第9話 第二の魔眼

 アイテムショップを出た俺は人気がない路地裏まで行き、そこで転移眼を使い、先ほどゴブリンたちを狩った森まで移動をした。


 ちなみに路地裏で能力を使ったのは不用意に人に能力を見せたくは無かったためだ。この世界がどのような環境かまだわからない以上、自分の最大の個人情報である能力は基本的には隠しておきたかった。


 俺は魔物たちを探し求めて奥へ進んで行く。森の中は先ほどと同じで日陰になっている。鳥達の鳴き声や、風で揺れる木々の音が妙に心地いい。日が少しずつ傾いてきているからか、気温は先ほどよりも下がったように感じる。


「よしやるか!!」


 俺はさっそく狩りを始めようとする。先ほど買ったナイフの使い心地を確かめたかった。


 10分ほど探し回ったが、一度も魔物が出てこなかった。もしかしたら先ほどの狩りでほとんどの魔物を倒してしまったのかもしれない。


 そう考えた俺は、森の奥に向かって転移眼を10回ほど使い続けた。一番遠くに見える木を目標に瞬間移動を繰り返したため、おそらく2キロは先に進んでいると思われる。


 現在の俺のレベルは5まで上がっていたため、オーラ量はすでに50万を超えていた。いくら転移眼を使ってもオーラを使い切る心配はなかった。


 先ほどよりも奥に来たためか、移動してすぐに一体のゴブリンを見つけた。


 さっそくショルダーバッグ型のアイテムボックスから先ほど買ったナイフを取り出すと、右手に持ったまま敵の背後に瞬間移動した。メイン武器である石美は今回は温存するつもりだった。


 ゴブリンは背後に立つ俺に全く気付いていない。俺は、ゴブリンの首筋に向かって思い切りナイフを突き入れた。


 ナイフの切れ味が良いのか、ズブズブっとナイフはゴブリンに突き刺さっていく。ゴブリンは「ガアァァ」という叫び声をあげると地面に倒れ消滅していった。

 

「やだぁー、なにこれぇー。なんか感触がやだぁー」


 ナイフが体に入っていくときのヌプヌプとした感触が気持ち悪くてたまらない。刺している最中にブルブルと震えられたらなお最悪だ。


 あまりにも生々し過ぎてついおねぇ口調になってしまった。ナイフによる攻撃は石美で撲殺した時よりも生き物を殺す感覚が手に残ってしまう。


「やっぱナイフはやめて石美で倒していこうかな。でも、使い過ぎて石美が壊れちゃったら嫌だなぁ。しばらくナイフで頑張ってみるか……」


 俺は、出てくる魔物たちをひたすらナイフで倒し続けた。すると不思議なものでナイフを突き入れることに対して段々と何も感じなくなってきた。慣れってすごいなと自分でも思う。人間って逞しいな。


 この辺りの魔物は先ほどの場所よりもレベルが高いのか、割とすぐレベルが上がって行った。しばらく魔物を狩り続けているとレベルが8レベルに上がった。


「来た。思ったよりも早かったな。8レベルだ!! これで、第二の魔眼が使えるはずだ。いったいどんな能力なんだろう……」


 俺は恐る恐るステータスを開く、初詣の時におみくじを引くときよりも一万倍は緊張しているだろう。


「頼むぞ! 二個目の能力!」


 俺は勇気を出して【所持能力】と書かれた表示に触れた。すると一瞬で画面が切り替わった。すると二つ目の魔眼の説明が目に入った。


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 第二魔眼 【鑑定眼】 

 物質の生物の情報や価値を調べることができる。消費オーラを増やせば、人間の個人情報も見ることができる。通常鑑定——消費オーラ100。精密鑑定(人間にのみ適用)——消費オーラ10000。精密鑑定で見ることができる項目①名前②性別③年齢④ステータス⑤所持能力⑥嘘をついた数⑦犯罪歴


 ―――――――――――――――――――――


「おおーー。鑑定能力か、これがあると便利なんだよな。うん。神様。これも良い能力だよ。ありがとう!! ってあれ?」


 俺は最初の一分を見てマンガでよくある鑑定能力かと思ったが、続きの文を読んでいくと驚いた。


「なんだよ精密鑑定って、そんなことまでできるのか。聞いたことないぞ。ステータスや所持能力に加えて嘘をついた回数や犯罪歴まで見えちゃうのか。す、すげえな!!」


 思ってもみなかった能力に俺は少し動揺してしまう。


(っていうかこんなのありか? 個人情報は生活して行くうえで、何よりも大事だろう。ましてや冒険者として活動していく上ではステータスや所持能力なんてもっとも大事な情報だろう)


