聴く

 夜雨燈前夢未闌,

 雲開月淡照空山。

 芳心已許花燈下,

 素影猶隨水自還。

 願君不負江湖遠,

 我亦長懷歳月安。

 一念深藏星斗下,

 餘生莫問路多艱。


 訓読:

 夜雨ヤウトウマエにて、ユメいまだけず。

 クモヒラき、ツキアワくして、空山クウザンらす。

 芳心ホウシンはすでにユルし、花燈カトウモトにあり。

 素影ソエイはなお、ミズシタガいてカエる。

 ネガわくはキミ江湖コウコトオきをわざれ。

 ワレもまた、歳月サイゲツヤスきをナガオモわん。

 一念イチネン星斗セイトウシタフカゾウし、

 余生ヨセイミチカタきをうことなかれ。


 夜の雨は 灯のほとりをしとしとと濡らし

 夢はまだ その終わりを知らぬまま

 雲がひらけ 淡き月が

 遠く静かな山を やさしく照らしていた


 心はすでに 花燈の下にてあなたへ託し

 水に映る影のように

 過ぎし日々を抱きながら それでもここへ還ってきた


 どうか――

 遥か江湖を行くその途にあっても

 想いを見失わぬように


 わたしもまた めぐる歳月を

 ゆったりに あたたかく 胸のなかで灯し続けよう


 ただひとつの願いを 星の下に深くしまい

 たとえこの先 どれほどの道が険しくとも

 もう、迷わない


 ーーーーーーーーーー

 後書き:

 この詩は、『雪の刃』第175話に寄せた一篇。

 過ぎし想いに応えるように、詩集に収められた「蓮」の詩へ――

 凛音から、灯火の夜に捧げる返歌です。

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