第11話 読めるし使える本

ある日の昼下がり、アスフォード医院で健康診断を無理くり受けさせられた僕。


定期的に来ないと助手が迎えに来てしまう。そして迎えに来られると部屋を整理しろだの換気してるのかだのとにかくやかましいのだ。


今日のお供はライちゃん、僕が気怠そうに準備をしたカバンの中に隠れていたみたい。

かくれんぼ中だった?早く帰って見つけて貰わないとね。急いで帰らなきゃ。


多分こっちが近道だ、町を抜けるなら直線距離に限る。


「らい!らいらいらーい!」


「ライちゃんもそう思う?だよねー」


そんな幸せな気持ちで入った裏路地を曲がると不幸せそうなカップルが道を塞いでいた。


「イオリス!なんなのよ一体!私達って付き合ってるんじゃないの!?」


「僕達がかい?初対面だと思うけど…しかし運命的な出会いだ。どうだい?これからお茶でもして恋の花を咲かせるっていうのは…」


「ふざけないで!!どうせ私なんか遊びだったんでしょ!もういいわよ…もういい!!」


不思議な会話だ。

女の子は人間だが…男の方は立派な翼を持った鳥のセリアンス…獣人と人間の恋とか結構あるのかな。


女の子は涙を流し僕達の横を駆け抜けていった。まあ人生色々あるよね。

僕は君達が興味あるような色々には微塵も興味ないけどね。


道も空いたし帰ろう、立ち尽くしている鳥のセリアンスの隣を通り過ぎようとした時、声をかけられてしまった。くっそ…油断した。


「困ったな…女の子の涙には弱いんだ…ねぇお兄さん、恋とはなんだろうね」


うわっ…。


「知らないよ…急いでるんだけど僕…」


「らい!らいらい!!」


「え…ライちゃん気になるの…じゃあ君、話を続けて…」


「精霊は正直だね、僕は恋とは…」


………………………。



「で、あるからして恋とはつまり陸に上がった魚のような…」


で、あるからしてじゃないよ!!なっがい!!長いよ!何時間喋る気?かれこれ小一時間喋って結局魚になったじゃないか!


「らい…」


「ライちゃん…もう行こうよ…この人自分の話が面白いと思ってるよきっと…悲惨だよこんなの」


「おっと、つい熱くなってしまったね。僕は旅人のイオリス。宜しくね」


「旅人?吟遊詩人とかじゃなくて?」


「僕は結果的に旅人になっているんだよ。不思議だよね。お金が無くなったら海で魚を獲ってね、自慢のこの翼で新鮮なうちに山奥の村で売っているんだ。これは漁師とも言えるのかな」


「結果的に?どういう事?」


「目が覚めると知らない土地にいるのさ。だから結果的に旅人って事だよ」


思ったより残念な人だった…。記憶がぶっ飛んでるって事?どうせ毎日深酒して乱痴気騒ぎしてるんだきっと。やだやだ不潔ですこと。


「どうやら僕は寝てる間に移動する病気らしくてね、初めての町だと思って散歩していてもさっきみたいに僕の事を知っている人もいるのさ」


随分と明るく言うけどそれ夢遊病だろ?そんな性格だとトラブルも絶えないでしょうに。


「らい…」


「ん?気になるの?ねぇその感じ、もしかして憑依する気?」


「らい!!」


ライちゃんはフワフワとイオリスに近付き…


「おお、もっと話を聞きたいのかい?ん?なんだろう」


光に包まれ…前髪が長く気の弱そうなライちゃんが現れた。

チラチラと見える綺麗な瞳、重たい雰囲気の茶色の髪の毛がまた可愛いよ!


「君は大精霊も使役しているのかい?すごいね!」


「違うよ…違う…そうじゃないんだ…」


「はわわ、イオリスさん…ライはあなたの手助けをできる精霊です。よろしくです」


「僕のかい?これは素敵、素晴らしい、僕に大精霊が…まるで夢のようだね!いつか吟遊詩人が謳うならそうだな…タイトルは…」


イオリスはバカだが悪い奴ではない、でもお父さんは心配。


「ライちゃんの固有魔法ってどんな?!お父さんに教えておくれ!」


「ライはその…お本が作れます!」


「本を作れる精霊?聞いた事がないな!どんな本が作れるのかな?精霊が作る本なのだからきっと素晴らしい本なんだろうね!」


本を作る固有魔法?うーん…魔導書とか禁書とか…とんでもない物を作り出す魔法の気配…。


「ライのお本は…色々貯まってるものを取り出してお本にします!きっとイオリスさんの寝ている間の記憶もお本にできます!」


貯まってる物?寝ている間の記憶もって事は…蓄積したものを取り出せる魔法?イメージが湧きそうで湧かない。


「僕の記憶が本に?それはなんて素晴らしいんだ!是非僕の夜の記憶を取り出しておくれ!」


「分かりました。それでは…」


ライちゃんはイオリスの頭に触れ…


司書のライブラリアン・人差し指フィンガー


次の瞬間イオリスの頭から一冊の分厚い本が取り出された。一体どれほどの記憶を…。


「おぉ!これが僕の本だね!どれどれ、夜の僕は一体どんな冒険を…」


イオリスは夢中になって読み始め、徐々に笑顔が曇り…真剣な眼差しに変わっていった。


少し時間がかかりそうなので僕は成長した娘とお喋りして待とうかな。

固有魔法も気になるし。


僕は色々な質問をし、ライちゃんの司書のライブラリアン・人差し指フィンガーの能力について理解を深める事にした。


「ねぇ司書のライブラリアン・人差し指フィンガーってもしかして魔力とかも取り出せるの?」


「貯まってるものだから取り出せます…!」


「でもさ、抜き取った魔力って使えたりはしないんだよね?読めるだけで」


「そんな事はないです、使えますよ。本を開いて魔力を使えば結構簡単に」


「そうなんだ、じゃあ水とかも本にできるの?」


「貯まっているものなので取り出せますし使えますね」


便利なもんだなぁ…。でも海水が蓄積した海とか綺麗さっぱり本にできちゃうって事?触りさえすればなんでも没収か…。まあイオリスなら大した事には使わないだろう。


ライちゃんと話し込んでいるとイオリスは自分の本を読み終わったようだ。


「僕は行かないといけない、色々ありがとう…行ってくるよ…」


「い、イオリスさん、ライも行きますー」


「ちょっと待って!何があったの!?待ってってば…!」


「お父様!行ってまいりますー!」


イオリスは鳥のセリアンスだ…大きな翼で大空に…ライちゃんと飛び立ってしまったよ…。


………………。



「イオリスさん、あの…夜のあなたは何をしていたんですか?」


「夜の僕かい?そうだな…とても無責任に楽しんでいたよ。いや、それは今僕が知ったから無責任になったのかな?」


「どういう事でしょうか…?」


「彼女を探すまでお話しようか、寝ぼけた男の愚かな冒険譚をね」

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