 俺は一瞬そんなことを真面目に考えてしまう。しかしすぐに俺は頭を切り替える。


「でも考えてみれば、この能力は神からのギフトなんだよな。使っていいに決まっているよ!! あの神様がくれたんだから!! 俺は地球でできなかったことを全てやって幸せになるためにここに来たんだから、能力はちゃんと活用していこう! ……まぁでもむやみやたらに精密鑑定を使うのは控えようかな。プライバシーは大事だし……。できるだけ常識の範囲内で使っていこう!」


 俺は鑑定眼をどのように使用していくか自分なりに方針を定めるとようやく新しい能力を得た嬉しさが込み上げてきた。


 転移眼をもらった時ほどの衝撃は正直言ってなかったが、鑑定眼もとても嬉しかった。というのも俺は子供の頃から図鑑を見ることが好きだった。


 花の図鑑や昆虫図鑑、動物図鑑はもちろん、鉱石の図鑑なども端から端まで読むような子供だった。中学までしか学校には通えなかったが一番好きな教科は理科だった。


 俺は新しく手に入れた能力に胸を躍らせ、ステータスを閉じた。通常の鑑定が100しかオーラを消費しないのであれば、ほぼ無限にできるようなものだった。レベルが8まで上昇した俺のオーラ量は80万まで上昇していた。


 どうやらレベルが1上がるたびにオーラ量は10万上がっていくようだ。神様からもらった【神の加護】はとんでもない代物だった。


「よしじゃあさっそく使ってみるか」


 俺ははやる心を抑えながらアイテムボックスから石美を取り出すと、心の中で発動と唱えた。すると、ステータス画面と同じように空中に半透明な水色の画面が浮かびあがった。そこにはびっしりと情報が書かれていた。


 ―――――――――――――――――――――

 鑑定結果


【名称】チャート

【重さ】9.7㎏

【直径】28.4㎝

【説明】堆積岩の一種。主成分は二酸化ケイ素。放散虫などの動物の殻が堆積してできた岩石。非常に硬い岩石で昔は加工され武器として使われることもあった。

【買い取り価格】100リル


 ―――――――――――――――――――――


「石美、やっす!! 100リルって。100リル硬貨までしかないんだから、実質最低金額じゃん。まぁでもこういうのは値段じゃないよな! 心だよな! 心! 安心しろよ! 俺は捨てたりなんてしないから!!」


 俺は少し悲しそうに見える石美の肌を慰めるように優しくこすった。やはり石美はとても固い石だったようだ。チャートと言う名前は図鑑で見たことがある。どうやら地球と同じ石がこの世界にもあるようだ。


「それにしても鑑定眼ってすげぇな!! 情報がまるわかりじゃないか!! よし! どんどん調べていこう!!」


 俺は木や、花、キノコや石、苔や昆虫、蛇に至るまで、周りに存在する生き物を次々と鑑定して行った。


―――――――――――――――――――――

 鑑定結果


【名称】水玉キノコ

【重さ】 100g

【大きさ】13.4㎝

【説明】水玉模様が特徴的なキノコ。美しい見た目とは裏腹に猛毒を持つ。誤って口  にすると三日三晩お腹を壊す。薬の材料になるが取扱いに注意が必要。

【買い取り価格】500リル


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 鑑定結果


【名称】ベニコブラ

【重さ】 1.8g

【体長】2m29㎝

【説明】真っ赤な見た目が特徴的な蛇。毒は無いが性格が獰猛ですぐ攻撃を仕掛けてくるため飼育生物としての人気は極めて低い。

【買い取り価格】800リル


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 鑑定結果


【名称】ライトコスモス

【重さ】 30g

【体長】 24㎝

【説明】白い花が特徴的なコスモス、日中に光を溜め、夜になると光を放つ。道しるべとして街道の脇に植えられることが多い。

【買い取り価格】300リル


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「いやー楽しいな。このコスモス。本当に綺麗だな。夜光るのか、どんな風に光るんだろう。見てみたい……。これ、本当にいい能力だな。俺、大好きだ!」


 どんな物にも名前があり、情報があることが楽しくて俺はしばらくの間、時間を忘れて夢中で鑑定眼を使い続けた。そして、100リル異常の価値があるものは次々にアイテムボックスに突っ込んで行った。


 岩の下にいた小さな芋虫の鑑定が終わった時、先ほどまでは真上にいた太陽が、少し傾いてきていることに気がついた。


 おそらく1時間以上は鑑定眼で遊んでいたのだろう。あまりに鑑定が楽しくてつい夢中になってしまっていた。昔から熱中しすぎてしまうのが俺の悪い癖だ。


 太陽の位置からしてまだ日没までは時間があるだろう。俺はさらにレベルを上げるために再び狩りを始めた。



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