とび箱

ヤマシタ アキヒロ

とび箱

「マー君はビビリね」

女の子に言われた


くやしかった


体育のとき

とび箱が跳べずに

カッコ悪かったんだ


4段のとび箱を

みんなやすやすと

とび越えて行く


ぼくはなかなか

助走が踏み出せずに

モジモジしていた


先生の笛でようやく

走り出したけど

やっぱりダメだった


とび箱の上に

ドッカリと

座ってしまった


みんなのクスクス笑いが

遠くで聞こえた


目の前が真っ暗だった


放課後

校舎の隅で

少しだけ泣いた


家に帰って

兄ちゃんに相談した


「きっとジャンプするのと

 手を付くのと

 同時に迷うから

 いけないんだよ」


兄ちゃんは提案した


みかん箱の上に

黒いテープを貼って

「ここに手を付く」

という目印にした


迷わないよう

何度も練習した


「あとはジャンプに

 集中すればいい」


手を付く場所は

見なくても

分かるようになった


つぎの授業のとき

自分の順番が来た

やっぱりドキドキした


助走がはじまって

大きなとび箱が

近づいてくる


ぼくはためらったが

思い切って

ジャンプした


そのとき

とび箱の上に

黒いテープが

見えたような気がした


ぼくはそこに手を付いた

トン!

体が宙を舞った


気が付けば

向こう側のマットが

ぼくを迎えていた


何がなんだか

分からないうちに

ぼくは「と・べ・た」


列に戻るとき

とくに拍手は

起こらなかった


ぼくをからかった女の子は

となりの友だちと

おしゃべりをしている


それでもぼくは

誇らしかった


家に帰って

兄ちゃんに報告した


「やったな」


兄ちゃんだけが

とても喜んで

頭を撫でてくれた


        (了)

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とび箱 ヤマシタ アキヒロ @09063499480

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