第17話 選択肢
三人は会議室を出た。
僕と愛ちゃんだけが残された。
外からは何も見えないようマジックミラーフィルムが貼ってある会議室だから職場のみんなにはどんな会話をしていたかなんて分からないだろう。
まあ、想像はできると思うけど。
「愛ちゃん、大丈夫?」
まだ何が何だかわかっていない愛ちゃんは少し震えていたし、目が泳いでいた。
「いきなり来られてびっくりしたよね。」
「あ…はい。五反田さんが来た理由もよくわからないですね。例えば私が銀行に突撃したなら、上司が一緒に謝るなんてことはあるのかもしれませんが。なんであの人がわざわざ謝りにきたんだろう」
「これだよ、これ」
僕は胸元から写真を取り出して、旦那の浮気相手と五反田がホテルから出てくるところを見せた。
「…なにこれ…」
「五反田さんも、あの新人女性と関係があったみたいだね。まあ彼も家庭があるしね。バラされたくなければ蓮沼の奥さんに謝りに行けみたいなことが、書かれてたみたいで、慌てて謝りに来たんだって。」
全て僕が作り上げたシナリオだけどね。
愛ちゃんはまた考え込んだ。
ピュアな愛ちゃんには到底受け入れられない問題だろう。
かなりショックを受けた顔をしている。
愛ちゃんが思ってるよりも世の中は汚いからね。
ここで浮気相手をネタに笑いを挟んで和ませようか…。
「彼女こそ愛ちゃんの言う″ビッチ″なんじゃないの?愛ちゃんがなりたいって言ってた…」
″だからあ!私だって浮気してやるって決めたんですよぉ!ビッチに、ビッチになってやるってぇ!″
このセリフを思い出させるためにそう言ったら、愛ちゃんは顔を赤くした。
「ちっ違いま…いや違くないですけど!別に、ならないし!ていうか思い出させないでください!今はそんなこといいんです!これから…どうしていくか考えないと…」
「そうだね。」
少し冷静になった愛ちゃんは考えを巡らせたようだった。
僕は尋ねた。
「どうしたい?」
「わかりません。私の気持ちなんて…混乱してるし…」
「出世を気にしなくていいのなら、別れられるんじゃない?別れたい?」
本当は未練があるかもしれない。
だから離婚しない可能性もあって聞いてみた。
「わ…わかれ…たいけど…娘ちゃんの気持ちを考えると…」
「そうだよね。愛ちゃん、いいママだもんね」
本当に感心するよ。
「自分が1番つらい状況なのに、娘ちゃんを1番に考えてあげてすごいね。子供ファーストだ。」
僕はうらやましくて仕方ないよ愛ちゃんの娘が。こんなに母親から大事にしてもらえて。
「愛ちゃんそのために苦しくても結婚生活続けたんだもんね。なかなか出来ることじゃないよ。よく頑張ったね。」
あんなボロボロだったのに1年も耐えた愛ちゃんはすごい。
母親の強さが偉大だと、愛ちゃんを見て教わった。
愛ちゃんは気丈に振る舞おうとしていた表情を解くと、子供みたいに泣き出した。
抱きしめてあげたいけど、一応見えていないとは言え職場だしなあ。
「例えば籍だけ抜いて、娘ちゃんには父親は転職して単身赴任してるってことにするのもいいと思うよ。その場合ちゃんと養育費と慰謝料を請求すること。こんだけ証拠があるから弁護士さえつければ必ず取れるよ。ごねれば裁判起こせばいいし。まあ、あとは籍もぬかずに仮面夫婦にして、この関係を続けるのも手だと思うよ?有責である向こうは、愛ちゃんが離婚しないと決めれば言うこと聞くしかないから離婚できないし、不倫相手と一緒になることもできないしね。」
様々な提案をした。
まあすぐに答えが出るわけないんだけどね…
籍を抜くのって、入れる時よりも大変だし、精神が削られる疲れ方をするから。
だから本当はこんなこと、こんな時に言うべきではないんだけど。
僕の存在は?
さっきから娘がとか言ってるけど、僕は全然蚊帳の外で全く登場しない。
ずるいかもしれないけど、愛ちゃんが僕のことしか考えられないことを言おうと思う。
「もしも籍を抜いたら、もう僕は必要ないね」
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