第4話 資格マニア頭の毛が不自由な人と再会する。

「スキルって自由に見られたんだ」


 トモは、スキルのメニューを出したり引っ込めたりして遊んでいた。


(シカクから先のメニューって見られないのだろうか?)


「シカク」の中身を見ようと思ったら、トモがこれまでにとった資格333個がずらりと並んで表示された。


「何、にやけてるの?」

「資格の一覧を見ていたもので……」


 取得資格一覧を見ていて、顔がほころんでしまったようだ。


「え~見たい。トモってシカクいくつ持ってるの? 見てもいい?」

「いいよ」


 リオは相手のスキルを見るスキルを使用した。


「なるほどね。この『シカク』は、効果が何も表示されないけれど、このシカクの中身が……って、あれ? これ以上、先に進めない。シカクの中身は見られないよ」


「僕の『シカク』は僕だけにしか見ることができないってことかな。僕が見ても、甲種防火管理者、爬虫類好き検定などの効果は表示されるけど、まだ発動していない資格の効果は『???』って表示されている。ちなみに数は333個です」

「多い! スキルが100もあれば多才タイプだよ。トモの世界は皆そうなの?」


「僕が、資格マニアだから、僕の世界でも珍しいよ」

「だよね。でも、他人にシカクの中身を見られないのは好都合かも。だって、この世界では、スキル情報は秘密にしておくべき情報だし。それだけ多くのスキルがあるとばれたら、危険な目に遭っちゃうよ」


「だったら、今の状態がいいのかもね。ところで、リオはどんなスキルを持っているの? 登録の時、炎属性のスキルが多いみたいだったけど」

「よく使うのは、『ファイヤーブレス』、『炎魔法』、『威圧』、『鉄壁の守り』かなぁ。あと、今も発動中の『人間変化』。ほかにもよく使うスキルはこんな感じかな」


 リオは20ほどのスキルを紙に書き出して、トモに見せた。


「一部だけどね」


「へえ~さすがだね。炎以外の属性攻撃もできるんだ。『鋭い爪』とか、『空を飛ぶ』みたいなスキルはないの?」

「それは、私にとって普段できることだからスキルじゃないよ。トモだって、走ったり、物をたたいたりできるでしょ。自然にできないようなことを、魔力を消費してやっちゃうのがスキルって感じかな」


「身体能力を鍛えて身につけた腕力は、スキルではない?」

「そういうこと。身体能力を鍛えている途中に、それに関連するスキルを習得するってこともあるよ。スキルって生まれつき持っているもの、経験を積んでいつのまにか身につくもの、魔石から得られるものなどがあるの」


 リオは、スキルを書いた紙をごみ箱に捨てるとトモに言った。

「それじゃ、今日の目的、依頼を探しに行こうよ。そのために冒険者登録したんだから」


 二人は現在受託者募集中の依頼を見るため、歩き始めた。

 そのとき背後で、リオが捨てたスキルを書いた紙を拾う者に、二人は気づいていなかった。




 トモは依頼掲示板を眺めていた。


(電光掲示板? デジタルサイネージ? おそらく魔石の力だろう。タッチパネル式で、依頼にタッチすると詳細が表示されるのか。依頼はランク分けされていて、一番上がSランク、下がGランク。レッドドラゴン討伐のクエストランクはというと……)

「Sランク!」


 トモは、思わず声に出した。隣でリオがどや顔をしている。


「やっぱり、お強いですね」

「それほどでも~」


「あ、でも、レッドドラゴンの討伐依頼が消えた」

「え? 私倒されちゃった?」


 すぐに、レッドドラゴン討伐依頼の更新版が表示された。ランクはSSになっていた。


「ついに、レッドドラゴン討伐がSSにまで上がったか」

 隣でつぶやいたのは、坊主頭でダサいカッコウをした男だった。


 トモと坊主頭の男は目と目が合った。


「さ、さきほどはすいませんでした。この子、この町とは違う文化圏に住んでいて……」


「ああ、気にしなくていいさ。ダサいカッコウってのは、わかってやっている。ゲン担ぎみたいなものなんだ。このカッコウだとおいしいクエストに巡り合いやすいんだよ。それに、『ハゲ』って言われても気にしてないさ。禿げている者は皆、禿げちまったもんはしかたがないと思い、ハゲといわれることを受け入れているもんさ。君も禿げればわかるよ」


 男は、リオにも気づき、お互い会釈した。


 リオが誰かに向かって、小声で言った。


「だからって、みんなはまわりの人に気安くハゲって言っちゃだめだよ。これは、このおじさんの私論だからね」


「リオ、誰に向かって言ってるの?」

「気にしないでいいよ」


 男は続けて言った。

「だけど、また、君のようにふさふさだった時代に戻りたいと思うよ。早くも18歳ぐらいから、だんだん薄くなってきてさ、みんなに頼りにされるからいろいろがんばったんだけど、悩みが多かったからかな……」


(いい人だ。この人絶対いい人だ。この人の願いをかなえてあげたいけど、発毛関係の検定なんてないよな。毛髪を診断するような資格の存在は知っていたけど、結局僕は取得していないし……)


『条件に合う資格が見つかりました。スキルとして発動します。』

「は? 何の資格?」


「スキル:シカク毛筆検定!!」


「確かに、毛つながりだけど!?」

 

 男は、頭に異変を感じた。

(なんか頭がむずむずするな……。!!)

 

 男の頭は、髪の毛がふさふさになった。


 「おお! 何が何やらわからないが、髪の毛が! 俺の髪が!!」


 男は、急いでどこかに走り去っていった。


 トモはリオと顔を見合わせ、再度受注する依頼を探し始めた。


「ペットのミニリザード探し」 ランクF

「強盗団討伐」 ランクC

「騒音の発生源探索と騒音の停止依頼代行」 ランクD

「裏の小川に油が浮いているから原因を調査してほしい」 ランクF

「亡霊退治」 ランクA

「おじいちゃんの話し相手」 ランクG

「ごみの片づけ」 ランクG


 いろいろな依頼がある。


 リオは受注する依頼を決めかねている。


「う~ん。どれにするか決めた? 強盗団の討伐って、私たち向きじゃない?」


 トモに声をかけると、トモはすでに受注する依頼を決めているようだった。


「受注するのはこれだよ」


 そう言うとトモは、レッドドラゴン討伐の依頼書を指さした。

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