第2話 はじめまして 後編


「あの伊織だしなー! あいつ人嫌いだろ? 特に女子!!」


海斗さんがケラケラと笑う。

確かに、人が嫌いな伊織が信じたこの人たちを……私も、信じたい。


「――何笑ってんだよ」


和やかな空気になった時、聞き慣れた声がした。


「伊織」


私が名前を呼ぶと、伊織はこっちを向いて優しく微笑んだ。


「俺もいるよ~!!」

「……どうも」


伊織の後ろから、ひょこっと優弥が顔を出す。

優弥の隣には、ソックリな顔をした男の子がいる。さっき言ってた弟さんかな?


双子のようだけど、優弥の髪の毛は茶色。隣の男の子は青みがかった黒だから、区別しやすい。


「静弥、この子が鈴だよ!」

「……そぅ」


静弥さんは私をちらっと見て、お店のテーブル席に座った。


「!?」


静弥さんが座った席を見ると、隣にもう一人、本を読んでいる男の人がいた。


(全然気づかなかった……!)


一人びっくりしていると、亜希さんが「よし!」と手を叩く。


「幹部も全員揃ったし、改めて自己紹介しようか。

 ――俺は小宮こみや 亜希あき。桜華組のリーダーで、今年二十歳になりました。よろしく」


ふわふわした、明るい茶色の髪の毛を揺らして、微笑む亜希さん。

そして、「次は蓮ね」と、静弥さんの隣りにいる男の人に声をかけた。男の人は本を閉じて、私と目を合わせる。


神楽かぐら れんです。桜華組の副リーダーで、主に医療いりょう担当をしています。……あ、年は十九です。よろしくお願いしますね、鈴さん」


黒いサラサラな髪の毛に、口元のほくろが特徴的な蓮さん。

小さく口角を上げて、大人な雰囲気がかもし出されている。


「……幹部。亜豆馬あずま 伊織いおり


センター分けの前髪から、伊織の綺麗な黒い目がのぞいた。

うん、知ってる。


「同じく幹部の矢月やづき 優弥ゆうや! 静弥のお兄ちゃんで、十六歳! よろしくねっ」


色素の薄い、男の子にしては少し長めの前髪を耳にかけて、可愛く笑う優弥。


「……幹部、矢月やづき 静弥せいや。静弥でいい……十六歳。よろしく」


静弥は優弥と反対の分け目で、眠そうに目を擦っている。


「同じく幹部の篠崎しのざき 海斗かいと! 伊織の親友で、十七歳の高二! よろしくな!」


焦げ茶の短髪で、二カッと人懐っこい笑みを浮かべる海斗さん。

伊織は少し恥ずかしそうにしながら、首を触った。


伊織が首を触る癖は、”嬉しい”って思ってる時だ。


(嬉しいって思うほど、仲がいいんだなぁ)


最後に、カウンターで洗い物をしてる理希さんが、「小宮こみや 理希りきだ。よろしくな」と一言自己紹介した。


滝野たきの りんです。伊織の幼馴染で、十六歳です。……よろしくお願いします」


少し微笑むと、みんなが「「「よろしく(!)」」」と返してくれた。

その後は、みんなで他愛のない話をした。例えば、亜希さんと理希さんは四歳違いの兄弟、という話とか。


「そういえば鈴さん、門限とか大丈夫なんですか?」


蓮さんが思い出したように私に話しかけた。

亜希さんは「そうだった!!」と顔を青くする。


「ごめん! 最初に聞いておくべきだったよね……大丈夫?」

「……大丈夫です。一人暮らしなので」

「ええ!? 一人暮らし!?

 料理とか、掃除とか全部一人でやってるのっ!?」

「はい。高校生になってから」


優弥が驚いた声を上げる。


「すごいなぁ。俺、この前の家庭科の授業で、ハンバーグ生焼けにしちゃったんだよなぁ」

「生焼けって……逆にすごいですね」


どうやったら生焼けになるんだろう。赤いまま皿に盛ったとか?


(……ていうか、家庭科の授業で、ハンバーグ?)


それ、最近したような気がする。


「あの、優弥と静弥の学校って……」

北野高校きたのこうこうだよ?」

「……は?」


嫌な予感はした。したけども……!!


「同じ、学校なんですね……」

「え、そうなの? やったーっ! 学校でも鈴ちゃんと会えるーー!」

「……鈴でいいですよ、優弥」

「そう? じゃあ鈴って呼ぶ!」


まさか学校も一緒なんて、全然気が付かなかった。

その後も、沢山みんなと喋って……気がついたら、午後八時になっていた。


「……そろそろ帰りますね」

「えー、帰っちゃうの?」

「流石にこれ以上お世話になるわけにはいかないので……お邪魔しました」


私が頭を下げると、皆が「バイバイ」とか「また明日」と言ってくれた。


そのままお店をでた後、私は軽い足取りで帰路についた――。



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