伊東祥子 第14話
終業式。
橋での話し通り、凛からの連絡は無かった。そして午前授業が終わった今もまだ、連絡は無い。
式の最中や、ホームルームまでの休憩時間、凛を探していた。だけどその姿は何処にも見つける事が出来なかった。
(凛……)
俺は祥子に今日は一緒には帰れないと告げると、陽子とレナに祥子を託して教室を出た。
「あ、三嶋せんぱーい」
俺は最後にもう一度だけ一年教室のある一階の廊下を歩く。すると女子の明るい声に呼び止められる。
「あ、関戸さん。こんにちは」
「ふふ、先輩もこんにちは〜」
「ねぇ、凛がどこにいるか知らない?」
「え? 知らないんですか? 今日休みですよぉ〜〜、あの子卒業式も休んだし、こういうの嫌いなんじゃないかな?」
「あ、ああ、そうかもな? ありがとう関戸さん」
「どういたしましてぇ〜、あ! 先輩!!」
「ん? どうしたの?」
「凛と別れたら教えて下さいね? 私今フリーなんで〜〜ウェルカムしますよぉ?」
「え……?」
「だからぁ〜〜、加賀谷先輩と別れたんですよ。あんな暴力男なんて無理でーす」
「そ、そうか? おめでとう?」
「はいっ!! なんでいつでもウェルカムでーーす」
「ハハ……」
俺は明るく元気な関戸さんと、軽く手を振って別れると、昇降口で靴に履き替える。
加賀谷の人生は丸一年前倒しになっている。だけどそれは加賀谷の運命にとってそこまで重要な部分では無く、誤差で済むものなんだろう。
俺は久しぶりに一人でこの道を帰る。殆どが祥子の家に寄ってあの橋を使うか、陽子に付き纏われてこっちの一本手前の橋を渡るかだ。
(多分、これで終わる事はない)
それだけは確信が持てる。だけど、結果は全くの未知だ。運命はどう着地をするのか?
俺と凛の気持ちはどこに行ってしまうのか?
俺は胸に手を置く。凛と二度、橋で会った時に蘇ったこの小さな気持ち。これは多分運命が作ったものじゃない。凛を好きだって事に気付いた時に生まれた何かの残滓だ。俺の粉々に砕けた心を繋ぎ止めているなにかが後押しをしてるものだ。
俺は拳をつくり、自宅までの道を進んだ。
#
「凛……」
俺は小さく口を開く。
「先輩……」
俺は自分の部屋のベランダの窓際に立つ凛に疑問は抱かない。
「お袋は?」
「パートだって言ってた」
「健は?」
「ご飯食べたらどこか遊びに行った」
「じいさん達は?」
「来た時にはいなかった」
「そうか」
俺に動揺はない。この可能性は想定している。俺と凛の過去で決定的に違う事。それを運命が許さない可能性。だけどーー
「お茶、飲み切ったんだな? 新しいの持ってくる」
「うん……」
俺は荷物を下ろすと、部屋を出て台所に向かう。
凛を抱くべきなのか?
俺があのリスタートした日、あの日俺が凛を抱いていればもしかしたら凛は不安に駆られる事なく、伸び伸びと俺と付き合っていたのかもしれない。そして不安に煽られる事無く、新城を頼らなかったかもしれない。だけど、それはそれで運命はきっと干渉してきただろう。
この結末は変えれなかったかもしれない。だけど、あの時俺は何故凛を抱かなかったんだろう? 大人として中一の女子を抱くなんて有り得ないという理性か?
