第3話 資格マニア職安へ行く。

 どれだけ走っただろう。トモはまたもや息が切れていた。


「てっきり、素材屋のおっちゃんにお礼を言いに行くかと思ったら……あれはダメだよ」

「おっちゃんにお礼も言いたいけど、すっごく気になってたの」


「でも、ハゲは悪口だから言っちゃダメ。それに、カッコウがダサいって教えたいという親切心だとしても、親しい仲じゃないと言っちゃダメ」

「ニンゲン関係って難しいのね」


 息を整えつつ、トモは次の行動を考え、リオに伝えた。

「この世界に転移魔法があることはわかった。僕がこの世界に来た手がかりになりそうだから、転移魔法の達人を探そうと思う。そのためには、お金……魔石も必要だろうし、この世界って魔石はどうやって稼ぐの? ダンジョン探索とか? 人見知りだから、働くなら接客業以外がいいな」


「それだったら……」




 リオはトモをある建物の前まで連れて行った。


「ここが『冒険職依頼安定所』略して、『職安』だよ。ここでクエスト、依頼を受注して、報酬をもらいま~す」


「愛称は、ハローワーク?」

「よくわかったね。公募で決まったんだって」


 大学卒業後すぐに市役所に奉職したトモにとって、世界は違えど職安に来るのは初めてだった。


 建物に入ると、係員が声をかけてきた。


「本日はどのようなご用件ですか? 予約はされていますか?」

「あ、いえ、予約はしていません。今日来たのは、」


 その先は、リオが答えた。

「冒険者登録に来ました」


「それでしたら、こちらの3番の発券ボタンを押して、番号札をお持ちください。番号順にお呼びしますので、しばらくおかけになってお待ちください」


 トモは発券された303番の番号札を持って、案内された椅子に座った。リオは、自分の発した言葉が人間に伝わったことがよほど嬉しかったようで、


「冒険者登録に来たって、ちゃんと言えてた? トモ以外で初めて言葉が伝わったって実感したよ」

 と、異常なまでにテンションが上がっていた。


「303番の番号札をお持ちの方、3番の窓口にお越しください」

 トモたちは3番窓口に向かった。




 窓口では年配の女性が対応した。


「こんにちは。今日は、冒険者登録に来たんだね? まずは、こっちの用紙に名前を書いとくれ。書いた名前がそのまま登録名になるからね」


 二人は、それぞれの用紙にトモ、リオと名前を書いた。


「さてと、二人とも、職安での冒険者登録は初めてだね?」


 二人とも、うなずいた。


「じゃあ、こっちの装置に人差し指と中指を差し込んどくれ。それが終わったら、こっちの装置を覗き込んどくれ」


(これはまさしく指紋認証と虹彩認証? 魔石の力なんだろうけれど、ハイテクなのか、ファンタジーなのかよくわからない世界観だな)


 トモとリオの指紋認証と虹彩認証が終わった。


「二人とも、冒険者登録システムのデータベースにないことが確認できたから、登録作業を進めるからね。次はスキルの登録だよ。冒険者が持っているスキルに合わせて依頼を紹介することもあるから、スキルを読み込ませてもらうよ。スキルを他人にさらすなんて、抵抗あるかもしれないけど、アタシたちには『正当な理由なく、職務上知り得た個人に関する情報を漏らしてはならない』って決まりがあるからね。安心してちょうだい」


 そう言うと職員は魔石をリオにかざした。魔石にはスキルを読み取る魔法がこめられているようだ。


「あんた! すごいね。『ファイヤーブレス』、『炎魔法』、『鉄壁の守り』、冒険に役立つ強力なスキルをたくさん持ってるんだね。まるでドラゴンのスキルみたいじゃないか!?」


 ギク! ギク!

 二人は古典的な反応をした。


「それに珍しい、『人間変化』のスキルも持っているのかい。これってモンスターがよく持ってるスキルだね」


 ギクギク! ギクギク!


「あ、それは、彼女、実は、若く見えるけど、その、人間変化のスキルを使ってて、実は結構年齢いっちゃってるんですよね」

(リオの本当の年齢は数百歳だから、嘘は言っていない)


 そう思いながら、トモは咄嗟とっさに答えたが、リオの正体がドラゴンであると疑われないか気が気でなかった。


「なるほどねぇ、人間が人間に化ける。このスキルにはそういう使い方もあるんだね。おばちゃんも習得したいもんだねぇ」

 職員は感心していた。リオの正体がドラゴンとは、ばれなかったようだ。


「次はあんただよ」


 職員は何度か魔石をかざし直して、トモにたずねた。


「あんた、スキルに『シカク』ってあるんだけど、効果が表示されないよ。いつも表示されないのかい?」


「自分ではスキルがないから見たことなくて」


「何言ってんだい、他人のものを見るには、スキルが必要だけど、自分のものならスキルなんて必要ないよ。見たいって思うだけでいいんだよ」


 トモは自分のスキルを見たいと思うと、目の前の空中にメニュー画面が現れた。


「見えたかい? そのメニュー画面は本人にしか見えないんだよ。覚えておきな。それはそうと、あんたが見ても、『シカク』にスキルの効果は表示されてないかい?」

「空欄になっています」


「おかしいね。神様のイタズラかね? アタシも初めて見るスキルだから、レアなんだと思うけど、実質使えるスキルは無しってことだね。あんたたち、二人で活動するのかい? リオさんは、こんなに強いスキル持ちだけど……」

「ええ、私が彼を守るので大丈夫です」


 リオが答えると、職員はトモに手招きして顔を近づけると小声で言った。

「あんた、いい彼女じゃないか。絶対手放すんじゃないよ!」


 職員がパソコンのようなものに、入力を続けようとすると、ニコニコ顔が一変、顔をゆがめた。


「情報が盗まれている!! すぐに魔力の遮断を!!」


 異常な状況を感じ、トモは尋ねた。

「何が起こっているんですか?」


「冒険者登録システムに何かが侵入して、冒険者のスキル情報を盗もうとしているって、警報が出てるんだよ」


(スキル情報が盗まれれば、リオがレッドドラゴンだってばれてしまうかもしれない。そうなれば、リオと一緒に行動できなくなる。何かこれを防ぐ方法は……)


『条件に合う資格が見つかりました。スキルとして発動します。』

 トモは静かにガッツポーズをした。


「スキルシカク情報セキュリティマネジメント!!」


 発動するやいなや、トモの体から投げ縄のようなものが現れ、一人の男を捕らえた。その男にトモや職員たちが駆け寄ると、男の手には何かの装置が握られていた。装置を確認した職員の一人が叫んだ。


「こいつ、スキル情報を盗んでやがる!!」


 すぐに、男は拘束された。男が持っている装置は、情報の受取専用で読み取り機につなげないと情報を取り出せないことがわかり、情報漏洩は未然に防がれたことが確認された。

 



 冒険者登録システムにも異常はないことが確認され、トモたちの登録作業の続きが行われた。


「はい、登録完了。これが冒険者登録証だよ。身分証明書にもなるから無くすんじゃないよ。

 そうだ、あんたの『シカク』ってスキルだけどね、おそらく『ホカク』って名前のスキルを神様が書き間違ったんだよ。だから、データベースではあんたのスキル『シカク』は、『ホカク』に書き直して、効果も『悪い奴を捕獲する』に変えとくからね。

 今日は、情報漏洩を防いでくれて、本当にありがとうね。困ったことがあったらいつでも来な。力になるよ。私の名前はニトだから覚えておいておくれ」


 トモたちは会釈して、窓口を後にした。

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