっちを見ると、優弥が不機嫌ふきげんそうに頬を膨らましている。


「今の、友達?」

「え? ……そうですけど」

「…………友達には敬語じゃなかった」


 小さな声で、ボソッと呟く優弥。


「同級生ですし、敬語っておかしくないですか……っあ」


 よく考えたら、優弥も静弥も同い年だ。


「俺達も同級生だし! 普通に話してほしいなぁ……」


 ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。


「……っえ」


 思わず声を漏らした時に、はっと我に返った。

 動揺したことを優弥と静弥にバレないように、小さく息を吐いてから答える。


「……すみません。その、どうしてもクセで敬語になってしまうんです。だから、慣れるまでもう少し待ってもらえませ……待って、もらえないかな?」


 そう言って微笑むと、優弥はパアッと笑顔になった。可愛い。


「……優弥、授業」

「ほんとだ! じゃあまた今度、ライン交換しようね!」


 「ばいばーい!」と元気に手を振って走り去っていく優弥。その後ろに静弥もついて行って、私も手を振り返した。


「……さて、私も教室行こうかな」


 そう、独り言を呟いて、私は教室へと足を運んだ。



   *  *



 放課後。

 家で私服に着替えてから、お店へ行く。


 ――桜華組のみんなと出会った『Ruo』は、会員制のカフェらしい。


 会員さんと暴走族について情報共有したり、時には暴走族を倒すために手を組んだり……普通に雑談することもあるって、ラインで伊織が説明してくれた。


「……おい」


 スマホを開きながら歩いていると、後ろから声をかけられた。


「?」


 私に話しかけてるのかな?

 そう思って後ろを振り向いて、話しかけてきた人の顔を見た瞬間。


 ――私の体が、硬直した。


「よぉ、この前ぶりだなぁ」


 ニヤリ、と気持ち悪い笑みを浮かべる彼。


「……っ!」

「お前、桜華組に助けられてたやつだよな?」


 彼は、桜華組と出会った時、私にナイフを突きつけてきた男だ。

 ニヤニヤと笑みを絶やさず、私の手首を強い力で掴んできた。


「ちょっと付き合えよ」


 痛い。怖い――。


 ぶるっと肩が恐怖に震えた。

 体の震えに気づかれないように、キッと男を睨む。


「……私に、なんの用ですか」

「あ゙ぁ? お前のせいで俺と他の奴らはボコボコにされたんだぜ? やられたらやり返すのが常識だろ」


 まず、貴方達が私を巻き込んだんじゃないですか。

 思わず思ったことが口に出そうになって、ぐっと押し黙る。


 一旦、冷静になる。


(……どうしよう)


 今、桜華組のメンバーはいない。

 けど、ここは『Ruo』の近く。何か騒ぎがあったら気がつくはず。


 ……逃げる策がないわけじゃない、けど。


(これ、絶対何処かはんだよなぁ)


 今はそれしかないか。

 私はふーっと息を吐いてから、その策とやらを実行した。



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