違う……
俺はまたプライドを選んだーー
あの日を後悔したままこの世界にきた、俺は凛との関係を間違いと断定してここに来た。だから抱くのは間違いだったと決めつけたんだ。三擦り半で終わる情け無い自分から逃げたんだ。
あの時よりもっと、もっと自分を守ってしまったんだ……
その結果、あの時の結果よりもっと酷い結果を生んだんだ。俺は本当ならあの時凛を抱き、情け無い自分を受け入れ、そしてその後もちゃんと凛に応えてやらないといけなかったんだ。
(やっと……あのタイミングで俺がここに来た意味が分かった)
俺はペットボトルと自分用のコップを手に、二階へと戻った。
#
ドアを開けた先に、ベランダの遮光カーテンからさす逆光の中佇む凛。俺はそんな凛から目を逸らすと、テーブルにお茶のペットボトルと自分のコップを並べる。
「なんとも、思わない?」
「いや、目に毒だ」
「汚い……から?」
「綺麗だからだ」
凛は黒い上下の下着姿で立っていた。それは、俺の二回の記憶の中に確かにある下着姿だった。
「本当にそう思ってる?」
「当たり前だ、お前は本当に綺麗で可愛い」
「ならなんでコッチを見てくれないの?」
「一つだけ答え合わせがしたいからだ」
「答え……合わせ?」
俺は凛の若く、幼いその裸体をしっかりと視界に収め、俺は凛に強い視線を向ける。
「それがお前の不安の原因なんだな?」
「!!」
「それが俺への不満なんだな?」
「せ、先輩……」
俺はもう答えを聞かない。その表情で全ての答えは貰ったから。
俺は席を立ち、凛へと向かいながら自分のシャツのボタンを一つづつ開けていく。
「先輩……?」
「先輩じゃない、幸人だ」
俺は最後にそれだけ伝える。両手で頬を挟むと、俺は彼女の唇を奪う。
チュ、チュパッ、チュルチュチュル……
静かな室内に響く二人の口付けは、あの初めて口付けを交わした日の様に、熱く長いモノだった。
「はふぅ……先輩……」
俺は呟く凛に応える事無く、彼女を胸に抱くと、凛の背後の左右のカーテンを片手で閉める。そしてそのまま両手で背中全てを撫でるように這わせる。
「んっ……」
そんな凛の小さな吐息を確認すると、俺は右手一つでブラのホックを外す。
「あっ」
ブラは俺と抱き合う凛の間で挟まれたまま、今はまだ下には落ちない。
俺は背中から手を離すし、凛の肩を両手に置くと、少し体を離し、再びキスをする。肩から滑り落ちる様に肩紐を導くと、自然と凛の胸は露わになる。だけどそれはまだ俺の視界には入らない。
「え」
俺は唐突に唇を離すと、肩を掴んでベットへと導き、彼女の膝を折り、そこにそっと座らせる。凛は胸を片腕で隠した状態だ。俺はそんな凛を軽く片手で押し、倒れこます。
ボフッ……
衝撃で一度閉じた後、再び開いた凛の薄い瞳を見つめながら、俺は彼女の頬に手を起きそれを這わせる様に、耳、耳たぶ、首筋、鎖骨、右胸、あばら、腰骨と、下へ下へと這わせる。
「んっ! んんぅ」
俺は目的付近の太もも撫でると、少しのスペースを確保する為に、少し太ももの内側に力を入れる。
「あっ……あぁ」
凛から聞こえる吐息を無視して、俺は彼女に覆い被さり、再びキスをするり。そして先程手を這わせたのと同じ様に、耳の外縁から耳たぶ、首筋へと舌を這わせる……
「や……うそ……」
俺はそんな声もまた無視して、唇や舌とは別に右手も動かし続ける。
まるで加湿器のスチームから上がったかの様な湿気がそこから感じる。俺は下着越しにそれを感じる割れた筋へと指を、優しく、優しくなぞらせてく……
「んっ! あっ! あぁ……」
瞳を潤ませる顔を確認すると、俺は指を止める事無く、顔を小さく膨らむ左右のうちの一つに口をつける。
「あっ!! あぁ! ああ……」
