第12章: 日常の一コマ

翌日、カイルとティアは、ギルドから与えられたクエストを終え、ふとした余暇の時間を楽しむことにした。この日は特に大きな任務があるわけではなく、町を見て回るだけの一日だったが、カイルにとっては久しぶりに感じる穏やかな時間だった。


「今日はどこに行く?」ティアが無邪気に聞いてきた。彼女の目は輝いていて、どこか楽しげだった。普段から多忙に過ごしている二人にとって、こういったひとときがどれほど貴重かを改めて感じる瞬間でもあった。


「どこでもいいけど…街の外れにある市場を見てみるか?」カイルは少し考えた後、街のあまり見慣れていない場所を提案してみた。


「いいね、行こう行こう!」ティアは満面の笑みを浮かべて、カイルの腕を引っ張った。その勢いに少し驚きながらも、カイルは苦笑いを浮かべながら彼女についていく。


市場へ向かう途中、二人は町の賑やかな通りを歩きながら、時折足を止めて、色々な店を覗き込んだ。人々の声や商人たちの呼び込みが、街の活気を感じさせる。ティアはお店の前で立ち止まり、「カイル、これ見て!可愛い!」と、陶器の小さな人形を指さしてはしゃいだ。


カイルはその様子を見て、ほんの少しだけ微笑む。「お前、こういうの好きだな。」


「うん!なんか、癒されるんだよね~」ティアは嬉しそうにうなずきながら、その人形を手に取って眺めている。「でも、買えないよね…。こんなにお金もってないもん。」


「また今度な。」カイルは笑いながら、ティアに軽く言った。普段はお金のことにはあまり気を使わない彼だが、こうしてティアと一緒にいると、少しでも彼女の欲しいものを手に入れてやりたいという気持ちが湧いてくる。


その後、二人は町の外れにある小さな公園のような場所に辿り着いた。広くはないが、木々が並び、静かな雰囲気が漂う場所だった。カイルはその景色に見惚れながら、「こういうところも悪くないな。」と呟いた。


ティアもそっと周りを見回して、「うん、落ち着くね。カイルと一緒だから余計に感じるのかも。」と、少し照れくさい笑顔を見せた。


カイルはそれに気づき、内心で少し驚いたが、無理に話を続けることなく、「ちょっと休むか。」と、ベンチに座った。ティアもすぐにその横に座り、二人で静かなひとときを過ごした。


「こうして、のんびりするのも久しぶりだな。」カイルがぽつりとつぶやく。


ティアはうれしそうに頷き、「うん、私も。カイルと一緒だと、どんな時間でも楽しいもんね。」と、笑顔を見せた。


その後、二人は町を少し歩き回ったり、街角で小さな屋台の食べ物を買って食べたりした。普段の冒険とは違う、のんびりとした時間が流れていく中、カイルは少しだけ心の中で思った。この時間がずっと続けばいいのに、と。


日が暮れかけてきた頃、二人は宿へと戻ることにした。カイルはティアと一緒に歩きながら、今後どんな冒険が待っているのだろうかと考えていたが、その考えはすぐに頭の中で消えていった。


ティアと一緒にいることだけが、今は大切だと思ったからだ。


宿に戻ると、二人はそれぞれの部屋に入ることになった。互いに特別な存在であり、お互いを信頼していると感じているけれど、まだそれが何を意味するのか、はっきりとは分からなかった。ただ、一緒にいることで安心感を覚える—それだけは確かだった。


「また明日、頑張ろう。」そう自分に言い聞かせながら、カイルは眠りについた。


ティアも同じように自分の部屋に入ると、ふと顔がほころんだ。今日一日、カイルと一緒に過ごせたことが嬉しくてたまらなかった。お互いに安心感を感じながら、次に何をして一緒に過ごすのかを楽しみにしている自分がいた。


「明日も、カイルと一緒に頑張ろう。」ティアはベッドに横になりながら、心の中でそうつぶやいた。


この日は、二人にとって何気ない日常の中で、少しずつ心の距離が縮まるような、温かい一日だった。

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