俺は、それを数分続けると、彼女が痙攣する様に飛び跳ねるのを確認して、腰にかかる下着を下に滑らす。それに反応した様に凛は腰を浮かす……
「凛? 良いんだな?」
「ゆきとぉ……お願い……」
俺はこの日、二度目の童貞を凛へと捧げたーー
#
俺達は激しく、今までずっと我慢していたモノをぶつけあった……
それは何回だったのか、どんな事をしたのかすら分からないぐらい、貪る様な時間だった。
そんな時間は終わり、今凛と俺は同じ天井を見ている。腕に乗った凛の頭と、半身から伝わる温かい、熱すぎるぐらいの素肌から凛の体温が俺に伝わる。
「ゆきと、ズルい」
「なにが?」
「何人? 何回?」
「凛が初めてだよ」
「嘘だよ……絶対嘘……」
「お前が初めてなんだよ」
耳に響く凛のまだ整っていない呼吸から漏れる、ゆきと、って呼ぶ声が、俺の中に染み込む。
「ちゃんといつか話をするよ」
「え? 何を?」
「俺の物語さ」
「ゆきと……」
凛は俺に抱きつく力を強める。流石に若くても、もう反応は……するみたいだ。だけど、もう時間はそんなに無い。
「凛、答えは出たのか?」
「……うん。だけど、もう一つの答えがまだなんだ」
「もう一つ……?」
「ふふ、やった。ゆきとにも分からないんだ?」
凛は一体何を悩んでいるのか、この変わり果てた世界では答えは出せない。
「ゆきと、今までありがとうね?」
「それで良いのか?」
「決心を……覚悟をあんまり揺さぶらないでよ」
「凛……」
凛は起き上がると、床に落ちたブラに手を伸ばす。俺はそれを名残惜しい気持ちで見守る。
「冷たっ」
パンツを履く凛からそんな小さな声が漏れる。これを聞くのは二度目だ。
「もぉ……脱がしてからにして欲しかったな」
「直接と上からじゃ違っただろ?」
「絶対初めてじゃないっ」
凛は俺に拗ねた様な顔を向ける。
「初めてなんだよ、お前が初めてだったんだ」
「もぉ、ゆきとは信用出来ない」
「そう言うなよ、俺はちゃんと分かったから」
「分かった?」
分かるんだ、今俺の中に溶け込んだなにかの正体が。
凛が俺の胸の中にいる。
俺は好きだった、凛の事をちゃんと好きだった。好きだからこそ、プライドに振り回されたんだ。
そして凛も俺をちゃんと好きでいてくれた。初恋として、それがやっと叶った相手として、凛は俺を好きでいてくれた。
俺の中にある何か、壊れた心を救った何か、それは凛の俺への想いだ。そして消えかけていたものは、あの最後の橋の下で蘇ったものは、俺の凛への想いだ。
だからこそ……
「辛い……」
「うん……」
もうその言葉を口から捻り出した時には、もう凛は制服を着た後だった。
「俺の所為だ」
「ううん、違うよ、ゆきとは私を幸せにしてくれた」
「違う、俺の所為なんだ」
「ううん、違うの。私はやっと分かったの」
「え?」
「ゆきとは私をちゃんと好きだったって!!」
そう満面の笑顔で俺に唇だけを重ねるフレンチキスを交わすとーー
「私に沢山の幸せをくれて、私に沢山の自信をくれて……本当ありがとうっ!!」
そう言って笑顔で部屋を出る凛を、俺は一人座ったまま見送った。
俺は、少しだけ目を瞑った後に立ち上がると、部屋のカーテンに手をかける。完全に閉め切れていなかったカーテンから差し込む光は、赤い夕暮れを告げる、柔らかく暖かな陽の光だった。
カーテンを開けると、そこには西へと沈む太陽があった。
きっと彼女は今頃、この茜色に染まる空の光に包まれながら、歩いているんだろう。
「日が暮れるまでに、帰れるといいな」
俺は彼女が、この暖かい希望の残された優しい空の光がある内に、家に辿り着いて欲しいと願った。
「じゃあな……凛」
こうして本当の意味で、凛との恋は終わった。
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